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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

企業とNPO/NGOの連携 ハードルを越えて社会課題に立ち向かうには

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近年にわかに注目されている企業とNPO/NGOなど非営利セクターとの連携。社会課題解決の有効な手立てと目されているが、互いの理解不足や偏見などから連携はそれほど簡単にはいかないのが現状だ。そうしたハードルを越え、ともに社会課題に立ち向かうにはどうすべきか? サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、企業とNPO/NGO、それぞれの当事者が膝を突き合わせ議論したが、見えてきたのは当事者レベルでの協調と信頼性、コミュニケーションの必要性であった。(いからしひろき)

【ファシリテーター】
サステナブル・ブランド国際会議
サステナビリティ・プロデューサー
足立 直樹

【パネリスト】
株式会社ファーストリテイリング
社長室 部長 小木曽 麻里 氏

認定NPO法人ACE
事務局長/共同創業者 白木 朋子氏

モニター デロイト
執行役員 パートナー / Social Impact リーダー 羽生田 慶介 氏

今セッションはサステナブル・ブランド ジャパンの法人会員コミュニティ「SB-Jフォーラム」において最も関心が高かった課題のひとつ。企業としては、「NPO・NGOと一緒に活動をしなければいけないのはわかっているが、どうすればいいのかわからない」のが本音。そうした現状を打破するためのヒントになることが期待された。

企業とNPO/NGOが連携する理由は――

口火を切ったのはファーストリテイリングの小木曽氏。新生銀行からキャリアをスタートさせ、米国への留学後、世界銀行に転職。2011年の震災後には児童養護施設を支援するNPO「BLUE FOR JAPAN」を立ち上げるなど、「民間、政府、非営利の各セクターを行ったり来たりしている人間」とは本人の弁だ。

単刀直入に、連携の必要性が生まれている理由を「社会課題が大きくなってきている」からだという。企業が取り組むべき社会課題が大きくなると、当然ステークホルダーが大幅に増える。しかし、その対応や理解に追いつけない企業も多い。そこで役に立つのがNGO・NPO だという。

同社も洋服を捨てずにサーキュラーエコノミーの中で循環させていく「サーキュラーファッション」に取り組んでいるが、自社で衣服を回収できない中小企業の場合は、その分野に詳しいNPO・NGOが力になるという。

羽生田氏は、今の日本の企業は「途方に暮れている」と独自の表現で説明した。その理由は2つあるという。まずはSDGs時代において、自ら率先して活動を行う「行動主体」であることを求められているが、「何をしたらいいかわからない、だけど責任だけはある」というジレンマに対して。

もう1つは企業がステークホルダーから問われる内容が変わってきていることに対して。昔は経営についてだけ説明すればよかったが、今は「10年後も存続しているか」という持続可能性についても説明しなければならない。いずれにしても、世の中を広く見ているNPO・NGOが「指南役」になってくれるという。

白木氏は、NPO/NGO側の視点で「企業と連携しないとグローバルな社会課題が解決しないから」だという。例えばカカオ産業から危険な児童労働が無くならないのは、安く労働力を使いたい企業と、安く商品を買いたい消費者による「需要と供給の仕組み」があるから。これを解消するには、経済を動かしている企業の考え方や行動を変えること、それを通して消費者にアプローチすることが必要だからだという。

どのように連携を進めるか

この問題に対しては、羽生田氏が独自の分類によって示した。羽生田氏によれば、企業はNPO/NGOの「専門性」「接続性」「正当性」を正しく評価し、連携すべきだという。特に重要なのは3つ目の「正当性」。というのも、企業が新規事業を行う時に必ずぶつかる壁が「なぜその(あなたの)会社なのか?」という問いかけであるが、この正当性を正攻法で獲得しようと思えば20年、30年の活動の蓄積が必要である。しかしNGO・NPOは最初からそれを持っている。上手に組めばその正当性を手に入れることが出来る、というわけだ。

NPO/NGO側の当事者として白木氏は、まず「私たちも同じ人間です」と訴えた。日本ではとかくNPO/NGOに対しての無知や偏見がひどいという。初めて会うのに「日本のNGOに存在価値はあるのか」などの暴言を浴びせられたことも。まずはそこの「心の距離感」を縮めたいと白木氏は強調した。

企業とNPO/NGOが上手く付き合うために

羽生田氏は2つの方法を提案した。1つは「NPO/NGOの力で自分(企業)を変えてもらう」こと。もう1つが「一緒に市場や世の中を変えていく」ことだ。1つ目の例が「デュポン」社。経営アドバイザリーパネルの中にNPO/NGOが常任で置き、事業ドメインをどう変えていくかなどの指南役になっているという。2つ目の例がシンガポールのとある企業で、メガネによって途上国の社会課題を解決するというプロジェクトにおいてNPO/NGOと協業しているという。

白木氏は、NPO/NGOの信頼性について吐露した。「もっと企業や生活者に信頼してもらえるように努力しなければならない」と自省する。しかし、「企業の側からも歩み寄って来て欲しい」とも本音を明かした。立場は違うが同じ人間同士、根本的な「願い」──世の中がこうあってほしい、自分らしく生きたい──の部分できっと分かり会える。そのためにも、「お互いに直接会って話合って欲しい」と訴えた。

小木曽氏は、「実際にNPO/NGOの人と話してみれば、企業同士とは全く別の関係性が開ける。ポジションに関係なくさまざまな人にも会える。そういう部分でも、うまくNPO/NGOを使うことを考えていくべきではないか」と、立場が違うことの逆説的なメリットを説いた。

企業とNPO・NGOが連携するために、明日から何をやるべきか

小木曽氏は、「まず大事なのは会話。日本では企業とNPO/NGOの人たちとの距離が遠く、偏見もあるが、それは話すことでしか解消できない」という。また、自らNPO/NGOを立ち上げるのも有効だという。同氏がNPOを立ち上げたのは副業として、だった。しかし、本業にもよい影響を与えたという。「もし私が社長なら社員やらせたいくらい」と言うほどだ。

白木氏は「今日、NPO/NGO の人と会ったら、明日その人にメールを送って、話を聞いてみるというのは」と言って会場を和ませた。

羽生田氏は、「明日できるかどうかわからないが」と前置きした上で、自社が行っている社会活動が「独りよがりになっていないか」をNGO/NPOにチェックしてもらってはどうかと提案する。一方でNPO/NGOに対しても、「バリュープロポジション」つまり、価値の再定義が必要だと説く。企業のニーズに合わせて自身の価値を細分化し、提案するというものだが、「そうでないと、日本のNPO/NGOはいつまでもボランティアのまま」と語気を強めた。

最後に、連携をするべきか否かではなく、しなければ企業の存在意義が問われる状況を理解しなければいけないと足立氏は話した。そのために企業は何をすべきか――。まさに決断力と実行力が問われている。

いからし ひろき

プロライター。2人の女児の父であることから育児や環境問題、DEIに関心。2023年にライターの労働環境改善やサステナビリティ向上を主目的とする「きいてかく合同会社」を設立、代表を務める。