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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

CSVをテコに日本発、地域発の新しい価値の提唱を――名和高司・一橋大学ビジネススクール国際企業戦略研究科客員教授

世界に向けて、日本を、地方を発信する日本の地域の宝を発掘し、環境・社会課題の解決はもちろん次世代につながるビジネスとして世界に発信するCSV(共通価値の創造)が今、求められている。「第2回未来まちづくりフォーラム」では一橋大学ビジネススクール国際企業戦略研究科客員教授の名和高司氏を講師に招き、CSVのヒントを探った。(廣末智子)

世の中に対して正しいことをするのがSDGs、あるいはESGだが、そこに企業が積極的に入って利潤を生み出し、経済的な価値を高められるようにしないといけない。企業にとって、単に社会貢献ではなくて、それが新しい利益を生み、再投資ができるサイクルが必要。これこそが、CSVの考え方だ。CSVの前にJを付け、JーCSV 、世界に向けて日本が発信する舞台が揃ってきたと思う。

実例を紹介する。もともと歴史ある奈良の晒屋だった中川政七商店は、日本の工芸を元気にするため、地域の工芸をコンサルティングし、磨き上げることをしている。13代目の現会長になってビジネスは10倍成長した。もう1社はアウトドアのブランド、スノーピーク。本社は新潟・燕三条にあり、都会にいながら自然とつながる生活を提案している。燕三条は江戸時代から刀などをつくる冶金加工の町だった。今、そこで中小メーカーの力を束ねて安心安全な商品をつくり、世界に羽ばたくブランドを発信している。これらはまさしく地方発のCSVだ。

大事なのは社会的に良いことをやると本当に企業価値は上がるのか、ということだが、これは4つの良いことがある。まず、売上高が上がる(社会や環境に悪ければSNSなどで叩かれ、売上高は上がらない)。次に、コストが下がる。その1つにはマーケティング。なぜなら口コミやSNSでいいね、と言ってくれるから。2つ目はオペレーションコスト。一旦は上がっても正しいことをすると、やり直しやリコールになることもないので結果的にトータルコストが下がる。ユニクロではこれを後始末ならぬ前始末という。3つ目は人件費。なぜかというと、そういう会社の人は3倍くらい仕事するから。自分たちがこの会社を通じて社会に正しいことをしているというのとやらされ仕事では生産性が違うのだ。そして、人間に関わるリスクが小さくなる。一人ひとりが正しい仕事の仕方をし、手を抜いたり、嘘をついたりといった人災が起きない。

良いことの4つ目は最も大事で、無形資産の価値が上がる。無形資産の1つにはブランド。正しいことをする会社のブランド価値はぐっと上がる。2つには知識資産。経済価値と社会価値を両立させるということは大変で、長くやっているうちにノウハウが貯まる。そういうものが知識価値として会社の価値となる。3つ目はネットワーク。いいことをしていることが世の中に伝わると売り込まなくてもお呼びが掛かる。これをプッシュではなく、プル効果という。そして4つ目が人的資産だ。これからは人が資産だということは各社共通の認識であり、社会的な価値を追求する事が結果的に経済的な価値につながるとはこういうことだ。

JーCSVといわれる日本的な価値の1つには、物理的な安全のその先にある、安心へのこだわりがある。その企業に守られている限り安心という信頼感にこだわるのは日本的に非常に大事だと思う。日本人は英語のクォリティ(質)に品(ひん)を付けた。品がある、品がない、というのはえも言われぬ美的な感覚で、質を上げる、ということとともに日本人の美徳だ。さらに日本の侘び寂びの世界、安らぎや癒しといったところに、今、世界中が求めている1つの価値観がある。最近、世界中でクリエイティブな人がやっているマインドフルネスも、実は日本が原点。こういうものを今一度、日本の価値として磨き上げ、世界に発信していく。日本発の新しい価値の提唱はいくらでもできると思う。ESG、SDGsも大事だが、その先にどれだけCSVというエンジンを入れるかが企業の中では非常に大事。地方発の中小企業には、中小企業であればあるほど一点突破の突破力がある。磨きがいっぱいある。地方発の SDGsをぜひ実践してほしい。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。