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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

グローバルなサステナビリティ実現のために──共感を呼び起こすイメージ作りが必要

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サステナビリティは特定の国や地域に限ったテーマではない。持続可能な社会は世界規模で実現すべきゴールだ。そのために企業は何を課題とし、どう取り組むべきか。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、グローバルな視点でサステナビリティ事業に取り組む日本環境設計、ブリジストン、日本航空の担当者に、その事例、直面している課題、今後について聞いた。そこから見えてきたのは、世界中の人々に共感を呼び起こす「あるべき未来」のイメージを描くことの必要性だ。(いからしひろき)

ファシリテーターは、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人の川北秀人氏。

パネリストは日本環境設計株式会社 取締役会長の岩元美智彦氏、株式会社ブリヂストン オリンピック・パラリンピック・AHL室 AHL企画推進部 AHLアリーナ企画ユニット課長の近藤大輔氏、日本航空株式会社 経営企画本部の亀山和哉氏。

まずはパネリスト3者が自社の取り組み紹介を行った。

日本環境設計は、経済と環境を循環させる持続可能なサステナブルな社会を作りたいという思いにより設立。以下の3つの考え方で事業を行ってきた。

1つ目は「技術」。服やペットボトルのリサイクル回数は通常1回、2回とされているが、「最終的に燃やしてしまうのでは本当の循環型社会とは言えない」と同社。そこでケミカルの技術を用いて「何回でもリサイクルできる」究極のリサイクル社会の実現を目指している。同社が川崎市に持つペットボトルや衣類のリサイクルプラント工場は世界唯一かつ世界最大(東京ドーム1.2個分)。この工場で生成した材料を、石油由来の地下資源に対して「地上資源」と同社では呼んでいる。

2つ目は「全員参加」。リサイクルによる循環型社会は特定の人だけが参加しても実現しない。あまり興味を持っていない95%の人をどう参加させるか。そのために、消費者にとっての生活動線である全国の小売店舗に共通の「回収スポット」設置を広めている。

3つ目は「正しいは楽しい」。岩元氏によると、リサイクルや循環型社会の話をすると1回は聞くが、「次は聞いてくれない」という。それはすなわち行動につながらないということだ。行動させるには「正しい」を「楽しい」にすることが肝心。同社では、古着を持ってくれば「デロリアン」(バック・トゥ・ザ・フューチャーに出てくるタイムマシン)に乗って写真を撮れるというイベントを実施。その結果、1時間待ちの行列ができるほどの盛況ぶりだったという。その他、マクドナルドのハッピーセットに付いてくるおもちゃのリサイクルや、携帯電話を集めて金銀銅メダルを作るといった仕掛けも行っている。

上記3つの考え方で岩元会長が実現を目指しているのが、消費者→回収拠点→技術→地上資源→メーカーをつないでいく「地上資源の経済圏」の実現だ。

すでにこの地上資源を使った商品が店頭に並びだしているという。消費者がそれを買えば買うほど地上資源経済圏の経済は回る。買うと co2が削減される。そして戦争やテロをなくせる。このように、「経済と環境と平和をイコールにしたかった」と岩元会長は言う。

「みんなが繋がると楽しさ技術は進化する。繋がっていくことが大事なんです」


ブリヂストンの近藤氏は、同社のサステナビリティの取り組み事例として、〈一人ひとりの生活を支える活動〉について紹介した。

同社はこれまで、自転車やスポーツ用品、22店舗展開するスポーツクラブの運営、オリンピック・パラリンピックの協賛活動、パラアスリートへの技術支援や地域の小学生との交流事業などを通じて、個人の生活をサポートしてきた。

「しかし、まだ十分ではない」と近藤氏は言う。

特に障害者や高齢者、パラアスリート、一部の恵まれない子供たちの前には様々な「社会課題」が障壁として立ちはだかっているからだ。

そこでブリヂストンでは、同社の強みを活用してこの社会課題を解決する活動を標榜。その名は「AHL」だ。ACTIVE and Healthy Lifestyleの頭文字から取ったもので、「すべての人々が活き活きとした生活を送ることができる社会の実現に貢献」という意味だという。

「ポイントはすべての人々という文言。この言葉には、誰一人として置いてけぼりにしたくないという願いが込められています」

AHLで取り組む社会課題は以下の2つだ。

1、高齢者の健康 寿命の延伸
2、障害者の社会参加(とりわけスポーツ参加)


これらは、少子高齢化先進国である日本が世界に先駆けて取り組むべき問題でもある。

取り組みに先立って、当事者にヒアリングしたところ、障害者や高齢者が生き生きと暮らすためには運動できれる場やプログラム、何よりきっかけが必要だということが分かった。

そこで同社は「AHLアリーナ」という共生型のスポーツ施設を作ることに。小平市の既存のスポーツクラブをリニューアルして、2022年の3月にオープン予定だ。

「AHLアリーナ」には、普通のスポーツクラブにはない以下の3つの特徴があるという。

■チェイス・ユア・ドリーム

通常のスポーツクラブにあるようなプログラムだけでなく、障害者や高齢者が生き生きと暮らすためのプログラムも提供することで、それらの人々にスポーツのきっかけを与え、行動の変容を促し、自己実現を果たすサポートをする。

■ダイバーシティ&インクルージョン

プログラムを提供するだけでは十分ではなく、プログラムに参加した障害者や高齢者、健常者が交流して「心のバリア」を取ってこそ本当の社会課題解決であるという考えのもと、お互いが交流するための広場やカフェ、イベントスペースを提供。

■オープン・イノベーション


AHLの活動を経済的にサステナブルに回すために、パートナーとの「共創」によって新しい価値を実現していく。特に同社の強みであるゴルフや自転車の動きを解析する技術を生かし、 障害者や高齢者のQOL を向上する物やサービスを新たに開発すべく、最先端の計測技術を設えたオープンイノベーション環境を設ける。

これらの特徴を持ったAHLアリーナを拠点にして、「すべての人々が活き活きとした生活を送ることができる社会の実現を目指す」と近藤氏は結んだ。

日本航空の亀山氏は、航空運送事業者としてのジレンマをまずは打ち明けた。それは、「飛べば飛ぶほど CO2を排出してしまう」という宿命だ。確かに昨今、航空機のCO2排出については、世界的な話題でもある。そうした中、同社は2020年度(来年3月末)までに2005年比23%のCO2削減を目標として掲げ、ほぼ達成できるところまできている。

ただしそれは総量の目標ではなく、出したCO2を有償トンキロ、つまり運んだ実績で割った数値だ。これは世界中の航空会社のやり方に倣ってはいるが、2020年度以降、航空業界で基準値を超えた分に関して排出権のクレジットを購入する、いわゆる排出権取引のスキームが始まる以上、「更にグローバルな視点でしっかりとCO2の削減を実行していかなければならない」という。そこで同社では、2020年から向こう4年間の「中期経営計画」に、単位(有償トンキロ)当たりでなく総量当たりの削減目標を入れ込む予定だ。

そうした現状を踏まえ、「航空機では主に以下の3つのCO2削減方法がある」と亀山氏は言う。

・日々の運行時の工夫
例えば、駐機中に客室の日よけおろす、機体に乗せる物を軽くする、エンジンを水洗いするなど。さらに離陸時は一気に加速上昇して巡航高度に入る、降りる時はタイヤを下げる時間を可能な限り遅くする、エンジンをふかさずグライダーのように降りる、逆噴射の出力を抑える、地上移動は片側エンジン止めるなど、細かな工夫をしてCO2削減に努めている。

・省燃費機材への更新
これが最も効果的だという。同社では2020年末には8割が省燃費の航空機に切り替わる予定だ。最新鋭のエアバスA350 は従来型に比べ約25%の省エネ効果があるという。

・バイオジェット燃料の活用 
一昨年の秋に米国のバイオジェット燃料会社「フルクラムバイオエナジー」に出資。現在米国でプラントを作っている。この会社は都市ごみ原料にバイオジェット燃料を作っている。来年の後半ぐらいに1号プラントが完成し、 JALグループとしては2024年ぐらいからまとまった量を調達できそうで、主に北米発のフライトで使う予定だ。

なお、エアバスのA 350は、工場のあるフランスから日本に運んでくる時の「デリバリーフライト」時は必ずバイオジェット燃料を使用しているという。バイオジェット燃料の供給はまだ少ないが、米国や欧州では量産体制が整ってきつつある。日本でも現在官民挙げて商業化を進めているところだそうだ。

同社は昨年実績で933万トンのCO2を出してしまっている。国内企業では上位20番目ぐらいに悪い成績だ。「この3つの合わせ技でなんとか削減したい」と亀山氏は誓った。

以上を踏まえ、ファシリテーターの川北氏から、日本環境設計の岩元氏には「海外との連携」についてさらに詳しく、ブリヂストンの近藤氏には「共創」のための具体的なビジョンについて、日本航空の亀山さんには、CO2削減のための従業員と顧客の「コミュニケーション」について、質問がなされた。

まずは日本環境設計の岩元氏。海外メーカーとの連携においては、その会社が持っている「技術は正しいのかという判断がポイント」とだという。その上で、「1、2カ所ではインパクト少ない」という。そこで同社では、世界に影響力のある企業と提携したという。

「これによって、世界200カ国へ、弊社のリサイクルプラントを輸出できる」

つまり、グローバルに展開しようとすれば、提携する企業も世界規模でなければならないということだ。

もう一つは「消費者をどう巻き込むか」ということ。それには「素敵な商品を作ること」だと岩元氏は言う。再生素材だからいい加減なものではなく、「作るんだったら素敵な商品を作って下さいとメーカーには言っている」という。最も大事なのは「今後は作ったものを回収しリサイクルするようなメーカーしか生き残れない」という覚悟だという。必死になって再生技術を磨き、それを消費者に還元する。消費者との距離を商品そのもので詰めていくことが大事だという。

同社では、こうした考えをグローバルスタンダードにするべく、欧米のメーカーと話を進めているところだ。当然ながら規制・制度づくりも重要であり、そのためには国を動かさなければならないが、特に欧州では技術の確からしさが一番重要視されるため、しっかりと技術の確かさを証明できれば、それが突破口になるという。

ブリヂストンの近藤氏は、「共創でどんなことをやりたいのか、その課題は何なのか」という川北氏の問いかけに対し、「そもそもなぜ共創が必要か」と切り返した。

「私たちが対象とする高齢者や障害者に、普通にワンツーワンでサービスを提供すると、開発コスト、提供コストがペイできず、サステナブルではありません」

そこで、様々なステークホルダーとエコシステムを組み、お互いのニーズを共に解決しながら、事にあたる必要があると考えた。これが「オープンイノベーション」という発想のもとである。では、具体的にはどんな「共創」を想定しているのか。

近藤氏が挙げたのが「水泳」だ。水泳はどんな重度障害がある人でも出来るスポーツ。しかし、インストラクターから全て自前で用意すると経済的に立ち行かなくなる。そこでインストラクターを養成する NPOとタッグを組み、さらには理学療法系の学校や研究機関と共同で水泳用の装具を開発することを考えている。

そのために同社では、施設に「流水プール」や「モーションキャプチャシステム」、「車椅子負荷計測機」など、普通のスポーツジムにはない装備を用意する予定だ。それらは、同社がゴルフや自転車の研究開発で培った技術であり、すなわち強みだ。ポイントは、これらを全てやりきると「デジタルデータ」になるということ。それを用いれば「事業としてグローバルに展開できる」という大きな可能性を示唆した。

日本航空の亀山氏は、「運用や顧客とのコミュニケーションの方法は」という質問に対して、「社員のモチベーション」を挙げた。というのも、日々の航空機を使ったオペレーションは社員が行っており、そのモチベーション維持が鍵となるからだ。同社が現在のようにCO2削減に積極的に取り組んでいるのは、2010年の経営破綻でコスト削減が高まったから。しかし燃料を使わないことは、それだけco2を出さないことにもなる。「違う光の当たり方がされてきた」と亀山氏は言う。

そこで社員に対して、コストだけでなく、自分が日々やっている仕事が世のため人のために立っているということを「いかに〈腹落ち〉して仕事をしてもらえるか、そのために社内報や教育など様々な方法を使って啓発している」という。

客とのコミュニケーションの部分では、例えば機体の軽量化のための持ち込み・受託荷物の軽減化の協力依頼がそれに当たるという。さらには機内食などでのプラスチックや過剰な包装の削減は、客とコミュニケーションをとりながら遂行していくべきと述べた。

それに対する川北氏の「顧客にデータを示して、はっきりと協力依頼をしてもよいのでは」という問いかけには、「情報のディスクロージャーについては不十分だった。CO2の削減についても、しっかりと計画をして、実績がどうだったかということをお客様に示した上で、一緒に取り組んで行けるよう提案したい」と答えた。

その後、会場からも、コットンやウールなどの天然素材のリサイクルの方法、ケミカルリサイクルのコスト面等の課題、リサイクルが進みすぎることによるごみ廃棄モラルの低下、日本のESG投資の現状などについて、鋭い質問が寄せられた。その個別の回答を全てここに記すことは差し控えるが、総じて言えることは、世界に認められて、それが世界のサステナビリティにつながるような取り組みは一朝一夕には出来ないが、それを実現することは不可能ではないということだ。

例えば、日本環境設計が行っているケミカルリサイクル(廃プラスチックを化学的に分解して化学製品の原料として再利用)は、従来のマテリアルリサイクル(廃プラスチックをプラスチック製品の原料として再利用)に比べてコストが高いが、例えばマテリアルを8割、ケミカルを2割とバランスをとれば、全体として十分コストに見合うと岩元氏は指摘。

「今のデータがどうかではなくて、10年後、20年後の社会をどうもって行くかの計算をしていくと答えは出てくる」(岩元氏)

さらに、岩元氏は、「サステナブルや循環型社会を作るためには、例えば服1着当たり20円から30円負担してもらえば実現できる。そんな程度で地球は守れる。一社一社だとコストは高く感じられるが、地球全体で見ればこの程度で済む。全体のコストをはっきりと数値化し、そこに向けて投資をしていくことが大事。数年後、10年後には期待をしてもらいたい」と力強く語った。

大事なのは、一人ひとりが、目先の損得ではなくグローバルな視点で地球の未来について考え、そのイメージを共有することだろう。それを示すことが今、サステナビリティを志す企業には求められている。