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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

未来適応型企業のフレームワークとは――米英と日本の事例を考察

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左からブレグマン氏、内藤氏、クローン氏、増田氏、ファシリテーターのピーダーセン氏

未来の経営や社会課題に適応したサステナブル・ブランドへの転換が企業に求められている。だが、サステナビリティやES(環境・社会)対応が競争軸になりつつある一方、フレームワークをどのように作りどのように評価するのかといった実行ツールはまだ確立されていない。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、米国と英国のフレームワークと日本企業の取り組みを紹介しながら、なぜサステナビリティ経営が必要なのか根幹的な課題を考察した。(松島 香織)

ファシリテーター
ピーター D. ピーダーセン (一般社団法人NELIS 代表理事 / 大学院大学至善館 特任教授)
パネリスト
トム ブレグマン (Future-Fit Foundation Corporate Engagement Manager)
内藤 康成 (ビジネスコンサルタント IPC本部 サステイナビリティソリューションチーム マネジャー)
増田 典生 (日立製作所 サステナビリティ推進本部 部長)
ダニエル クローン (Sustainable Brands International Partnerships Manager)

ファシリテーターを務めたピーター D. ピーダーセン氏は、米国の詩人ロバート・フロスト氏の「The road not taken(選ばれざる道)」の一節を例にして、「これからはサステナビリティ経営が普通の道になる。進むべき道をどのように見極めるかが重要」と話した。

企業によるマネジメント・プロセスは従来、Q(品質)、C(コスト)、D(デリバリー)でバリュー(価値)を作り出していた。だがこの5年間で、ES(環境・社会)の制約が顕在化し、SDGs(持続可能な開発目標)などの国際世論が活発になり、価値創造の土台や文脈が変わってきている。

「価値創造に向けた経営・管理『バリュー・マネジメント』の前置詞に『サステナビリティ』がなかったら、未来を改革できる企業になれない」とピーダーセン氏は力を込めた。「ESがなければバリュー・マネジメントにならない。そういう時代に直面している」とサステナブル・ブランドへの転換の必要性を訴えた。

トレード・オフの意味を考えるべき

米Sustainable Brandsが展開する「SBブランド・トランスフォメーション・ロードマップ」は、5つのカテゴリーとレベルがあり、シンプルに社内のエンゲージメントを測ることが可能なツールだ。

同社のダニエル クローン氏は、「ガバナンスに透明性を持たせること、オペレーションやサプライチェーンを再生型にしていくこと。システム、ブランド・インフルエンスなど、段階的にステップを踏んでいくしかない」と説明した。また、パートナーシップや次のステップを明確にすることが重要であると指摘した。

未来適応型の企業を評価するツールを開発している英国のFuture-Fit Foundation(フューチャー フィット・ファンデーション)は、企業活動は環境・社会が土台であるという「フューチャー フィット」を提唱している。

これまで企業は利益を上げていくことに重きを置き、環境や社会に負荷をかけていた。だが、企業活動は環境・社会が土台であり、利益とのバランスが必要である。それにはトレード・オフ(何かを達成するために別の何かを犠牲にすること)があり、それぞれがその意味を考える必要があるという。

同社のトム ブレグマン氏は、「企業は世界に向けてさまざまな情報を開示することが求められているが、その理由を理解することが重要だ」と話す。また評価方法について「昨年からどのくらいの進捗があるか、ランキング(他のセクターとの比較)はどうなのかといった見方や、短期的目標の指標が必要」とポイントを挙げた。

ピーダーセン氏は「事業の発展と環境・社会のトレード・オフに甘んじていたら、人類の先はないという時代に突入している。トレード・オフの反対、英語が母国語の人にはこんな言葉はないので理解しづらいかもしれないが、『トレード・オン』型のビジネスをやっていかないといけない。英語圏の方は、これを『Regenerative(再生型)』『Restorative(修復型)』のビジネスと呼んでいる。企業に問われているのは、かなりガタが来ている自然資本を再生、修復するビジネスをやるのかどうか。そして日本では、経営幹部層がそうしたことを理解しているかもカギになる」と語った。

変革の必要性を理解すること

ビジネスコンサルタント(BCon)は、2018年に「Future-Fit」を導入し、日本で唯一、Future-Fit Foundationとパートナーシップを組んでいる。2019年の実績では、13業界20社に提供しているという。

同社の内藤康成氏は「ISOと何が違うのか、なぜこのような指標を使うのか不安や混乱が出て来ると思う。だが、Future-Fitはサステナビリティを実現するコミュニケーション・ツールとしても活用できる」と話す。

また「変革する必要性が分からないことが反発を招く」と、サステナビリティ推進は、当該の多くの人が納得してやっていかなければならないことを強調した。

日立製作所は2つのフレームワークを使用しておらず、自社のサステナビリティ戦略をベースに取り組んでいる。「社会価値」「環境価値」「経済価値」を重要視するトリプルボトムラインによる評価を取り入れ、SDGsの17目標のうち11について、企業活動に関わりあるものとして整理した。

「事業が創出する環境・社会のポジティブ(バリュー)、ネガティブ(負荷)両方を見える化し、どのようにリスクヘッジをするかというストーリー・テリングができれば、それ自体が事業上の差別化になるのではないか」と同社の増田典生氏は話す。「これらはトレード・オフではなく『トレード・オン』の考え方。実装していかなくてはならないもの」と事業投融資の判断にも活用する考えだ。インパクトは定量・定性の両面からまとめ、ロジックモデルチャートにして今後の事業戦略会議で議論するとした。

ピーターゼン氏は、「サステナブル・イノベーションなくしてイノベーションはない。イノベーションは新しいバリューを生み出すもの。それが環境・社会を破壊していたら、何も生んでいないということになる。イノベーションに関わっている中核の部署がそれを理解していないなら、教育し、感化してください。2社が説明したようなフレームワークは、そうした教育にも有効だ」と語った。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。