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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

横浜の地元企業が考える、これからの時代の企業と地域のつくり方

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横浜の地元企業に焦点を当て、これからの企業と地域のあり方を探るセッションには、石井造園、横浜フリエスポーツクラブ(横浜FC)、関内イノベーションイニシアティブという異なる業種の3社が集まった。地域に根差した企業として、事業を成長させながら、地域課題を解決し、横浜の新たな価値を生み出すにはどうすればいいのか。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では熱のこもった議論が展開された。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=小松遥香)

ファシリテーター
山岡仁美 (サステナブル・ブランド国際会議2020横浜プロデューサー)
パネリスト
石井直樹 (石井造園代表)
上尾和大 (横浜フリエスポーツクラブ社長)
治田友香 (関内イノベーションイニシアティブ代表)

横浜を愛する、支える、繋げる、広げる、地元企業の底力

ファシリテーターを務めた山岡仁美プロデューサーは、横浜は開港のまちとして新たな文化や産業を受け入れ、大切に育み、価値創造に挑んできた歴史を持つと紹介した。

横浜市には国内の市町村で最多の約375万人が暮らすが、少子高齢化が進んでおり、2020年以降、人口が減少していくと予測される。2029年には65歳以上の高齢者が100万人に達する見込みだ。山岡プロデューサーは、今後の横浜には地元企業の力がさらに大切になると話す。

「持続可能で明るい未来を切り開くためには、環境への配慮と地域経済の活性化が重要です。それには、『社会課題を意識した大胆なチャレンジ』と『地に足を着け、確実に積み重ね、進めていく』ことが大事です。自社や当事者だけでなく『市民はもとより、社会を巻き込む』ことが必要です。地元企業の力が発揮され続け、積み重なることで真の持続可能性が実現でき、ブランドの価値創造が進んでいくのではないでしょうか」

地域貢献に軸足を置いたCSRで、世界レベルの持続可能な企業づくりを実践

石井造園は横浜市栄区で1965年から造園業を営む。従業員数11人の同社は13年前から、地域貢献に軸足を置いたCSRを意識し経営を行ってきた。ステークホルダーへの影響を配慮し、ビジネスを通して社会を良くすることを目指す企業に与えられるB Corporation認証を取得している。サステナビリティのリーダー企業として知られるパタゴニアやベン&ジェリーズなども取得している認証だ。パタゴニアの米国本社が初回で107点を獲得したという審査で、石井造園は106.5点を獲得した。

企業理念は「企業活動を通して幸せを共有する企業を目指す」。地域貢献を行う上で心掛けているのは「ついでに無理なく達成感のある活動」だ。その理由について、本業を通じて、時間と経費をかけない小さな活動を多く展開することで、その活動が運動に展開し社会的現象になることを目指しているからだと説明した。多く展開することによって、多様なステークホルダーとの出会いが期待できるという。

石井代表は、これまでの13年間で積み重ねてきた取り組みを紹介した。その一つが苗木の無料配布。これまでに6600本を配布した。最近はブルーベリーの苗をプレゼントしているという。2030年までに3万本配布することを目指している。緑化基金も設け、お客さんへの請求金額の下3桁を基金として集め、その同額を石井造園からも出資し、一年間集めた合計金額を市内で緑化活動に取り組む小規模団体に寄付している。年間約40万円近くになるそうで、アジサイ園ができるなど地域緑化に貢献してきた。

8年前からは「カサマルシェ」を開催している。地域で作られた野菜や焼き菓子、手作りの小物などを販売する。これまでに15回開催し、最近では500人以上が来場するイベントへと成長した。「とっておきの逸品を地域のみなさまへというメッセージを込めて行っています」と石井代表は語った。そして毎週、CSR報告会も開催しているという。

持続可能なチームづくりと、試合運営を目指す

横浜FCは昨年、持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム規格ISO20121を日本のサッカークラブとして初めて取得した。世界のサッカーチームでも2番目という。背景には、Jリーグ創設時のオリジナルチーム「横浜フリューゲルス」が親会社の経営危機により解散したという横浜FC設立の経緯がある。サッカーチームを存続させ、試合という興業を持続可能なものにしていきたいと強い思いを持つ。

上尾社長は、SDGsへの注目が高まる中、年間15万人ものサポーターをホームゲームに動員する影響力を使って、SDGsの認知向上と自社のサステナビリティへの取り組みを進めていきたいと考えている。

これまでも横浜市の地域貢献活動としてホームゲームが終わった後に商店街にサポーターが流れるような仕組みづくりや、障がい者サッカーの大会を運営してきた。しかし、そうした取り組みの多くは「ファンづくり」としてやってきたもの。これからは社会や地域をより良くするという視点から、新たな取り組みを行っていきたいと話す。「地域でこういう活動をしているチームだから応援しに行こうかな」という風にファンが集まってくれ、社会や地域がより良くなるという循環をつくっていきたいと考えている。

関内エリアをソーシャルビジネスの拠点に育てる

横浜市中区関内に拠点を置く、関内イノベーションイニシアティブの治田友香代表は「mass×mass関内フューチャーセンター」というコワーキングスペース、シェアオフィス、ワークショップスタジオを併設した施設を2011年から運営する。そのほかに、社会起業家・ソーシャルビジネスの担い手を育成する事業、ビジネスの成長支援事業、調査研究事業、コンサル事業を手掛けている。自らの会社を「まちづくり会社」と呼び、「想いを行動する力に変えて、まちを育てることが使命」と話す。

関内について、「起業家のまち、貿易のまちとして知られていますが、時代の流れと共に経済的に地盤沈下を起こしてきました」と説明。今年4月には、横浜市庁舎が関内から別のエリアへと移転することが決まっており、同市が市庁舎周辺に借りているいくつかのビルからも退去する。そうした空きビルにまちづくりや福祉活動などのソーシャルビジネスの担い手を集め、関内を活性化させていく起点となる場所としてmass×mass関内フューチャーセンターは設立された。

現在、600平米ある施設には約90社が入居している。ソーシャルビジネスの事業者のほか、IT関係、ウェブデザイナーや建築家などのクリエイターなどが拠点を置く。登記している企業数は250社以上という。設立以来、社会起業家を87人輩出し、1420人が起業講座を受講した。

治田代表は最初に描いた通りに進んでいない面もあると吐露しながら、ソーシャルビジネスの担い手を生み出すことにこだわり続けていると語った。ソーシャルビジネスとは、地域課題の解決を目的として、収益をあげつつ、継続的に取り組む事業体のことだ。

「行政が担ってきた福祉やまちづくりの取り組みがいまやボランティアだけでは回らなくなっている中、民間側の知恵と工夫で乗り越えていかないといけません。でも知恵と工夫と根性だけではまわらないので、講座を通して、さまざまな人と意見を交わす機会をつくり、先行事例を研究するなどしながら、起業の後押しをしています。

地域活動や地域経済の活性化を担う人たちが沢山いるということは地域の価値につながります。地域にユニークな文化を生み出すこともあります。住み続けられる地域にしていくことは、そこで暮らす人間の根幹を形成する上でも大事なことです。それによって選ばれる地域になります」

横浜の強みとこれからの地域づくり

石井代表は「横浜の持ち味は約375万人の市民力だと思います。横浜には、治田さんが話されたような社会企業家の方たちのほかに4つのプロスポーツチームがあります。他の都市にはない大きなブランド力があるまちです。その中で、横浜市は行政としていち早く環境政策や横浜型地域貢献企業の支援などに取り組んできました。企業もそれに反応して走ってきたここ十数年でした。いまSDGsとかサステナビリティと言われるようになり、ようやく時流を得てきたと実感しています」と語る。

上尾社長は、地域づくりにおけるプロスポーツの役割について、地域に一体感をもたらす力があると説明した。隣に住む人や地域の人とコミュニケーションをとる機会が減っている現代社会の中で、試合の観戦や応援によって、人々は感情を共有し合っている。

「サッカーも経営ですから、勝ち負けは経営を左右します。しかし、勝っても負けても応援していただけるチームであり、選手であることが必要だと思います。負けたら経営が成り立たないというのではいけません。横浜FCは今年13年ぶりにJ1で試合ができるようになりました。なかなかJ1に上がれなかったチームですが、試合の勝ち負けではなく、市民のみなさんには長く熱い思いを持って応援していただき、それが力になっています。市民のみなさんや地域に対して、勝ち負けとは別の価値の提供をしていくことがより一層大事だと感じています」

その価値提供の一環として、ホームゲームの中でSDGsマッチを行う予定だ。「サッカーに興味があり、スタジアムに来てくださった方々が知らず知らずにSDGsの17目標に触れられる場を提供したいです」。一番注目度の高い、横浜FCと横浜F・マリノスが戦う横浜ダービーの8月29日、SDGsマッチを開催したいと考えている。

治田代表は、現在の課題として、横浜で立ち上がった企業が最終的には東京に出て行って戻らないことを挙げる。資金や人材を確保する上で東京に負けてしまう現状をどう解決していくのか――。横浜に拠点を置き、事業活動を行う良さを伝えていくこと、資金調達の環境を整えることも必要だと話す。

同時に、横浜の新たな価値を見出していると言う。職住近接のライフスタイルが求められるようになり、必ずしも東京に出て行く必要もなくなっている。入居する90社の人たちの自転車通勤が増えている。「横浜の自然や、海の抜け感のある景色を見て、ここで働きたいという人が増えてきているのはいいことです。そういった特徴が文化としてかっこいいという風になればいいなと思っています」と話した。

石井代表は「横浜に戻ってこないというのはひどい話だよね」と苦笑しながら、「上尾さんが試合に勝とうが負けようが応援してもらえるチームづくりを行うと話されたように、われわれ横浜市民と行政が力を合わせ、企業が定着する土壌をつくることによって、勝ち負けに左右されない持続可能な経営を行う企業を根付かせることにつながるのではないかと思います。そうすることが横浜市民としての責任であり、果たすべき役割です」と力を込めた。

山岡プロデューサーは、「自分が住む町、自分が働く町がそもそも好き。不便なこともあると思いますが、そう思える魅力のあるまちづくり、魅力のある事業展開をしていくことがその地域のサステナビリティ、ブランド力に繋がっていきます」と締めくくった。

小松 遥香 (Haruka Komatsu)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。