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サプライチェーン上の人権リスクに企業はどう取り組むべきか

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左からファシリテーターの下田屋氏、パネリストの吉川氏、木村氏、中尾氏、水上氏

企業は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に従って、人権デューディリジェンスを実施し、人権の尊重を推進していくことが世界的に求められている。しかし、長く複雑なサプライチェーン上には、企業活動によって影響を受けやすい人たちが多数存在している。特に海外では移民労働者、国内では技能実習生を含む外国人労働者がその対象となっている。サプライチェーン上のこれらの人々への人権リスクに対し、企業は実際にどのような行動を起こしていけばよいのだろうか。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、サプライチェーン上の人権リスクに積極的に取り組む企業が登壇した。(岩崎 唱)

ファシリテーター:
下田屋 毅 (一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン代表理事)
パネリスト:
吉川 美奈子 (アシックス CSR・サステナビリティ部 部長/ダイバーシティサブリーダー)
木村 則昭 (カシオ計算機 総務部社会環境企画室 上席主幹)
中尾 洋三 (味の素 人事部人財開発グループ)
水上 武彦 (PwCサステナビリティ 執行役員)

外国人労働者の人権リスクにどう取り組むべきか

本セッションに先立ち、ファシリテーターの下田屋氏はスマートフォンから匿名で質問やアンケート調査できるサービス「sli.do」を使って、参加者の属性や人権リスクに対する取り組みについて質問した。その結果をふまえて、このセッションの背景を説明した。

「2011年に国連人権理事会から『ビジネスと人権に関する指導原則』で承認され、それをベースに、特に欧州で国別行動計画が出されていった。その中で2015年に英国で現代奴隷法が出され、以降、欧州各国で指導原則に基づいた法令化がなされ、人権デューディリジェンスを推進する方向に向かっている。その中で企業は人権リスクに対しどのように取り組んでいくべきかをパネリストの皆さんと話し合っていきたい」

会場でスマホアプリによるリアルタイムのアンケートを実施

人権問題を解決するシステム構築が必要

最初にPwCサステナビリティの水上氏がサプライチェーンでの移民労働者対応について報告した。ESGの「E」環境に対する項目では、地球温暖化が大きな課題となりサーキュラー・エコノミーなども注目されている。社会に対する項目では人権がもっともホットな話題で、とくに長いサプライチェーンを持っている企業にとって、人権リスクは大きな課題となっている。しかし、日本では人権と言われてもあまり関心が示されていない。

ところが世界から見ると日本は、人権に関して評判がよくない。とくに女性と外国人労働者への対応に関しては国際的に厳しい目で見られている。また、米国務省の国別人権報告書や人身取引報告書では、毎年のように日本の外国人技能実習生への対応の悪さが指摘されている。この問題に関して国の対応も十分ではない。

このような状況の中で企業の役割は重要になっているが、日本の外国人技能実習生や海外の移民労働者の問題には構造的な問題もあり、企業1社では解決が難しく、人権問題を解決するエコシステム、仕組みづくりが非常に重要になると指摘した。

リスク管理で実施したことがESGの高評価につながる

味の素の中尾氏は、タイの事例を交えながら報告を行った。世界130ヵ国以上でビジネスを展開している味の素は、サプライチェーンが世界に広がり、自分たちと直接関わっていないサプライヤーでの児童労働のリスクが高かった。

タイでは、2014年に英国の新聞が同国の水産業における外国人移民労働者に対する人権侵害を告発した。味の素もタイからエビを調達していたため調査を行った。この報道の後、タイ政府は法律を整備し児童労働リスクは低減した。また、米国の人権NGO「Issara Institute」がビルマ語のスマートフォンアプリ「Golden Dreams」を立ち上げ、移民労働者の通報システムを構築した。東南アジアでのこうした取り組みは日本よりも数段進んでいる。

また、タイのある水産会社は人権リスク対応を積極的に行い、その結果、高いESG評価を得ることができた。味の素では、2017年に現状の把握を行い、サプライヤーでの外国人技能研修生の労働状況に関し調査し、問題がありそうなところについてはさまざまな改善を行った。2019年にはASSC(一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン)主催の外国人労働者ラウンドテーブルに参加している。今後は、外国人技能実習生に関するガイドラインを策定し、サプライチェーン上の労働者の声を吸い上げるワーカーズ・ボイスのテスト導入に取り組んでいきたいと話した。

ステークホルダーと連携して人権リスクに取り組む

続いてアシックスの吉川氏から東京2020オリンピックを見据えた取り組みが紹介された。アシックスのサプライチェーンは、労働集約型であることと委託生産であるという2つの特徴があり、東南アジアを中心に20ヵ国以上、約150工場サプライヤーを抱えている。

こうした中でサプライヤー管理のアプローチとして、工場選定の段階で監査にかけリスク管理を行い、さらにガバナンス開示を求め、サプライヤーに対するセミナー開催などを実施し能力向上を図っている。こうした取り組みは1社だけでは効果が上がらず、他ブランド、業界団体、NGOなどのステークホルダーと連携して推進していく仕組みが必要だ。

アシックスでは、国際労働機関(ILO)のベター・ワーク計画やアパレル業界団体のSAC(サステナブル・アパレル連合)に参画することで、現地課題の情報収集や対応、サプライヤーの能力開発、労使関係構築、他のスポーツブランド間での連携アクションなどに取り組んでいる。

また、グリーバンスメカニズム(苦情相談窓口)を導入し、移民労働者リスクの高い国々や外国人技能実習生が在籍する日本の工場で、労働者が第三者に簡単に連絡できるシステムを構築した。東京2020オリンピックを契機に、サプライヤーの経営者を巻き込み、短期コストではなく持続可能なビジネスメリットへ認識を転換する働きかけを行っていると述べた。

CSRアンケートの実施や自主監査等で人権リスクを管理

最後はカシオ計算機の木村氏から、同社で実施している3つの施策が紹介された。一つ目はCSRアンケートで、2010年から日本、中国、ASEANの直接取引をしている500社以上の1次サプライヤーに対し実施している。内容は、CSR調達に関する国際労働規格SA8000やRBA(レスポンシブル・ビジネス・アライアンス、旧EICC)などの要求事項を盛り込んだ80項目からなるもので、サプライヤーが自己評価し、その結果を共有しPDCAを回すことで改善を目指している。2017年からは内容を刷新し、ワールドワイドで調査を実施するため日本語、英語、中国語に対応させた。回収率は4年連続100%を達成している。

二つ目は、取引先自主監査(訪問監査)でアンケートの裏付けを取るために2010年以降、毎年数社に対して行っている。

三つ目は、外部監査の導入で北米流通大手企業の監査要求に対応している。これらの取り組みは、みな基本的なものなので、これから人権リスクに対してアクションを起こそうという企業にとって参考になるのではないか。また、カシオ計算機が所有している工場は山形県とタイに1工場、中国に3工場あるが、そこでは技能実習生を含む外国人労働者の雇用は皆無だったと報告した。

セッションを終えるにあたってファシリテーターの下田屋氏は、「このセッションが皆さまの会社でサプライチェーン上での人権リスクに対して行動を起こすきっかけとなることを祈念します」と締めくくった。