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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ブランドは「グッド・ライフ」をどう実現するのか――サステナブル・ブランド国際会議2020横浜【Day1】

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「第4回サステナブル・ブランド国際会議2020横浜(以下、本会議)」が開幕した。会期は2月19日-20日の2日間。今年度のグローバル共通テーマは「Delivering the Good Life (グッド・ライフの実現)」だ。企業、自治体や官公庁、教育機関、金融機関、NPO/NGO、学生――。あらゆるブランドや人がその影響力を生かし、より良い社会をどのように実現していくのか。過去3回の開催を上回る参加者・登壇者が提言、事例の発表、意見交換をし、そして新たな協創の機会を得た本会議の初日の模様を速報する。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

4回目となる本会議の会場は横浜市のパシフィコ横浜。都内以外での国内の開催は初めて。これまでの開催で最も多い登壇者、セッション、講演が設定され、事前登録時点の参加見込み人数は2日間で延べ3000人以上にのぼった。本会議のキーワードは「パーパス」「サイエンスとテクノロジー」「コクリエイション(協創)」そしてそれらを伝える「ストーリーテリング」だ。Z世代(1995年-2010年生まれ)の若者たちの登壇セッション、招待プログラムが増えたことも今年の見所のひとつ。

オープニングで本会議の口火を切ったNPO法人「UMINARI」の伊達敬信代表もZ世代の一人。講演テーマは「ジェネレーションZと次世代の経済」だ。

Z世代は見えないところで失われる価値や豊かさに目を向ける「コンシャスコンシューマー(意識的な消費者)」であるだけでなく、社会的課題への関心も高い。伊達氏に加えて登壇した小西遊馬さんは、慶應義塾大学の2年生で映像作家/ジャーナリストの肩書を持つ。台湾デモやロヒンギャ難民の姿に強烈なメッセージを込めた、自身制作の動画を流し、「自らの目で探求し、真の豊かさを定義しようとする流れは止められるものではない」とこれからの社会を力強く語った。

伊達氏は「経済は生産者と消費者の協働、社会全体での価値創造の時代に突入している。次世代の経済の需要に応えるためには、商品やサービスを通して誰一人取り残さない社会をつくっていく必要がある」とし、「複雑化する課題に目を背けることなく、それをも上回るダイナミックな協創で豊かな社会を築いていきましょう」と世代や立場を超えた協創を呼びかけた。

企業トップやSB創始者が登壇:基調講演

本会議の開催地、横浜市の小林一美副市長はウェルカムアドレスで「横浜の最大の強みは375万の市民力と国内外都市とのネットワーク。今後、イノベーションの力を持つ企業との連携にも、より力を入れていきたい」と協創の意思を語った。

サステナブル・ブランド国際会議創設者のコーアン・スカジニア(米サステナブル・ライフメディア社CEO)は「気候リスクなど課題は多く、私たちは孤立しそうになっているかもしれない。しかし、私たちは協力する。それが新たな方向に時代をシフトする唯一の方法だ」と協創の必要性を強調した。「ブランドとはロゴマークではなく、皆さん自身の人格であり行動のことだ。そしてサステナビリティは環境対策だけでなく、人類をつなぎ未来をつくっていくことだ」とブランドの役割を露わにした。

「ブランドは影響力を使い、再生可能性を高め、文化やガバナンスと未来をつなぐ存在だ。ブランドは消費者のふるまいを変える上で非常に重要な役割を果たしている。手を携えて、子どもたちのために、素晴らしい未来をつくりましょう」(コーアン・スカジニア)

資生堂は2019年、新たな企業ミッション「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」を掲げた。大きな目的はグローバルなブランドとして価値を高めることだ。魚谷雅彦社長兼CEOは「イノベーションをつくるのは人だ。多様性から知恵や経験やアイデアが出る、ものすごい力だ。これからの企業経営の重要な柱」とダイバーシティが同社の成長をけん引したことを強調した。

「真のダイバーシティの実現には、ジェンダーだけでなく国籍などの多様なバックグラウンドがあることを理解し、その違いをリスペクトすることが必要。そうすれば新たな発想が生まれる」(魚谷雅彦CEO)

同じく2019年にESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を打ち出したのは花王だ。同社は「きれいであること」を・清潔で・きちんと整っていて・美しいという3つの要素で定義する。外見だけでなく「ふるまい」も含め、自然を大切にして慈しむことが「きれい」であることとした。

花王は高齢者や障がい者も使いやすいデザインを考案している。例えばシャンプー、コンディショナー、ボディソープのそれぞれのボトルキャップに特有の凹凸をつけ、視覚に頼らず何かがわかる工夫だ。さらにこれを業界標準にし、どのブランドでも共通の形状で識別を可能にすることも視野に入れる

マンツ氏は「次の10年では、製品を100%ユニバーサルデザイン・ガイドラインでつくる」という意欲的な計画を同社が持っていることを明かした。

教育と高齢者介護の視点でサステナビリティに取り組むのはベネッセホールディングス。基調講演で安達保社長は「よく生きるという(同社の)企業理念はSDGsの目指す方向とも一致している」と話した。教育分野ではSDGsに貢献できる人財を育成し、社会に貢献する一方で介護事業が近年、同社の売上高の3割にまで成長している。同社では超高齢化社会という課題をSDGsの18番目の課題と捉えているという。

講演の中で、日本の大人は、アジアでもっとも「職場以外での学習や自己研鑽をしていない」というレポート結果が示され会場がどよめいた。「学歴ではなく学習歴が重要になる社会にしていきたい」と安達社長は決意を述べた。

企業が社会課題解決のためのイノベーションをどう生み出すか――。経営視点でも現場視点でも頭を悩ませるテーマだろう。基調講演のスペシャルセッションに登壇したのは、セイコーエプソンの小川恭範常CTO(最高技術責任者)とオムロンの宮田喜一郎CTO。これまでに数々のイノベーションを実践してきた、ものづくりに携わる両社の示唆に富む考え方を、技術開発部門トップの2人が共有した。

小川氏は「社会課題を解決するときに、私たちが開発した技術をオープンにし、多くの人に使ってもらえば技術はもっと役に立つんだ、ということを考えている」と積極的なオープンイノベーションの推進姿勢を見せた。

宮田氏は「社会課題の規模が大きくなっている。(小川氏が)仰るように、一社では対応できなくなっている。どこまでを、誰と取り組むのか、社会に実装するときに責任を担うのは誰なのか、自治体、行政なのか企業なのか、実装システムのアーキテクチャが非常に重要になっていると感じている」と協業を進める上での社会のあり方に言及した。

一方で、サステナビリティを打ち出すことそのものがチャレンジとなるブランドもある。フィリップ モリス ジャパン(PMJ)合同会社の井上哲副社長は「いま、煙草を吸っていない人は、今後も吸わないでください。いま、煙草を吸っている人は禁煙してください。それがベストな選択」と呼びかけた。かつて紙巻き煙草を事業の中心に据えていた同社は、「ベターなチョイス」として加熱式煙草事業にシフトしている。

「もしPMJが明日から紙巻き煙草事業を完全にやめれば、人がより健康になるかと言えばそうではない。喫煙者はほかの販売事業者から買うだけだろう。ベターな選択として加熱式煙草を、現在の喫煙者だけにターゲットして展開する。それがPMJの、社会に良い変革を起こすチャレンジだ」(井上哲氏)

アクティベーション・ハブでは活発な交流も

午後には数多くのブレイクアウトセッションが開催されたほか、来場者が自由に出入りできるアクティベーション・ハブ会場のステージではセッションやレセプションでの抽選会などが行われた。ブランドや来場者個人が、さまざまなつながりをつくる「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」の重要なプラットフォームスペースだ。

また日産リーフの実車展示など企業の展示ブースが設けられ、多くの来場者が訪れていた。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。