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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

製品やシステムの枠組み超える、課題解決型ビジネス――未来まちづくりフォーラム④しごとづくりセッション

社会課題解決型のビジネスでは、優れた製品やシステムが新しい「仕事」を創出し続ける傾向が強い。エプソンのオフィス用機器「PaperLab」はそれ自体の機能、課題解決能力もさることながら、人の意識改革を促す導入後の運用が肝となるという。またフィンランドで世界に先駆けて実装されたMaaSシステムは「モビリティ」という枠組みを超えて、まちづくり、しごとづくりに生かされる。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

製品の先にある意識変革の取り組み

エプソンが2015年のエコプロで発表し、2016年に販売を開始した乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」。水を使わず、不要な使用済みコピー用紙を、その場で新たな紙資源へ再生する画期的な製品だ。

エプソンの大木崇嘉氏

「PaperLabはこれまでにないソリューション」と話すのはエプソンの大木崇嘉氏。「年間で約7-8トンの紙を処理可能。そのぶん、ごみが減るということ。『循環型オフィス』を実現する」と大木氏は説明する。溶解などで処分するはずだった古紙を再生するため、エネルギー面でも優位性があり輸送などで排出するCO2の削減にもなる。

セキュリティ面のメリットもある。古紙を繊維レベルまで分解し、再構築するため、シュレッダーとは比較にならない安全性を保つ。さらに、オペレーション上、実際の導入例で障がい者雇用やシニア雇用の創出にもつながっているという。

「初めてPaperLabを見たとき、率直に言ってワクワクした」と、大田区の鈴木宣子氏はその出会いを語る。同氏は地球温暖化対策に関わる領域、低炭素化社会の実現に向けた取り組みを主業務としている。前述のエコプロで実物を見て、2017年に同区への導入を実現した。

大田区役所で環境対策などを業務とする鈴木宣子氏

大田区では、東日本大震災を機に省エネの取り組みが進んでいた。しかし区役所内で、コピー用紙の使用量は増加していた。紙類は区民とのコミュニケーションに欠かせないが、A4に換算すると年間9550万枚、積み上げると高さが富士山2.3個分(2017年)という膨大な使用量に愕然としたという。「PaperLab導入はコピー用紙使用量の削減による環境負荷低減に貢献する。さらに環境活動、意識啓発へも活用ができる」(鈴木氏)

古紙を価値のある「資源」として職員に意識付けをし、設置場所を公開することによって区民への啓蒙活動にも活用。セミナーなども開催する。また古紙の回収、点検作業を障がい者雇用に結びつけることも予定している。区の環境保全意識や取り組みを積極的にPRすることで、PaperLabに新たな価値を付与している。

「PaperLabを1台導入しただけでコピー用紙の削減目標を完全に達成できるわけではない。しかし区民や職員の中に『環境』という選択の物差しを育てることが、他の目標達成にもつながる。それが全員参加で環境配慮行動を実践する力となると信じている。ひとつひとつの取り組みの効果はすぐには見えないが、100年後200年後を見据えてこれからも取り組みたい」と鈴木氏は決意を新たにする。

MaaSシステムが社会にもたらす新しい「仕事」

日本でも近年、注目が集まる「MaaS(Mobility as a Service)」。国土交通省はMaaSを「ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念」と説明している。具体的には例えばスマホのアプリを利用し、移動経路の検索、チケット手配、支払いなどを統合して提供するサービス。そのMaaSの元祖とも言えるのが、フィンランドにおける施策だ。

フィンランド大使館 商務部 の田中浩一・上席商務官

「MaaSとは単なるモビリティ分野の話はない。まちづくり、しごとづくり、高齢化問題や教育など、社会課題の解決に貢献している」こう話すのフィンランド大使館の田中浩一氏。フィンランドにおけるMaaSの位置付けや、社会への実装に関する課題、手法を詳細にレポートした。

MaaSをしごとづくりという文脈で捉えると、デジタルシフトが新しい産業や雇用を創出する。ここで創出される産業、雇用は、特定の地域、企業といった枠組みから外れたところで成長するという特徴を持つという。MaaSの性質上、多くのステークホルダーを横断し積極的なオープンイノベーションが活用されるプラットフォームとなるためだ。

フィンランドが世界でMaaSの先駆けとなった背景には、さまざまな要因があるが、ひとつには、同国が日本と同様に自動車社会で、渋滞、事故による社会的損失を防ぐことが課題となっている点が挙げられる。安全かつ持続可能で、利用者と運営側の双方に安価な移動サービスを、行政が提供するという方針を打ち立てている。田中氏によれば、以下の4つのポイントを踏まえてMaaSが導入された。

・アーバニゼーション:都市化により、交通の地域格差を是正する。
・デジタライゼーション:デジタル化で得られるデータは徹底的に活用する。
・クライメイトチェンジ:環境負荷の少ない移動サービスにシフトする。
・デモグラフィックチェンジ:超高齢化社会を迎え、高齢者の移動サービスの提供にも留意する。

進行役はPwCコンサルティングの野口功一・常務執行役員

MaaSに関わるステークホルダーは、既存の交通事業者、インフラ建設や運営に関わる事業者、ルールを定め許認可をする行政だ。MaaSのオペレーターはこれら3者の中心に位置し、フィンランドの場合はスタートアップ企業がその役割を担う。MaaS Global社が提供するサービス「Whim(ウィム)」は2019年、日本に上陸するとも言われている。

進行役を務めたPwCコンサルティングの野口氏は「日本でのMaaSの導入の一助となるような、どのようなフィンランドとの協働の取り組みが考えられるか」との質問を投げかけた。これに対し田中氏は、「フィンランドではMaaSをビジネスとして捉えている。またフィンランドは国の規模が小さいので東京、日本に比べると社会実装、社会実験が容易。ノウハウを日本の地方自治体や企業とシェアし、日本版MaaSを協働して作るというアプローチはあるのでは」と可能性を示した。