人権リスクをいかに減らし、ブランド価値にできるか
SB2019Tokyo
セッション「人権リスクをいかに減らすか」。左からファシリテーターの下田屋毅氏、EY ジャパンの牛島慶一氏、日本たばこ産業の竹中順子氏
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サステナブル・ブランド国際会議2019東京のセッション「人権リスクをいかに減らすか」では、「ビジネスと人権」に関する法制度の世界的な動向を踏まえ、企業がいかにサプライチェーンにおける人権リスクを減らす取り組みを進めているのか、具体的な実践を踏まえ議論された。(オルタナ編集部=堀理雄)
セッションには、EY ジャパン 気候変動・サステナビリティサービス リーダー/プリンシパルの牛島慶一氏、日本たばこ産業(JT) サステナビリティマネジメント部次長の竹中順子氏が登壇。ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)代表理事の下田屋毅氏がファシリテーターを務めた。
セッションの冒頭、牛島氏は世界各国の法制度に、強制労働や児童労働など人権に関するリスク情報の開示やデューデリジェンス(リスクの認識・防止・対処プロセス)の義務を企業に課す「ビジネスと人権」の視点が入り始めている現状を解説した。
2011年に国連人権理事会で承認された、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準である「ビジネスと人権に関する指導原則(ラギー原則)」に基づき、2013年以降20カ国以上で「国別行動計画」が策定され、法制化が進んでいる。
牛島氏は、英国の「英国現代奴隷法(2015年10月)」をはじめ、オランダ、フランス、米国などの法制化の例を紹介。2019年1月にはオーストラリアでも「現代奴隷法」が施行されたことに触れ、「英国の現代奴隷法とのつながりが見て取れる」と指摘した。
一方日本では「国別行動計画」はまだ策定されていないが、2018年11月に政府が同計画を作成する旨を公表したことを踏まえ、牛島氏は「今年大阪で開催されるG20に際して、策定に関する動きがある可能性がある」と指摘した。
続いて企業の人権リスクに対する取り組みとして、日本たばこ産業の竹中氏が同社の児童労働撲滅に向けた実践を紹介した。
世界第3位のたばこメーカーである同社は、アフリカや南アメリカを中心に、30以上の国から葉たばこを調達。3万人以上の農家と直接取引を行い、5万人以上の農家と間接取引を行っている。
児童労働の撲滅に向け2011年、米国のNGOウィンロック・インターナショナルと国際労働機関(ILO)の協力の下、ARISE(Achieving Reduction of Child Labor in Supporting Education)プログラムを立ち上げた。
同プログラムでは、ブラジル、マラウイ、ザンビア、タンザニアの4カ国で、①児童への教育機会の提供や意識向上、②経済・社会的支援、③法的枠組み――の3つのアプローチを柱に取り組みを進めている。
竹中氏は「児童だけではなく、親である耕作者、耕作者が所属するコミュニティ、コミュニティに影響を与える政府――といったステークホルダーと幅広く協働することで児童労働をなくしていく」とプログラムの枠組みを紹介した。その上で、「葉たばこ農家の持続的発展なくして、私たちの事業成長はない」と強調した。
ファシリテーターの下田屋氏は「移民労働者や先住民など、企業が普段目を向けていないステークホルダーが人権侵害を受けている可能性がある。それを見ずに利益を得ることが良いのかが企業に問われている」と述べた上で、以下のように指摘した。
「指導原則に則り、どこに人権リスクがあるのかを確認し、それを減らしていくことが重要。企業としてそれをブランド価値につなげていくような視点も求められている」