
日本の消費者は環境問題への関心は高いものの、実際の購買行動には結び付いていない――。各種調査で明らかになっている「意識と行動のギャップ」を、企業はどう乗り越えるべきか。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内では、駒澤大学の菅野佐織教授がファシリテーターを務め、日本製紙クレシアの髙津尚子氏、オイシックス・ラ・大地の東海林園子氏、電通の竹嶋理恵氏が登壇。サステナブル・マーケティングをテーマに、データ活用と新たなコミュニケーションの在り方を議論した。
| ファシリテーター 菅野佐織・駒澤大学 経営学部 市場戦略学科 教授 パネリスト 髙津尚子・日本製紙クレシア 常務取締役 マーケティング総合企画本部 本部長 東海林園子・オイシックス・ラ・大地 経営企画本部 グリーン戦略室 室長 竹嶋理恵・電通 サステナビリティコンサルティング室 エグゼクティブ・プラニング・ディレクター |
「購買理由」ではなく「付加価値」

日本製紙クレシアの髙津氏は、大ヒット商品「3倍長持ちトイレットロール」の開発秘話を語った。「1ロールに3ロール分を巻くのは技術的に非常に難しい。しかも、シングルの棚とダブルの棚のどちらにも当てはまらないため、最初は実店舗でなかなか扱ってもらえなかった」と振り返る。そこで同社は、ECサイトでのテスト販売と購買データ分析を実施。消費者が着実に定着しているデータを武器に、実店舗を開拓していったという。
髙津氏は「長持ちし、取り替えの手間や保管スペースが減るという消費者の『ベネフィット』が購買の最大の理由」と分析。テキストマイニングの結果でも「サステナブルだから買う」という声はほぼ無く、品質や利便性が重視されていたという。しかし、結果的にCO2やプラスチックの削減につながるこの商品は、メーカー、流通、消費者、そして地球の「四方よし」を実現している。「サステナブルは選択の第一基準にはならないが、競合との差別化における強力な副次的価値になる」と髙津氏は語った。
サステナブルな商品は顧客の離脱を防ぐ

オイシックス・ラ・大地の東海林氏は、フードロス削減を目指すブランド「Upcycle by Oisix」の取り組みを紹介した。冷凍ブロッコリーの製造現場で通常使用されないブロッコリーの芯をスナック菓子にしたり、梅酒作りで余った梅の実をドライフルーツにしたりと、未利用資源をアップサイクルした商品を134品開発し、累計154トンのフードロスを削減してきた。
東海林氏も髙津氏と同様に「最初は『環境に良いから』ではなく、『ブロッコリーのお菓子なんて面白い』という目新しさで買われていた」と述べ、また価格の壁に苦心したことも明かした。しかし、3年間のデータ分析から意外な事実が見えてきた。「アップサイクル商品を買うお客さまは、サービスの継続意向が非常に高いことが分かった。サステナブルな購買体験が『自分が社会に貢献している』という実感を生み、顧客の離脱防止に大きく寄与している」
買い手から「賛同者」へ

電通の竹嶋氏は、消費者の意識データを示しながら、これからのマーケティングの在り方を提言。「日本の人口減少や消費スタイルの変化により、大量生産・大量消費の時代は終わった。企業がどれだけ環境配慮商品を開発しても、(サステナブルな商品は価格が高まってしまうため)価格の許容度を上げるには自社の努力だけでは限界がある」という。
そこで竹嶋氏が提唱するのが「協働型マーケティング」だ。従来の「売り手と買い手」「企業とフォロワー」という関係性から一歩踏み込み、企業の目指す社会に共感し、自らの意思で一緒にアクションを起こしてくれる「賛同者」をいかに作るかが鍵になる。竹嶋氏は、買い替えより修理を推奨するパタゴニアの「worn wear」キャンペーンを例に、「企業は『私たちはこれをやるから、あなたたちはこうしてほしい』と明確に約束とお願いを示す必要がある」と呼び掛けた。
「感情」と「利己」のスイッチを押す

こうした3社の事例を踏まえ、「消費者の行動をどう後押しするか」という問いに対し、ファシリテーターの菅野氏は「頭で『環境に良い』と分かっていても、心がワクワクしなければ人は動かない。そして、利他だけでなく、『手間が省ける』『おいしい』といった自分自身のメリット(利己)をかなえるスイッチを押してあげることが重要」と総括した。
会場の参加者からは、「今日の議論は、日々の実務の大きな悩みに対する素晴らしい道筋を示してくれた。企業や大学、行政という壁を越えて、この知見を社会に広く浸透させてほしい」との感想も寄せられていた。「サステナブル」という言葉に頼るのではなく、消費者の本音に寄り添いながら、データとクリエイティビティで行動変容のスイッチを押す。そんなデジタル時代のマーケティングのポイントが示唆されるセッションとなった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













