
サステナブル・ブランド ジャパン(株式会社Sinc)は、サステナビリティのインサイト・アドバイザリー企業GlobeScan(グローブスキャン)と共同で、日本国内の1006人を対象とした意識調査レポート「Healthy & Sustainable Living(健康で持続可能な生活) Japan 2025」を発表した。
本調査は、グローブスキャンが世界33市場・約3万人に実施した、生活者のサステナビリティに対する意識と行動の変化を追跡する年次グローバル調査の日本版。2025年の日本市場における結果からは、気候変動に対する危機感は依然として高いものの、物価高騰による「生活コストの上昇」が行動変容の大きな壁となっている現状が浮き彫りとなった。
経済的負担を伴うサステナ行動に拒否感

世界的な傾向として「気候疲労(Climate Fatigue)」により気候変動への関心が薄れつつある中、日本においては依然として気候変動がトップレベルの懸念事項だった。
調査によると、日本の生活者が考える「最も深刻な地球規模の問題」は、「気候変動(58%)」が「戦争・紛争(57%)」を抑えてトップに。多くの日本人が気候変動を自分ごとの脅威として捉えていることが分かった。
しかし、この高い危機感が具体的な行動に結び付いていないのが日本の特徴だ。「生活者の分類」で日本で最も大きな割合を占めたのは、環境への懸念はあるが行動に移せていない「懸念・停滞層(Anxious Inactives)」で、その比率は35%。世界33マーケット平均の26%を大きく上回った。
こうした意識と行動のギャップを生んでいる最大の要因は、経済的な圧力だ。個人的に「非常に大きい」影響を受けている問題として、「生活費の高騰」を挙げた人は40%に上り、「気候変動(32%)」を上回って第1位となった。
「サステナブルな暮らしを阻む要因」としても、「高額すぎる(59%)」が圧倒的多数を占めている。生活者は、リサイクルや省エネといった「節約」につながる行動には積極的だが、割高なサステナブル製品の購入や増税の受け入れといった「経済的負担」を伴う行動には強い拒否感を示している。
サステナビリティに意欲的なZ世代はわずか2%

マーケティングにおいて「Z世代=環境意識が高い」と語られることも多いが、今回の日本のデータは定説とは異なる実態を示した。
価値観に基づくセグメンテーションを世代別に分析したところ、サステナビリティに対して意欲的な「積極層(Enthusiasts)」の割合は、ベビーブーマー世代以上では15%存在するのに対し、Z世代ではわずか2%にとどまった。
一方で、Z世代で最も多かったのは「ミニマリスト(Minimalists)」で36%を占めている。これはベビーブーマー世代(39%)に近い水準であり、日本の若年層のサステナブルな行動は、環境への配慮というよりも、経済合理性や「持たない暮らし」への志向によって動機づけられている可能性が高い。
また、Z世代の32%は「懸念・停滞層」であり、さらに30%は環境問題に興味を持たない「無関心層(Indifferents)」に分類された。この結果は、若年層に対して「環境正義」や「社会貢献」を訴えるだけでは響きにくいことを示唆しており、企業はターゲット層の現実的な関心事に寄り添う必要がある。
情緒的なストーリーテリングは生活者に届かない
では、停滞する日本人の行動変容をどう促せばよいのか。レポートは、サステナビリティを「社会貢献」ではなく、「個人の実利」として再定義することの重要性を説いている。
特に注目すべきは「健康(Health)」という切り口だ。日本の生活者の52%が「健康的な製品」を購入しているのに対し、「サステナブルな製品」の購入率は31%にとどまる。しかし、統計的なパス解析を行うと、「サステナブルな生活が自分の健康に良い」と実感できることが、行動変容を引き出すきっかけになっていることが判明した。
また、企業のアドボカシー活動(政策提言など)に対する支持も高く、公衆衛生や水資源の保護について企業が政府に働きかけることを、8割以上の生活者が支持している。
一方で、企業のサステナビリティに関するコミュニケーションへの信頼度は、自動車、食品、日用品など全てのカテゴリーで年々低下している。美辞麗句や情緒的なストーリーテリングだけでは、生活者の心には届かなくなっていることが明らかになった。
地球より自分を救う経済合理性を
本レポートは日本における企業戦略の転換を提言している。それは、企業は「地球を救う(Saving the Planet)」というメッセージから、「家計を救う(Saving the Household)」および「自分を救う(Personal Health)」というナラティブへ移行すべきというものだ。
具体的には以下の2点のアプローチが有効となる。
「懸念・停滞層(35%)」に向けて: 環境価値を「健康価値(ウェルビーイング)」に統合して伝える。自分の健康のために選んだ商品が、結果として環境にも良いという文脈を作る。
「ミニマリスト(32%)」に向けて: 環境配慮行動が、長期的なコスト削減や家計の防衛につながることを、データと根拠を持って明示する。
日本の生活者は、決して環境問題に関心がないわけではない。経済的な不安と、何をすればよいか分からない戸惑いの中にいるだけだ。企業が提供すべきは、追加コストとしてのサステナビリティではなく、生活をより良く、より豊かにするための「賢い選択肢」としてのサステナビリティだと言える。
レポートのダウンロードはこちらから
https://globescan.com/2026/02/17/the-japanese-healthy-sustainable-living-report-2025
| 【調査概要】 調査名称: Healthy & Sustainable Living 2025(健康で持続可能な生活に関する調査2025) 調査対象: 世界33市場、計3万1960名(うち日本国内サンプル:成人1006名) 調査期間: 2025年8月7日〜22日 調査手法: オンライン調査(国勢調査に準じて人口構成に合わせてウェイト付けを実施) 実施主体: GlobeScan、サステナブル・ブランド ジャパン(株式会社Sinc) |
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。












