
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内で開催された「ESGは理念か、戦略か」と題したセッションには、異なる業種や歴史を持つ企業の実践者が一堂に会した。ファシリテーターをエミネントグループの小野塚惠美氏が務め、パネリストとして良品計画の高橋広隆氏、サステナブル・ブランド・ジャパンの田中信康氏、竹中工務店の野中康司氏が登壇。ESG情報の開示要請が加速・拡大する中、根幹にある企業哲学と経営戦略をどうつなぐかという問いに、登壇者がそれぞれの視座から応えた。
| Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 小野塚惠美・エミネントグループ 代表取締役社長 CEO パネリスト 高橋広隆・良品計画 取締役 上席執行役員 田中信康・サステナブル・ブランド・ジャパン 総責任者 兼 ESGプロデューサー / Sinc 代表取締役社長 兼 CEO 野中康司・竹中工務店 サステナビリティ推進部 部長 |
日本企業のユニークネス
セッションの口火を切った田中氏は、まず「ブランドは、ビジネスと社会をつなぎ、豊かな未来をつくる唯一無二の存在である」というサステナブル・ブランド(SB)の信念を提示した。

続けて、SBファウンダーであるコーアン・スカジニア氏の「未来に求められるリーダーとは、未来から奪うのではなく、未来に価値を残す者だ」という言葉を起点に、2025年秋のSBサンディエゴでの議論も紹介。アメリカではESGへの揺り戻しが生じているものの「決して後退を意味するものではない」と強調し、「Doing good」ではなく「Good business」という視点の転換が共有されたことを伝えた。そして「愚直に取り組む日本企業だからこそ、そのユニークネスを前面に出すことで突破できるものがある」と力を込めた。
創業400年の棟梁精神から「リジェネラティブ」へ
創業400年以上を誇る竹中工務店は「最良の作品を世に遺(のこ)し、社会に貢献する」という棟梁(とうりょう)精神を経営理念に掲げ、東京タワーや東京ドームなど、数多くのランドマークを手掛けてきた。地球環境の変化が地球の限界を超えるような時代に入りつつある中、「環境悪化を抑えて現状を維持するサステナブルから、環境を回復させるリジェネラティブな考え方へ」転換する必要があると判断。今年、竹中グループの経営ビジョンを刷新し、「つくる・まもる・いかす」のライフサイクル視点に立った中期経営計画2030を策定した。

小野塚氏の「非上場企業で、なぜここまでサステナビリティを意識して取り組むのか」という問いに、竹中工務店の野中氏は「全てのステークホルダーから選ばれ続けるために、透明性の高い情報開示を行う必要がある」と回答。環境戦略の具体例として、野中氏は国内トップクラスのゼロエネルギービル(ZEB)認定件数と、自社開発の耐火集成材「燃エンウッド」を活用した木造建築の推進を紹介した。
「サーキュラーデザインビルド」というコンセプトの下、築35年の建物を改修し、新築よりもCO2排出を70%低減した事例も示した。さらに大阪・関西万博で施工した「森になる建築」は植物由来の樹脂を3Dプリンターで出力した休憩所で、時間が経てば土に還り、森へと戻っていくストーリーを設計段階から描いた作品だ。野中氏は「建築が幸せをダイレクトに提供するのは難しいが、幸せになれる空間を提供することはできる」と、建築とウェルビーイングの関係を熱っぽく語った。
「これがいい」ではなく「これでいい」
無印良品を運営する良品計画の高橋氏は、同社の哲学が生まれた背景から説き起こした。それは、高級ブランド品が注目された1980年代、「過剰な消費社会への批判」と「感じ良い暮らしと社会の探求」だった。「ESGという言葉が出る前から、良品計画はサステナブルやESG経営はデフォルトであり、語る必要がないとまで言われていた会社」と高橋氏。素材の選択・工程の点検・包装の簡略化という創業以来変わらない「基本」を大事にしながら、素材の良さを追求してきた。

同社は海外での成長率が飛び抜けて高く、現在は世界28カ国・地域に約1500店舗を展開。高橋氏は「簡素が豪華に引け目を感じることなく、その簡素の中に秘めた知性や感性がむしろ誇りに思えるような世界に」という長年大切にしている言葉を紹介しながら、「『これがいい、ではなく、これでいい』という考え方で今後も運営していければ」と述べた。
小野塚氏から「最近、『開示疲れ』という言葉もありますが」と水を向けられた高橋氏は、「開示疲れはあります」と率直に認めた上で、「それを社会要請だから仕方ないと捉えるか、必要不可欠なスタンスで臨むかでは大きな分岐点がある」と続けた。2020年以前は統合報告書を開示していなかった同社は、社内の声を受けて作成に着手し、チームは着実に拡大している。「開示業務は確かに大変だが、信頼がなければ、いくら哲学として語っていても言葉遊びになってしまう。お客さまに信頼をいただこうと思えばこそ、やらなくてはいけないし、やるべきだ」と高橋氏は強調した。
「ワクワクするストーリー」が鍵に
クロストークで小野塚氏は、ESGやサステナビリティの話が「ワクワクするストーリー」になれるかどうかが鍵だと問いかけた。この投げかけに対し、各氏の言葉が重なり合った。

証券アナリスト出身の田中氏は過去の経験も振り返りながら、「その会社ならではのユニークネスをいかにストーリー立てていくかが腕の見せ所だ」と指摘。野中氏は万博での「森になる建築」を例に挙げ、「上から言われたわけではなく、現場で考え抜いて出したもの。うちはトップダウンではなくボトムアップだ」と語った。高橋氏も商品の最終判断に「美しいのか」「豊かになるものなのか」という問いが必ず出てくる社風を紹介しながら、「全社員がインセンティブとして株を持ち、給料を上げることを会社として宣言している。株価はあとからついてくる」と、哲学と経済的インセンティブを両立させる仕掛けも明かした。
最後に田中氏がセッション全体を俯瞰(ふかん)し、「タレントがそろっていて、多様性を認める経営がある。両社の強さと、哲学がいかに大切であるかをあらためて感じた」と振り返った。
ESGは理念か戦略か。企業哲学を土台に据えながら、それを具体的な経営と実践に翻訳し続けること。良品計画、竹中工務店の事例が示したのは、その両立を諦めないことが長い時間軸で見たときの真の価値創造につながるという確信だった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。










