• 公開日:2026.03.27
楽しくなければ続かない。西伊豆と石巻から学ぶ、テクノロジーと熱意の仲間づくり
  • 横田 伸治

人口減少や高齢化といった課題が語られがちな地方創生だが、「楽しさ」と「ワクワク」を原動力に新たなうねりを生み出している地域がある。

サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッション「新たなステージに向かう地方創生」では、エコッツェリア協会の田口真司氏がファシリテーターを務め、未来舎の高内章氏、西伊豆町役場の松浦城太郎氏、フィッシャーマン・ジャパンの長谷川琢也氏が登壇。「都市と地方の融合」「よそ者の力」「テクノロジーの活用」をキーワードに、実践者ならではの熱い議論が交わされた。

Day2 ブレイクアウト

ファシリテーター
田口真司・サステナブル・ブランド国際会議カタリスト(地方創生分野) / エコッツェリア協会 コミュニティ研究所長

パネリスト
高内章・未来舎 代表取締役
長谷川琢也・一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン Co-Founder
松浦城太郎・西伊豆町役場(静岡県) 産業振興課 農林水産係 係長

「都市のOS」を乗り越え、地方へ知識と人材を還流する

高内章氏

「都市は地方からエネルギーや食料、人材を吸い上げて成長してきた。しかし、インフラの老朽化や人口減少が進む今後10年、そのモデルは限界を迎える」。シナリオプランニングの専門家である高内氏は、現代人が無意識に縛られている「都市のOS(価値観)」からの脱却を提唱した。

高内氏は、都市でビジネススキルを培った人材が、副業や二拠点生活を通じて地方の一次産業に貢献し、農業の複合化や森林の炭素ビジネスなどを進める未来シナリオを提示。「都市で育ったイノベーターやアーリーアダプターが地方に動き、地域の課題解決にテクノロジーやビジネスの知見を持ち込むことが、新たな価値を生み出す第一歩になる」と語った。

漁港を開放し、釣り人を移住者に変える「海業」

松浦城太郎氏

静岡県西伊豆町で地方公務員として働き、自身も漁師として海に出る松浦氏は、漁業者の減少によって低利用化が進む漁港の再生事例を紹介した。

西伊豆町では、漁港の釣り場を有料で予約・開放するアプリ「海釣りGO」や、釣った魚を地域通貨で買い取る「ツッテ西伊豆」といった「海業(うみぎょう)」を展開している。「閉鎖的な漁港に外部の人を入れるのはハードルが高かったが、ルールと課金システムを整えたことで釣り人のモラルが向上し、漁師側の受け止め方も前向きに変わった」と松浦氏。

これらの取り組みは関係人口の創出にとどまらず、地域外の釣り人の移住を促したり漁業の担い手へとつなげたりする「西伊豆&ANGLER」という動きに発展しているという。「『公務員』という肩書が持つ信用を活用し、地域と外部の力を結び付ける潤滑油になることが自分の役割だ」と力を込めた。

「普通のサラリーマン」が水産業を新3Kに変える

長谷川琢也氏

LINEヤフーの社員でありながら、石巻を拠点に一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げた長谷川氏は、自身の立ち位置を「普通のサラリーマン」と表現する。「東日本大震災のボランティアで、屈強な男たちの中で自分には力がないと痛感した。だからこそ、ITスキルやビジネスの視点を持つサラリーマンの強みを生かし、生産者と消費者の間に立つ役割を担おうと決意した」

長谷川氏は、衰退する水産業を「カッコよくて、稼げて、革新的な」新3K産業に変えるべく、漁師たちとチームを結成。現在はLINEヤフーを退社し、若者の漁業体験バイトや、AIを活用した業務効率化など、次々と新しいプロジェクトを生み出している。「地域には、サラリーマンのスキルが求められるフィールドが無限にある。地域に入り、頼られることで自己肯定感も上がる。はっきり言って、都会より地方の方が面白い」と笑顔で語った。

楽しさとテクノロジーが、次世代の地域を創る

田口真司氏

後半のパネルディスカッションでは、地域と外部の交わりについて議論が深められた。

ファシリテーターの田口氏が「新しい土地に入っていく際に気を付けることは?」と尋ねると、長谷川氏は「地域内で、戦隊ものの『レッド』のような熱量のあるリーダーを見つけて、良いチームを作ることが重要」と回答。松浦氏も「(都会から地方に)一人で来ると多勢に無勢だが、10人規模で来ると、地域に大きなうねりが生まれる」と応じた。

会場の学生から「地方に住む若者として何ができるか」という質問が飛ぶと、松浦氏は「学生が来てくれるだけで地域は孫が帰ってきたように喜ぶ」と歓迎し、長谷川氏も「AIやスマホを使いこなす若者が地域の業務を劇的に効率化し、空いた時間で自ら漁師になるケースも出ている。テクノロジーを駆使できる若者の力は地域にとって希望」とエールを送った。

最後に田口氏が「次の世代に地域をどうバトンタッチしていくのか?」と問いを投げかけると、松浦氏は「親世代は『勉強して東京に行け』と言いがちだが、まずは地元で面白く生きているカッコいい大人の姿を子どもたちに見せることが必要だ」と力説。

「楽しくなければ続かない」。登壇者全員が口をそろえたこの言葉の通り、義務感や悲壮感ではなく、自らのワクワクを原動力に行動することこそが、地方創生を新たなステージへと押し上げることが示され、セッションは明るい熱気とともに幕を閉じた。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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