
再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、電力システム全体を支える系統蓄電所の重要性が増している。一方、制御系設備の乗っ取りなど、サイバーリスクは現実的な脅威として顕在化してもいる。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」のランチセッションに三菱総合研究所の長谷川功氏、伊藤忠商事の道野僚太氏、パナソニック ホールディングスの山口高弘氏が登壇。再エネの信頼性をどう守るか、サイバーセキュリティの観点から幅広い議論が展開された。
| Day2 ランチセッション ファシリテーター 大我猛・Booost 取締役 COO(最高執行責任者) パネリスト 長谷川功・三菱総合研究所 エネルギー・サステナビリティ事業部門 電力・エネルギー本部 デマンドサイド・イノベーショングループ チーフコンサルタント 道野僚太・伊藤忠商事 電池ビジネス課 統括 山口高弘・パナソニック ホールディングス DX・CPS本部 デジタル・AI技術センター シニアリードエンジニア |
「環境価値」から「信頼性価値」へ
セッション冒頭、ファシリテーターを務めたBooostの大我猛氏が、昨今の企業へのサイバーインシデントを引き合いに出し、「系統用蓄電池においても同様のリスクがある。その信頼性をどう担保するかに焦点を当てたい」と問題提起した。
続けて、三菱総合研究所の長谷川氏は、国のエネルギー基本計画を踏まえながら問題を整理した。「これまで再エネは環境価値が中心だったが、今後は信頼性の価値が重要になる。脱炭素に加えて、企業が安心して電力を使い続けられることが求められる」と指摘。系統用蓄電池については「系統を運用する資源として、活用が期待されている。太陽光や風力と組み合わせ、オーケストラのように電力を安定的につなげる役割だ」と位置付けた。

安全については三層に整理した。物理的な「フィジカル安全」、制御ロジックなどシステムに関わる「制御・機能安全」、そして悪意ある攻撃を前提とした「サイバー・情報安全」だ。長谷川氏は「サイバーインシデントは蓄電所の機能不全から事業全体、電力システム全体へと波及する。サイバーセキュリティは信頼性設計の一部であり、市場全体で信頼が守られるような制度・市場設計が必要だ」と訴えた。
事業者の現場が抱える「分からないリスク」

伊藤忠商事の道野氏は同社が手がける系統用蓄電システム「Bluestorage」を紹介しながら事業者の視点を語った。コンテナ型の大型電池にクラウドを介した監視・制御システムを組み合わせた事業を展開し、フィジカル・制御・サイバーの各層で安全対策を講じているという。
一方で課題も率直に提示した。「中国製だから不安という声はお客さまとの会話にも出てくる。しかし業界にこういうルールがあるから大丈夫だと説明できるかというと、まだそこには至っていない」。どこまでの影響範囲になるか分からない不確かさが不安の根底にあるといい、「自社工場の蓄電池が攻撃されて地域の停電につながるかもしれないリスクを前に、なぜ無理して入れるんだという気持ちになってくるのが企業のリスク感覚だ」と強調した。
目的は「止めない」の実現

パナソニック ホールディングスの山口氏は、まず実際の攻撃事例を示した。米国でのDDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)による太陽光発電施設の12時間制御不能、日本でのロガー(計測・記録装置)乗っ取り、ポーランドでの再エネを含む電力設備に対する攻撃を列挙し、「再エネ設備も攻撃対象に入ってきた」と言及。さらに「サステナブルな世界を実現する分散型の仕組みが、セキュリティの観点では攻撃しやすい面を一気に増やしている。現場では故障や設定ミス、サイバー攻撃による事象が区別しにくく、見分けのつかない状況への対応が必要だ」と構造的リスクを指摘した。
山口氏は「系統蓄電所のサイバーセキュリティの目的は、情報を守ることではなく、(運用を)『止めない』ことだ」と強調する。同社は世界中の工場運用で培ったOT(制御・運用技術)の知見を生かし、電力制御通信に特化した攻撃検知エンジンを開発。ローカルの通信ログを複製・自動分析し、セキュリティアナリストが事業者とともに対策を打つ仕組みを構築している。山口氏は「信頼性価値を支える最後の判断は、制度だけでは整理しきれない面がある。責任の設計はまだ十分に議論されていない」と問題提起した。
誰が社会的信頼を設計するのか
セッション後半のパネルディスカッションでは、サイバーセキュリティ投資の価値と、社会的信頼を誰が担保するかに議論が集中した。
山口氏は「サイバーセキュリティの必要性は事業者からも理解されているが、導入となると判断が難しい。効果が見えにくく、どこまでやってもキリがない面もある。市場全体としてのコンセンサスを得ながら進める必要がある」と現場の実態を語った。道野氏は「信頼は価値になり得る」と指摘した上で、「セキュリティ対策でコストが大きく変わるわけではない。『何も起きていません』と言えることが、お客さまの安心感につながり、自分たちの自信にもなる」と、目に見えにくい「起きなかった期間」の価値を語った。
長谷川氏は地域との共生という評価軸を重ねた。「なぜ再エネを選ぶのかというところは、サステナビリティと切り離せない。目の前の経済的価値だけでなく、地域や社会、中長期的なものへの価値を見出すことが再エネを選ぶ意味だ」と強調。規制については「最低限の規制は必要だと思うが、足切りのラインだけでなく、より高度な対策を評価する仕組みがあると産業競争力や海外展開にもつながる。国内市場を通じてノウハウを蓄積し、グローバルに展開できるマーケットの設計をつくっていきたい」と力を込めた。

最後にファシリテーターの大我氏が「サイバーセキュリティは一企業や一ベンダーが対応する問題ではなく、社会全体の課題として捉えることが重要だ」と総括し、議論を締めくくった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。












