
欧州を中心に人権・環境デューデリジェンスの法制化が進む中、サプライチェーン管理は日本企業にとっても待ったなしの経営課題だ。しかし、自社だけでは到底完結できないこの領域において、企業は現場や生活者とどう向き合うべきか。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内では、フェアトレード・ラベル・ジャパンの潮崎真惟子氏がファシリテーターを務め、セブン&アイ・ホールディングスの和瀬田純子氏、UCCジャパンの里見陵氏、味の素の長谷川拓氏が登壇。「現場の困難をどう乗り越え、社内外を巻き込んできたのか」という潮崎氏の問いを起点に、実践者ならではのリアルな対話が交わされた。
| Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 潮崎真惟子・サステナブル・ブランド国際会議カタリスト(エシカル分野) / 認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長 / オウルズコンサルティンググループ シニアマネジャー パネリスト 和瀬田純子・セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 サステナビリティ推進室 シニアオフィサー 里見陵・UCCジャパン サステナビリティ経営推進本部長 長谷川拓・味の素 サステナビリティ推進部 シニアマネージャー |
「監査」を気付きと仲間づくりの場に

セッション前半、セブン&アイの和瀬田氏は、オリジナル商品の製造工場を対象とした「CSR監査」の仕組みを紹介した。ILO条約などに準拠した117のチェック項目を設定し、強制労働や生活賃金などの最重要項目に不具合があれば取引見直しを含めて対応を促す仕組みだ。
これに対し、自身も監査に携わる潮崎氏が「サプライヤーから嫌がられることも多い監査において、コミュニケーションで工夫している点は?」と問うと、和瀬田氏は「事前にセミナーを開き、どこで点数を落としやすいかなど、テスト対策のようなアドバイスをしている。また、バツ(指摘)だけでなく二重丸(良い点)をしっかり伝えることも気を使っている」と回答。「知らなかったことに気付けた」と前向きに捉えてもらうことで、監査を単なる評価ではなく「より良い社会を創るための仲間づくり」の場に昇華させていると語った。生活者への伝達については「店頭のスペースには限界があるため、セブンカフェのカップにQRコードを印字し、コーヒー産地への教育・インフラ支援のストーリーに直接飛べる仕組みを作っている」と明かした。
警戒感を解き、サプライチェーンの最上流へ

味の素の長谷川氏は、タイの養殖池やマレーシアのパーム油農園など、サプライチェーンの最上流まで直接足を運び、移民労働者を含む現地の労働者と対話を重ねる徹底したリスク可視化の取り組みを紹介した。
「直接取引のない二次、三次、さらにその先の生産者にどうやってアプローチし、警戒感を解いているのか」という潮崎氏の問いに対し、長谷川氏は「まずは専門家や一次サプライヤーと仮説を立てる。その上で、現地には『持続可能な取引のために一緒に良くしていきたい』という意義を丁寧に伝えている」と回答。対話を繰り返す中で上流の農村や漁村を特定し、改善を促していく泥臭いプロセスが共有された。社内に対しては、従来のQ・C・D(品質・コスト・安定供給)に「S(サステナビリティ)」を加えた「QCDS」として、調達部門と綿密に議論しながら業務への実装を進めているという。
乱立する基準の中で、自社に最適な高さを

UCCジャパンの里見氏は、コーヒー産業が直面する「気候変動のぜい弱性」という深刻なリスクを提示。「2030年までに自社ブランドを100%サステナブルなコーヒー調達にする」という高い目標に向けた実践を語った。
潮崎氏から「多様な認証や基準がある中で、どう対応しているか」と問われると、里見氏は「基準は厳しければ良いというものではない。自社にとって最適な『高さ』を見極め、中長期で実効性を担保することが重要」と力説。また、コスト高騰の逆風下で社内の士気を保つ工夫として、現場に約300人の「パーパスアンバサダー」を配置し、ボトムアップでアクションを生み出す組織風土の醸成にも触れた。生活者へのアプローチについては「価格転嫁は容易ではなく、国や産業レベルでの意識改革が必要」としつつも、水素焙煎コーヒーなど自社独自の付加価値をフックに、生活者の意識を変えていく挑戦を続けていると語った。
危機感をチャンスに変え、社会を巻き込む
セッション終盤、気候変動リスクへの危機感について、和瀬田氏が「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)で金額換算したことで社内の危機感は高まった。今後は『不安』だけでなく『楽しい』というアプローチに変換し、危機をチャンスに変えたい」と語れば、里見氏は「1企業ではなく、国や産業レベルで大きなプロジェクトを動かす必要がある」、長谷川氏も「厳しい環境下だからこそ、実効性のある取り組みで社会のウェルビーイングに貢献する」と力強く展望を語った。
最後に潮崎氏が「サプライチェーン管理とは、まさに仲間を作っていくプロセスそのもの」と総括。ルールの厳格化やコスト高騰という逆風の中でも、対話と共創を通じて実効性を高めようとする先進3社の実践知が惜しみなく共有される時間となった。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。














