• 公開日:2026.03.24
食の過去・今・未来をつなぐ リジェネラティブな食文化・食生活とは
  • 眞崎 裕史
青木茂樹氏(左)のファシリテーションで活発な議論が展開された

食を巡る環境や社会課題が顕在化する中、各地固有の風土に根差した食文化や食生活の再検討が始まっている。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」では、有機農業の実践者、サステナブルな食を推進するレストランの担い手、飲食業界のサステナビリティ基準の普及に取り組む3氏が登壇。自家採種から始まる地域の食文化の継承、ピザという食を通じた行動変容、飲食店をハブとしたフードシステムの再構築という異なるアプローチが交差する中で、リジェネラティブな「食」の在り方が活発に議論された。

Day1 ブレイクアウト

ファシリテーター
青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー / 駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

パネリスト
横田岳・横田農場 百姓
久保田和也・4P’s Japan Global Branding / Concept ブランディングディレクター
下田屋毅・一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会 代表理事

セッション冒頭、ファシリテーターの青木茂樹・駒澤大学経営学部教授は、「リジェネレーション」という言葉が農業からビジネス全般へと広がってきた経緯を整理しながら、こう問題提起した。「日本は日本の土地があり、風土がある。一方でグローバル流通はどんどん進んでいく。これをどう編集、編さんしていくのかは、いろんな考えがあるはずだ」。農業、外食、国際的な評価基準という異なる立場から食に携わる3人のパネリストを招いた理由を、そう説明した。

農業の「源流」をたどる

横田岳氏

横田岳氏は、日本有数のオーガニックタウンとして知られる埼玉県小川町で有機農場を営んでいる。その横田氏が就農から10年あまりをかけて行き着いた問いは、「有機農業の源流は、本当はどこから来ているのか」というものだった。有機資材の大半は元をたどれば輸入に頼り、農薬・化学肥料の原料は鉱物資源だ。種もまた海外から来ているものが多いという。「京水菜なのにニュージーランドから来ていたり。なんだこれ、みたいな」と横田氏は振り返る。有機農業といえども、その土台が化石資源の恩恵を受けた慣行農業と地続きである現実を直視した末に選んだのが、無肥料栽培と自家採種だった。

横田農場では現在、100品種超の自家採種と約30品種の在来種の発見・継承を実践している。自家採種を続けると、種はその土地の環境に応じて形も味も変わっていくという。横田氏は「自家採種は、土地に合わせて年輪を重ねること。それが小川町の食文化になっていく」と力を込めた。

「ピザで世界をどう変えるか」

久保田和也氏

続いて登壇した久保田和也氏は、4P’s Japanのブランディングディレクターを務め、店舗の立ち上げのために世界中を飛び回っている。同氏が携わるPizza 4P’sは、2011年にベトナム・ホーチミンで創業し、日本、インドネシアなど現在5カ国40店舗を展開するピザレストランだ。ブランドコンセプトは「Oneness(全ては一つ)」。人と自然と地球が分かち難くつながっているという認識を事業の土台に置き、国ごとに異なるコンセプトとメニューを展開している。

全世界でメニューが異なるのは、戦略的に設計されたものではなく、地産地消の実践の結果だと久保田氏は語る。開業時にフレッシュなチーズを現地調達できず自分たちで作り始めたことがそのルーツで、いまや各国の牧場との連携へと広がっている。メニューブックは100ページ近い「ディクショナリー」として、食材の生産者やストーリーを掲載。久保田氏は「サステナビリティを理由にレストランを選んでいる人は、まだそんなにいない。でも多くの人に、農家のこだわりなどを伝えられるのがレストランの特長だ。そのメディアとしての役割を果たしていきたい」と力説した。

フードシステムを変える「基準」の力

下田屋毅氏

下田屋毅氏が代表理事を務める一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会は、英国発の「FOOD MADE GOOD」スタンダードを軸に飲食業界のサステナビリティを推進する団体で、現在72カ国にネットワークが広がっている。調達・社会・環境の3領域・10項目からなる評価基準で、各店舗の取り組みを星の数で表す仕組みを持つ。下田屋氏は「どこから来てるか分からないけど、形もいいし値段も手頃、そして、そこそこおいしい。そんな食材が、実は児童労働や森林破壊につながっていたりもする」と指摘。サプライチェーンにおける行動や調達を通じて、知らず知らずのうちに課題を深刻化させる恐れに警鐘を鳴らした。

農林水産省フードテック官民協議会のサステナブルレストラン推進ワーキングチームは、このほど「持続可能な食の未来へ 日本の料理人・シェフのサステナビリティ・マニフェスト:2030年へ向けた17の指針」を取りまとめた。シェフや生産者、一般消費者が無料で賛同できるプラットフォームも整備。下田屋氏は「今は点でも、線でつながり、面になっていく。それぞれのエリアで誰がどういう思いを持ってやっているのかをつなぎながら、動きを作っていきたい」と強調した。

食の再生は小さな一歩から

後半のパネルディスカッションでは、3氏の問題意識が重なった。横田氏は、地産地消や顔の見える関係を求めてきた有機農業の世界が、「全部自分でやらなくちゃ」という袋小路に入り込んでいたと回顧。続けて、レストランや認証機関といった第三者が間に入ることによって、生産者の思いを消費者に届ける仕組みが機能し始めているのではないかと述べた。レストランをメディアとして捉える久保田氏も認識を共有し、農場を顧客と訪れるツアーなどを例に挙げた。

議論の終盤、久保田氏は「サステナビリティやリジェネラティブという言葉を難しく考える必要はない。農家を選んで使うなど、小さな積み重ねが大事だ」と提起。これに対し横田氏も「有機農業か慣行農業かという対比構造から、いったん降りてもいいのではないか」と応じ、今こそ食の在り方を足元から考え直すタイミングだと訴え、セッションを締めくくった。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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