
気候変動への危機感は高いにもかかわらず、生活者のサステナブルな行動は停滞し、企業からの発信に対する「信頼度」も世界的に低下している。この現状をどう打破すべきか。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内では、GlobeScanとサステナブル・ブランド ジャパンが共同発表した最新の国際調査データをもとに、生活者の心を動かすコミュニケーションの在り方を議論。
ファシリテーターを務めた電通ライブの田中理絵氏は「AI時代において人々の『無関心』が広がる中、どうすれば人の心を動かし、それをビジネスの成果に結びつけることができるのか。本日はそのレバー(打開策)を探求したい」と投げかけ、GlobeScanの服部実氏、Flag Communicationのヴィクトリア・テイラー氏、nestの村瀬悠氏と議論を重ねた。
| ファシリテーター 田中理絵・電通ライブ 経営推進局 ネクストビジネス開発部 シニアディレクター パネリスト 服部実・GlobeScan シニアコンサルタント ヴィクトリア・テイラー(Victoria Taylor)・Flag Communication CEO 村瀬悠・nest [SB Japan Youth Community] ブランドディレクター |
「社会課題」から「個人の実利」へ文脈を転換する

セッション前半、GlobeScanの服部氏から「健康で持続可能な生活」に関する国際調査の日本市場における分析結果が共有された。 日本の生活者は「気候変動」を深刻な課題と捉えつつも、個人的な影響としては「生活費の高騰」に最も切実な危機感を抱いている。また、企業からの情報に対する信頼度が年々低下しており、企業側も批判を恐れて発信を控える「グリーンハッシング」に陥っている現状が浮き彫りになった。
服部氏は「環境への懸念をあおるだけでは、企業や政府への責任転嫁を生み、自発的な行動の障壁になってしまう」と指摘。調査データを参照しながら、持続可能な行動変容を引き出すスイッチは「サステナビリティは自分の健康に良い」という実感にあると説明し、「地球を救うという抽象的なナラティブから、自身の健康や経済性という『個人の実利』へと文脈を転換することが求められている」と提言した。
健康と経済性をトリガーにする世界の潮流

「健康を入口としたアプローチは本当に有効なのか」という田中氏の問いに対し、欧米でサステナビリティ・コミュニケーションのコンサルティングを行うテイラー氏は「非常に有効であり、欧米でもトレンドになっている」と応じた。 テイラー氏はナイキの「Well Collective」キャンペーンを例に挙げ、「エリートアスリートではなく、ウォーキングやヨガ、休息など、誰もがアクセスできる日常のウェルビーイングに焦点を当てている。恐怖をあおるのではなく、メンタルとフィジカルの健康をサポートする物語(ストーリーテリング)が生活者の共感を呼んでいる」と解説した。
ユース世代を代表する村瀬氏もこれに同意し、「今の若者は完全栄養食やフィットネスなど、自分自身の健康やウェルビーイングをどうコントロールするかに高い関心を持っている。健康を切り口にするのは非常に接点を作りやすい」と語った。 また「経済性」の観点について、調査データでは日本のZ世代に「ミニマリスト(節約・削減志向)」が多いことが示された。
テイラー氏は「生活費が高騰する今、サステナブルな選択は経済的にも合理的でなければならない」と語り、欧米における店頭でのリフィル(量り売り)の普及や、アパレル・電動工具の「レンタルサービス」の拡大など、コストを抑えながら環境に配慮するビジネスモデルの台頭を紹介した。
完璧主義からの脱却。若者が求める「プロセス開示」

セッション後半では、低下する「企業のコミュニケーションに対する信頼」をどう再構築するかに議論が移った。 グリーンウォッシュ批判を恐れるあまり、情報発信に極めて慎重になる企業が多い中、村瀬氏はリアルな感覚を代弁した。「若者は『勘違いサステナビリティ(本質的ではない環境アクション)』を見極めようとする一方で、企業に対して非常にオープンマインドです。100%完璧な状態じゃなくても、50%や80%の進捗(しんちょく)、そして100%に至るまでのプロセスを自信を持って教えてほしいと強く思っています」
この「不完全でもプロセスを共有してほしい」というユースの意見に対し、テイラー氏は「企業はSNSなどでのオープンな批判や法的リスクを恐れ、完璧でないストーリーを語ることに過敏になっている」と企業のリアルな葛藤を代弁。しかし同時に、「サステナビリティは一直線には進まない『ジャーニー』。目標を掲げ、裏付けとなるデータを取りながら、生活者とそのジャーニーを共に歩む姿勢を誠実に伝えること。それこそが最終的に信頼構築につながる」と語った。
最後に服部氏が「一貫性は大事だが、柔軟性も必要。生活者の実利に寄り添いながら、したたかに変化していくことが重要だ」と総括。企業は完璧な正解を提示するのではなく、生活者と共に歩むプロセスを誠実に開示していくこと。その透明性こそが、無関心や不信感を打破する鍵であることが示され、セッションは幕を閉じた。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









