
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の開示企業数で世界トップを走る日本だが、開示の先にある「実体経済への価値の組み込み」には依然として課題が残る。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内の2日目、プレナリーセッション「ネイチャーポジティブが価値を生む ―日本の立ち位置と日本への期待―」では、有識者や環境省、2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)の担当者が登壇。企業がどのようにネイチャーポジティブ経済への移行を実現すべきか、議論が交わされた。
| Day2 プレナリー ファシリテーター 牛島慶一・EY Japan Climate Change and Sustainability Services (CCaSS) アジア東部 気候変動・サステナビリティサービスリーダー/パートナー パネリスト 永田綾・環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性主流化室 室長 見宮美早・公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会(GREEN×EXPO協会) サステナビリティ推進部 部長 足立直樹・サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー レスポンスアビリティ代表取締役 / サステナブル経営アドバイザー |
「ツールが無い」はもはや通用しない

セッションの冒頭、サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹・レスポンスアビリティ代表取締役は、「企業と生物多様性の関係性は大きく変わっている」と現状を分析した。TNFDにおけるLEAPアプローチを用いた現状分析やリスク評価など、ツールやフレームワークの整備はすでに進んでいる。足立氏は、「ツールが無くて測定できず、前に進めないという言い訳はできなくなっている」と指摘した上で、科学的な知見に基づいた目標設定の重要性を強調した。
また、単なる環境インパクトの削減や保全活動だけでは不十分であり、事業をすればするほど生物多様性が増える「ネイチャーポジティブ経済」への移行が不可欠であると訴えた。
グローバルサプライチェーンへの依存とリスク

環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性主流化室長の永田綾氏は、日本企業がネイチャーポジティブに取り組むべき理由として、グローバルなバリューチェーンを通じた海外の自然資本への強い依存を挙げた。大豆や飼料用トウモロコシなど、多くの資源を輸入に頼る日本にとって、サプライチェーンの先にある自然資本の劣化は直接的なビジネスリスクとなる。一方で、日本のTNFD開示アダプター数は216社(2026年2月時点)と世界トップを走っており、この機を捉えてビジネス機会の獲得につなげることが重要だ。
永田氏は、「企業がネイチャーポジティブ経営へ移行することが企業価値向上につながる、というストーリーを確立・浸透させることが必要だ」と述べ、環境省として対象分野別のリスク・機会の整理や、自然資本の価値評価の仕組みづくりを推進していく方針を示した。
「花博」を超え、明日の風景を描くGREEN×EXPO

続いて、2027年に横浜市で開催される「GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)」について、同協会サステナビリティ推進部長の見宮美早氏が登壇した。見宮氏は、博覧会が前身の「花博(国際花と緑の博覧会、1990年に大阪で開催)」の領域にとどまらず、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を意識し、「Nature-based Solutions(自然を活用した解決策)」を提示する場になると説明した。
会場予定地である旧上瀬谷通信施設跡地には、水田や麦畑など、都市におけるグリーンインフラとしての「農」の価値を示す展示も予定されている。見宮氏は「ポストSDGsに向けて、日本らしい自然との向き合い方を世界に発信する絶好の機会になる」と意気込みを語った。
自然の価値をどう実体経済に組み込むか

後半のディスカッションでは、EY Japan アジア東部 気候変動・サステナビリティサービスリーダー / パートナーの牛島慶一氏が「企業はこれまで、本来払うべき自然環境へのコストを払わずフリーライド(ただ乗り)してしまっていたのではないか」と問題提起し、議論を促した。
この問いに対し、足立氏が「自然の利用の対価をきちんと確かめ、そこにお金が流れる仕組みを作ることが重要。市場の仕組みで解決するためには、政府が正しい方向性を示すルールづくりが欠かせない」と述べると、永田氏もこれに呼応。「里山のような、人が手を入れることで維持されてきた日本ならではの生物多様性の価値を定量化し、ネイチャーファイナンスの実践を後押ししたい」と語った。
最後に足立氏は、「あらゆるビジネスがバリューチェーンを通じて世界中の自然に依存している。今手を打たなければ、5年後には原料が調達できなくなりビジネスが続かなくなる」と会場に強い危機感を示し、各主体への早期のアクションを求めてセッションを終えた。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













