• 公開日:2026.02.27
配慮ではなく、戦略としてのインクルーシブデザインを Halu松本代表取締役
  • 横田 伸治

マイノリティの視点からイノベーションを生み、社会の分断を無くす。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」の2日目プレナリーで、Haluの松本友理代表取締役がビジョンを披露した。松本氏は、自身の障がい児育児の経験から生まれたインクルーシブブランド「IKOU(イコウ)」の展開を紹介。インクルーシブデザインが、単なる配慮や社会貢献ではなく、成熟市場を打破し企業の持続的な成長をけん引する経営戦略だと力強く語った。

DAY2 プレナリー
松本友理・Halu 代表取締役

無意識の排除に気付く

トヨタ自動車で商品企画に携わっていた松本氏の転機は、重度の身体障がいがある長男の誕生だった。外出先で「安定して座れる椅子がない」という壁に直面し、行きたい場所に行けない悔しさを味わったという。

「息子が市販のキッズチェアやベビーカーに座れないたびに、『あなたたちは想定されていません』と社会から言われているような悲しい気持ちになった」と松本氏は語り、「障がい者と健常者が分断された今の社会の中では、当たり前に世の中のプロダクトやサービスを使える人たちは、使えない人たちの存在に気付けない」と、構造的な課題である「無意識の排除」を指摘した。

この課題をものづくりの力で解決するために立ち上げたのが、インクルーシブブランド「IKOU」だ。代表的なプロダクト「IKOUポータブルチェア」は、障がい児専用の福祉機器ではなく、健常児も含めた「全ての子どもが対象(身長97cm/体重16kgまで)」となっている。従来の福祉機器がオーダーメイドで約46万円と高額だったのに対し、金型による量産化で5万円台へと大幅なコストダウンも実現した。

「共に使えるプロダクト」が新たな市場と収益を生む

障がい児を含めた小さな子連れの家族が、「行ける場所」ではなく「行きたい場所」へ出かけられるように開発された同製品は、現在、全国83の企業や自治体、125カ所に導入が広がっている。「バンテリンドーム ナゴヤ」やホテル、レストランなどで、「あらゆる子どもを歓迎する」シンボルとして機能しているという。

注目すべきは、そのビジネス効果だ。スポーツイベント観戦での共同調査では、70%以上の子連れ家族ユーザーが「子ども用の座席代金を払ってでもまた利用したい」と回答した。小さな子連れ家族全体の外出を促進するだけでなく、導入施設の収益向上にも貢献していることが実証されている。障がい者向けの専用品から「共に使えるプロダクト」へと市場を拡張することで、多様な人々の交流機会を生み出しつつ、ビジネスとしての持続性を確保しているという。

制約のある視点から、イノベーションを加速させる

松本氏によれば、世界には18.5億人の障がい者がおり、その関連購買力は13兆ドルに上る一方、障がい者からのインサイトを活用している企業はわずか5%だという。

松本氏は「配慮の対象とみなされがちだったマイノリティも、共に価値を生み出していくパートナーと捉え直す視点の転換こそが鍵となる」と強調する。マジョリティの視点では気付けない悩みや使いづらさにこそ、新たな価値を生み出していくヒントがあり、だからこそインクルーシブデザインは、イノベーションを加速させて企業を成長させるための戦略となる。

同社は現在、自社プロダクト開発の知見を生かし、他企業との共創や研修・コンサルティングサービス「Inclus」も展開している。トヨタ自動車やはごろもフーズなどの企業との協働を進め、現場では「制約のある視点こそが、イノベーションの源泉になる」「視点を変えると、既存商品の新たな価値が発見できる」といったマインドシフトが生まれ始めているという。

最後に松本氏は、「誰かの困りごとから生まれる気付きが、みんなの喜びや、新たな価値につながる社会を。誰もが『行きたい』を諦めない未来を、一緒に形にしていきませんか」と会場に呼びかけた。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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