
「産業の発展が自然を破壊し、人間の幸せを損なうことは本末転倒だ」。これはパナソニックの創業者・松下幸之助が、今から半世紀以上前に語った言葉である。その言葉が、2026年のサステナブル・ブランド国際会議で静かに響いた。プレナリーに登壇したのは、パナソニックホールディングスMI本部マニュファクチャリングソリューションセンター所長の西川英信氏。「私たちが目指す循環型社会の姿」と題し、創業者の哲学を軸に、パナソニックが進めるサーキュラーエコノミーへの取り組みを率直に語った。
| Day1 プレナリー 西川英信・パナソニックホールディングス MI本部 マニュファクチャリングソリューション センター 所長 |
西川氏は「ひたすら経済成長を追い求めてきた結果、社会は天然資源を大量に消費し、大量の廃棄を生み出す構造を知らない間に築いてしまった」と切り出した。気候変動が現実問題として明らかになった今、「この先に本当に未来があるのか」と問いかける声が社会全体に広がっていると言う。
その上で西川氏が示したキーワードが「デカップリング」だ。経済成長と資源消費・大量廃棄を切り離す。つまり、従来の「作って、使って、捨てる」という直線型の経済モデルから脱却し、資源が循環する社会を築くことが急務だと強調。「もはや特定の企業や専門家だけが考える問題ではない。社会全体、ないしは一人ひとりが向き合うべき課題だ」と訴えた。
パナソニックの経営理念は「事業を通じて世界中の人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する」だ。松下幸之助は「企業は社会の公器であり、産業の発展が自然を破壊し人間の幸せを損なうことは本末転倒」とも語っていたという。西川氏はこの言葉を引用し、「ものづくりを通じて社会と共生する。それが私たちの原点であり、DNAだ」と力を込めた。
25年のリサイクル実績と、その先へ
パナソニックは、冷蔵庫・洗濯機・エアコン・テレビの4家電を中心としたリサイクル事業を25年以上にわたって展開してきた。
しかし西川氏は「限界も感じている」と率直に認める。粉砕して再利用する既存のリサイクルでは材料の使用効率が頭打ちになり、元の製品と同等の高品位な材料は、それほど多くは取り出せない。「製品に使われた材料は元の製品に戻す。水平リサイクルのループを回すことにこだわりたい」。この課題意識が、2023年に策定したサーキュラーエコノミーの全社方針と、「Design for Circular Economy(DfCE)」の推進力になっている。
設計段階から「循環」を組み込む
DfCEの考え方は、製品の設計段階から循環を前提とするというものだ。西川氏によると、
- 分解しやすい製品設計
- より長く使えること(ロングライフ化・修理・メンテナンスのしやすさ)
- リファービッシュしやすい設計
- 材料・部品の再利用
——の4つの観点で設計しているという。講演では、世界最大級の先端技術の見本市「CES」で公開した、洗濯機の分解デモンストレーション動画も紹介された。洗濯機のヒートポンプ部分は使用に伴い汚れが蓄積するが、クリーニングのために分解・再組み立てを繰り返せるよう設計段階から工夫。将来的にはロボットによる自動精緻分解も視野に入れており、「ただ粉砕するのではなく、精緻に部品を取り出してもう一度製品に戻す」ことを目指すとしている。
「一緒にやりましょう」
講演の最後、西川氏は「Let’s make the future together!」というスライドを背に、会場に呼びかけた。
「私たちがカバーできているのは家電製品のごく一部にすぎない。容器や包装、業務用機器、自動車産業…さまざまなセクターの皆さまと連携しながら、日本全体で循環型社会のエコシステムを構築していく必要がある」
一社の取り組みにとどまらず、業界を横断した共創によってこそ、循環型社会の変革は社会に実装され、加速できる。そのメッセージを、西川氏は「未来のために、未来の子どもたちのために」という言葉で締めくくった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。









