
日本企業においてサステナビリティに着手することがより一般化してきた中、CSOのみならず他の役員もサステナビリティの推進・実行に責任を負うようになってきている。「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」のセッション、「CxOが切り拓くサステナブル・マネジメント」にはそうした先進企業から、テクノロジーやブランディングなどの分野を担う執行役員が登壇。サステナビリティを全社に実装するためのコツや課題の乗り越え方などを共有した。
Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサー パネリスト 小川立夫・パナソニック ホールディングス 執行役員、グループ・チーフ・テクノロジー・オフィサー (グループCTO)、薬事担当 川嵜鋼平・LIFULL 執行役員CCO / LIFULL HOME’S 事業本部副本部長CMO / LIFULL senior 取締役 西田修一・LINEヤフー 執行役員 サステナビリティ推進統括本部長 |
サステナビリティはESGとCSRの両輪で着実に

LINEヤフーではESGとCSRの2軸でサステナビリティの取り組みを推進する。ESGの中でも「環境」については、自社および地方自治体の脱炭素化の取り組みに力を入れてきた。例えば、企業版ふるさと納税の仕組みを活用して、2021年と2022年にそれぞれ10の地方自治体に計約4.7億円を寄付、環境保全などを進めた。
CSRでは自社のプラットフォームを使った災害・復興支援に注力する。東日本大震災の支援キャンペーン「検索は、チカラになる。」を毎年継続しているほか、2024年1月1日に発生した能登半島地震の際には、Yahoo!ネット募金を通じておよそ1カ月間に90万人から約20億円が集まったという。さらに2017年には災害支援を行うための仕組み「緊急災害対応アライアンス(SEMA)」を設立。発災時、市民団体が一両日中に現地に入って現地調査にあたり、LINEヤフーが事務局となって必要物資のニーズと物資提供事業者のマッチングを行う仕組みを整えた。
事業としては、サステナビリティに関するニュースやアイデアを発信するメディア「サストモ」を運営。またYahoo!マップでは移動に伴う炭素排出量を可視化することで行動変容を促す。
執行役員でサステナビリティ推進統括本部長の西田修一氏は「サステナビリティは、やらされていると思うと本質的な取り組みにはつながらない。いかに企業が率先してやるかが大事なポイントだ」と述べ、「サステナビリティの取り組みはすぐに利益につながるわけではないが、ブランド価値が上がったり、社会に役立っている会社で働くことに誇りを持てるため社員がエンゲージメントを高めたり、採用につながったりすることを強く感じている」と意義を語った。
「思いやり」を技術未来ビジョンに掲げる
パナソニックホールディングスの技術部門では、2040年までに実現したい未来像を「技術未来ビジョン」として掲げる。目指すのは「一人ひとりの選択が自然に思いやりへとつながる社会」だ。
具体的には、3つの「めぐる」を挙げる。日常生活の中にグリーンで安心安価なエネルギー・資源がめぐり、日々の時間の使い方の中に生きがいがめぐり、まわりの人との関係性の中に思いやりがめぐる――。そうした社会を実現するために、AIやCPS(サイバーフィジカルシステム)、バイオテクノロジー、センシング、ロボティクスなどの技術を研究開発していく方針だ。

「営利企業として『思いやりがめぐる』とふんわりしたことを言っていていいのか、と聞かれますが」とCTOの小川立夫氏。「慈善事業をするつもりはない」と否定した上で、創業者・松下幸之助の「水道哲学」を引用し、「グリーンなエネルギーと生きがい・思いやりを無駄なく行き渡らせる、次世代の『水道哲学』に挑戦する」と語った。
また「事業のつくり方も変えないといけない」と話し、社内だけで事業をつくるのではなく、既存の事業モデルや事業領域にとらわれず、最初からステークホルダーやパートナーと組み、パナソニックの知的財産をオープンにしながらニーズ・課題ドリブンな共創・探索型の事業開発スタイルを推進していると説明した。
サステナビリティを価値に変えるブランディングで差別化へ
LIFULLは、社是に「利他主義」を掲げ、事業を通じた社会課題の解決に取り組む。
不動産・住宅情報サービス「LIFULLホームズ」をはじめ、空き家バンク、地方創生、子どもを持つ女性の長期的キャリア支援、介護施設検索サイトなど暮らしと人生に関わるさまざまな事業を展開する。さらに2023年には外国人、高齢者、同性カップルなどの住宅弱者と理解のある不動産会社をつなぐサイト「フレンドリー・ドア」を開設し、事業を黒字化させた。

「あらゆるLIFEをFULLにすることを実現するために、個人が抱える課題からその先にある世の中の課題まで安心と喜びを妨げる社会課題を、視点を変える発想で解決していくことを目指している」とブランディングの責任者である川嵜鋼平CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)は言う。
LIFULL が選ばれる企業であるために重視してきたのがブランディングだ。「社会課題解決といえばLIFULL」と認知されるべく、インナーブランディングを徹底すると同時に、CM「しなきゃ、なんてない。」をはじめ話題性のある社外コミュニケーションを展開してきた。
ファシリテーターの足立直樹氏は「サステナビリティの取り組みを価値に変える上で欠かせないのがコミュニケーションだ。それも単なるコミュニケーションではなく、ライフルのようにクリエイティブで、伝わるコミュニケーションが大切になる」と話した。
ステークホルダーへの発信で重要なポイントは

セッションの終盤に「ステークホルダーに対してサステナビリティの取り組みやその価値を伝える上で重要になることは何か」と足立氏が尋ねると、3者はこう答えた。
LINEヤフーの西田氏は、ユーザーを含む一般の人に対しては「広報の力をうまく生かし、例えば『日本初』など話題性を意識した展開を行うことによって広報効果でレバレッジを利かせ、より多くの人に伝わるようにしている」と説明。さらに「サステナビリティはそれによって何を得られるかを同時に考えないといけない。クリエイティビティ、つまり何かと何かをうまく掛け合わせて、どういう効果を得るのかを想像する力が求められるようになってきている」と強調した。
LIFULL の川嵜氏は「さまざまなステークホルダーがいる中で共通していることは、論語と算盤を両立して伝えることだ。論語については社会課題を解決するというビジョンを伝えることを大事にし、算盤についてはKPIマネジメントをしっかり行っている。投資家やメディアに対しても当然だが、特に社員に対して説明することが非常に重要になる。論語と算盤の両輪をまわすことが結果的に自社のサステナブルなマネジメントにもつながっていく」と語った。
パナソニックHDの小川氏は、サステナビリティに関して統一したメッセージを社外に発信できるようになった背景に、社員によるボトムアップの取り組みがあったと振り返った。「社内有志がサステナブル経営推進コンソーシアムを発足させ、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど、テーマごとの戦略を考えるワーキンググループをつくってきた。そこからサステナビリティ経営委員会が会社の組織として発足した」と、社員の自発的な取り組みが会社を動かしたことを説明した。
小松 遥香(こまつ・はるか)
アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。