
2026年2月18日・19日に開催される「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内(SB’26 東京・丸の内)」。日本開催10周年となる今回のテーマは「Adapt and Accelerate」だ。気候変動、地政学リスク、そして経済の不透明感が増す中、企業やブランドはどのように変化に適応し、サステナビリティ経営を加速させるべきか。今回はSB国際会議をけん引するプロデューサー4人による座談会を実施。この10年での潮流の変化から、今年の会議の見どころ、そしてこれからのブランドの在り方について議論した。
※なお、足立直樹氏はスケジュールの都合により別日程でインタビューを実施した上で、記事制作時に編集した。
| モデレーター 鈴木紳介氏 (Sustainable Brands Japan カントリーディレクター / Sinc 取締役) サステナブル・ブランド国際会議プロデューサー 青木茂樹氏【アカデミックプロデューサー】 (駒澤大学経営学部 教授) 足立直樹氏【サステナビリティプロデューサー】 (レスポンスアビリティ 代表取締役) 田中信康氏【ESGプロデューサー】 (Sustainable Brands Japan 総責任者 / Sinc 代表取締役社長兼CEO) 山岡仁美氏【DEIプロデューサー】 (グロウス・カンパニー+ 代表取締役) |
「経営のど真ん中」に激変した10年

鈴木紳介氏(以下・鈴木): 日本でSB国際会議がスタートして、今回で10回目を迎えます。2017年の第1回開催当初と現在を比べて、参加者や企業のサステナビリティへの意識はどう変化したでしょうか?
足立直樹氏(以下・足立): 10年前と今では、全く違う景色になりましたね。当初は、サステナビリティといえば一部のCSR担当者の話題で、SBでは「ブランディングにどう活用するか」という手段の話が多かった。環境分野でも、当時は「低炭素」が主流で、「脱炭素」なんて誰も本気にしていませんでした。
しかし今は、サステナビリティは「本気で取り組まないとビジネスが続かないもの」という生存条件に変わり、経営の本質そのものになったのが最大の変化です。SBも、「ブランディングのためのサステナビリティ」を学ぶ場から、「サステナブルなブランド」が集まる場になりました。
青木茂樹氏(以下・青木): 本当に隔世の感がありますね。正直なところ、10年前は「CSR=コストセンター」で、トークセッションでも「うちの会社は植林ばかりしているけど、ビジネスとして意味があるんでしょうか?」と聞かれるような時代でしたから。
また、当時は「グローバルな課題」と「ローカルの課題」は別物と捉えられていましたね。私はローカルの持続可能性に関心がありましたけど、SBはグローバルイシューを扱う場。当初はそこに距離がありましたが、この10年で「グローバルな課題こそ、ローカルの現場でしか解決できない」という視点がつながった。これも大きな変化ですね。

山岡仁美氏(以下・山岡): 私も、忘れもしないんですが、当時ある会場での質疑応答の際に「そんな活動より、新規開拓の営業の方が価値があるんじゃないですか」と言われて、すごくショックを受けたことがあって。「サステナビリティって何ですか? 新しい犬種ですか?」と聞かれたこともありました(笑)。それくらい、ソーシャルイシューと本業のビジネスの間には深い溝があったんです。それが今や、できているか否かは別として、経営の「ど真ん中」の重要マターになったのは間違いありません。
田中信康氏(以下・田中): 2016年のとある調査で「意味が分からないカタカナランキング」の1位がサステナビリティでしたからね。私はこの呼ばれ方が嫌いですが、いわゆる「意識高い系」と揶揄(やゆ)されることもありました。
当時の日本の最先端を行くような上場企業の経営層たちに(サステナビリティの)話をしても、「それは二の次だよね」という反応でした。それが今では「あの話、もう一回聞かせてくれ」と経営層からリクエストされるんです。 直近の「揺り戻し」は残念ですが、それでもひたむきに取り組む経営者、企業は確実に増えていると言えます。
SDGs採択、コロナ禍、TNFDを経て

鈴木: 具体的に、どのように意識の転換が進んできたのでしょうか?
田中: 私が考える本格的な出発点は、実は(SB開催前の)2015年です。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に署名したことはエポックだったし、ほぼ同じタイミングでトヨタ自動車が「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表した年でもありました。
青木: あれはインパクトありましたね。
田中: その前年、2014年に経営層向けのサステナビリティ・カンファレンスを名古屋と岐阜で開催したんですが、その時のアンケートでは散々な書かれようでした。しかしその後、投資家やトップ企業が社会課題解決の重要性を問い、長期ビジョンを掲げたことで、「これは一過性のブームではない」と日本企業全体が気付き始めました。
山岡: 2015年9月のSDGs採択も含めて、いろんなことが重なった特異点でしたね。良くも悪くも、ここまで浸透したのはSDGsというアイコンの力も大きかったと思います。
そして大きな転換点は「コロナ禍」でしょうか。もちろん大変な出来事でしたが、一度立ち止まって考える時間ができたことで、働き方の見直しが進んだり、リジェネラティブ(再生)な思考が広がったりしました。社会的に弱い立場の人たちをどう守るか、という視点も突き付けられました。
青木: コロナ禍は、日本と世界の差を痛感したタイミングでもあったなと思います。 海外企業、例えばユニリーバやP&Gなどはパンデミック直後に、エッセンシャル・ワーカーを守る巨額の支援や、サプライチェーンを維持するための支払い猶予を即断し、社会に対する「パーパス」を行動で示しました。一方、日本企業は「工場で感染者が出ました、すみません」という謝罪や保身の対応ばかりが目立ってしまった。
足立: コロナ禍ではサプライチェーンのリスクが可視化され、「経済合理性だけでは立ち行かない」という認識が広がりましたね。地球の反対側から一番安いものを持ってくる、というモデルの脆弱性が露(あら)わになった。
加えて私の専門領域としては、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の導入も大きいです。これにより、生物多様性が一部の企業の話題から一気にビジネスの主流になりました。サステナビリティが扱う領域が、脱炭素だけでなく、人権や自然資本へと三位一体化してきたのもこの数年の特徴です。
適応と加速をどう捉えるか

鈴木: 今年のテーマは「Adapt and Accelerate(適応と加速)」です。それぞれの領域で、何をどう適応させ、加速させたいと考えますか?
足立: まずは気候変動です。企業はこれまでCO2を減らす「緩和(Mitigation)」ばかりやってきましたが、激変する環境には「適応(Adaptation)」せざるを得ません。
また加速すべきは、ビジネスモデルの転換。TNFDなどの情報開示はあくまで企業の健康診断です。結果を見て「ここが悪いね」と分かっただけでは健康になれませんよね。診断して終わりではなく、そこからどう体質改善するか。その先の「再生」へのアクションを加速させたいですね。
青木: そこで必要になるのがコラボレーションなんですが、日本企業はこれが苦手なんですよね。これまでは自前主義(自己調達)でやってきましたが、複雑化する社会課題は1社では解決できません。
田中: どうしても自前主義となりがちで、直近でようやく国内でも「Co-Creation」という言葉が浸透してきたように思います。

青木: そうなんです。欧州では、大学がハブになって企業や自治体が交ざり合い、社会実験を行う仕組みが進んでいます。例えばドイツのミュンヘンでは、企業や自治体、研究機関が協業するイノベーション拠点を設立して、社会実験をしている。そしてその取り組みは欧州全体にも広がっています。またフィンランドでも、ノキアと地元大学医学部、ビジネススクールの連携が進み、国はもちろん、EUからも助成されています。欧州の強みは、マトリョーシカのような入れ子構造となったネットワークにあるのです。
一方日本では、研究費の申請時を考えても社会への目線が弱く、実装につながりにくい。山形県鶴岡市と慶応義塾大学のような共創例もありますが、もっと地域の大学や自治体とセットアップして、組織の枠を超えた連携を加速させなければなりません。
田中: 私の領域では、情報開示のルールメイキングが進み、ESGの「規定演技」の方は「やって当たり前」になったからこそ、その土台の上でどう個性を出し、価値創出するかという「自由演技」との両建てが勝負になります。中小企業も含めた日本企業が、独自の視座を持って世界に発信するような、「ゲームチェンジャー」としての動きが加速することを期待しています。
山岡: 私は「社会の分断」への適応ですね。世界中であらゆる分断が進んでいますが、それを乗り越えていかないと、どんなに素晴らしいソリューションも届きません。単に状況に合わせるだけの適応では意味がないんです。分断を乗り越えて、ウェルビーイングな社会へ向かう動きこそを「Accelerate」させたい。
「本気の参加者」こそが強み

鈴木: SBの独自性や持ち味についてはどうお考えですか?
青木: そもそもサステナビリティをブランドに結び付けるという発想自体が、(10年目の)今でもユニークですよね。マーケティング的には、サステナビリティは「購買の決め手」になりにくい一方、「顧客離れ防止」には効くとされています。これまでのマーケティングとは違う概念でブランディングを理解することが重要で、そこに特化しているのはSBならではと思います。
山岡: 本当にそう思います。あと、SBでは他のイベントでは見られないようなちょっと変わったメンバーのセッションもありますよね。それはなぜなら、「勉強のための会議」でも「遊びのためのイベント」でもなく、真のサステナビリティに向けて創発や共創の実現を目指す場だからです。参加者の皆さんが、自社のブランド価値を本気で高めるために、この場を存分に使ってほしい。
青木: 参加者が主役なのは良いところですね。
山岡: 高校生が企業CEOと話している場面もあるし、参加者の熱量はすごいものがあります。
田中: だからこそ実践的なことにもチャレンジし、行動できる。「学びの場だけにとどまらず、本質的な議論をしたい」という本気度が高い人が集まっていることは強みですね。
具体的なインパクトの社会実装を

鈴木: そういった強みを生かしつつ、これからの10年、SBをどのような場にしていきたいですか?
足立: 次の10年というより、まずはあと5年、しっかりと変化を生み出す必要があります。SDGsの期限である2030年までは時間がありませんから、各社が課題を持ち寄って「共に実験し、探索する場」をつくっていきたいです。経営トップがSBに来て、他のリーダーたちと議論し、その場で次のアクションを決める。そんな意思決定のプラットフォームにしたいですね。
青木: 全く同感です。ただ情報を得るだけならWebで十分な時代ですから、リアルに集まるからこそ生まれるイノベーションが重要。例えばIKEAの「Life at Home」プロジェクトは、家事負担の偏りという社会課題に対してオープンに呼びかけたら、花王やパナソニックコネクトのような企業が乗ってきました。そういう「この指とまれ」ができる実験場にしたいですね。
鈴木: 実は今回のSB国際会議では、プラチナスポンサーのパナソニックさんに「自社の知的財産を何かに使えないか?」というスタンスで出展いただく予定です。
山岡: すごくいい動きですね。実はSBがきっかけで生まれたコラボって結構あるんですけど、意外と知られていなくて。
田中: まだまだ我々がやるべきことは多々あるということです。当然、パワーやリソースを要しますが、より可視化・仕組み化して、具体的な事業やサービスを生み出すプラットフォームになれたらと思います。「東京でやっている催事」とだけ思われるのは悔しいですし、ここから生まれたコミュニティが社会を変えるような、実践の場でありたい。
山岡: 本当にそう。SBから新しい技術やサービスが生まれれば、大きなインパクトになります。次の10年は、このコミュニティ自体を、ブランドが生き残るための「共創プラットフォーム」へと進化させ、社会に具体的なソーシャルインパクトを実装していきたいですね。


| サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内(SB’26 東京・丸の内) 開催日 2026年2月18日(水)、19日(木)※2日間 会場 東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内3丁目5-1) ※後日、アーカイブ配信(一部セッション除く) 来場者数 5000人(予定) 主催 株式会社Sinc 共催 Sustainable Brands, PBC. (本社:米国) 参加費 有料(事前登録制)※報道関係者は、事前登録で参加無料 内容 基調講演 / テーマ別ブレイクアウトセッション / ワークショップ / 次世代共創プログラム / スポンサー企業・後援団体による展示 / ネットワーキング企画 など 公式サイト https://sb-tokyo.com/2026/ |
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









