
2026年2月、10回目の開催を迎える「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内(SB’26 東京・丸の内)」。この10年で「サステナビリティ」という言葉は定着した一方、世界では「揺り戻し」も起きている。停滞しかけている今の状況を打破するきっかけとして、SB国際会議は「カタリスト(触媒)」という役割を新設。コミュニケーション、イノベーション、地方創生、エシカルの各領域の第一線で走り続ける4人のプロフェッショナルが集った。
今回、SB’26 東京・丸の内の開催を前に、カタリストたちの座談会を実施。サステナビリティの取り組みに化学反応を起こし、「加速」させていくためのヒントを聞いた。
| モデレーター 鈴木紳介氏 (Sustainable Brands Japan カントリーディレクター) カタリスト 高島太士氏【コミュニケーション】 (一般社団法人NEWHERO 代表 / クリエイティブ・ディレクター) 菅原聡氏【イノベーション】 (一般社団法人Green innovation 代表理事) 田口真司氏【地方創生】 (エコッツェリア協会 コミュニティ研究所長) 潮崎真惟子氏【エシカル】 (認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長) |
なぜ今、「カタリスト」なのか

鈴木紳介氏(以下・鈴木): SB国際会議はこの10年で、サステナビリティに関心を持つ多くの仲間が集うコミュニティへと成長しました。扱う領域が広がる一方で、私たち運営チームだけではカバーしきれない複雑な課題も増えてきました。米国のSBには「カタリスト」という役割があり、外部の知見を取り入れながらコミュニティを拡大しています。
日本でも、この10年という節目に、次のステージへ進むための「仕掛け」が必要だと感じ、今回4人の皆さんにお願いさせていただきました。今日はよろしくお願いします。
菅原聡氏(以下・菅原): よろしくお願いします。私は一般社団法人Green innovationという団体で、GXを推進するリーダー育成や、産官学をつなぐプラットフォーム作りをしています。
今、脱炭素や環境問題は、単なるCSRではなく経営戦略であって、安全保障や産業競争力とも複雑に絡み合っています。1社、1人だけで解決できる問題ではないからこそ、さまざまなセクターをつなぐ「触媒」の役割には以前から共感していましたし、SBという場を使ってもっと大きなムーブメントを作りたいと思い、お引き受けしました。
田口真司氏(以下・田口): 私は丸の内にある「エコッツェリア協会」で地方創生のコミュニティづくりに携わっています。元々は通信系の会社にいましたが、経済成長だけを追い求める企業の在り方に違和感を持ち、この世界に飛び込みました。
SB国際会議が始まった当初は、こうした「サステナビリティ」を掲げる場に企業が社員を派遣するというと、「他社に情報を抜かれるんじゃないか」なんて言われることもあった時代です(笑)。それが今では当たり前の風景になった。この10年の変化を感じつつ、日本の大きな課題である「地方創生」を、都市と地方の新しい関係性の中でどう再構築するか。その文脈づくりに貢献したいと思っています。

潮崎真惟子氏(以下・潮崎): フェアトレード・インターナショナルという国際NGOの日本拠点で、人権・環境に配慮したサプライチェーン構築の現場に携わっています。グローバルな会議に出ると痛感するのですが、日本のNPOは欧米に比べてリソースも規模も圧倒的に小さい。欧米ではNPOと企業が戦略的に連携して社会課題解決プロジェクトやルールメイクを行っていますが、日本ではNPOの専門性やネットワークが十分に生かされず、まだそこまで至っていないことがほとんどです。
SBは日本で最大級のサステナビリティ・コミュニティです。ここを起点に、企業とソーシャルセクターの連携を、本当の意味で「実効性のあるもの」に進化させたいという思いがあります。
高島太士氏(以下・高島): 普段は広告のクリエイターとして、企業のブランディングやコミュニケーションを手掛けていますが、正直に言いますと、僕はここのメンバーの中で一番「サステナビリティ意識が低い」人間かもしれません(笑)。
2021年に初めてSB国際会議に参加した時、外資系企業がパーパスブランディングに取り組んでいる姿を見て衝撃を受けた一方で、日本のクリエイティブ業界はまだこの領域に本格的に入ってきていませんでした。
だからこそ、僕のような「外野」の人間が中に入ることで、これまでサステナビリティの文脈に触れてこなかった層との架け橋になれるのではないか。そう思って、数年前から関わらせていただいています。今回カタリストという役割をいただいたので、広告クリエイティブの力を使って、もっとこの場を面白くしていきたいですね。
「加速」を阻んでいる壁は何か?
鈴木:今年のテーマは「Adapt and Accelerate」。それぞれの領域で、変化の加速を阻んでいる「壁」とは何だと感じていますか?
菅原: 最大の壁は、世界的な「揺り戻し(バックラッシュ)」です。地政学リスクの高まり、インフレや原料価格高騰などが重なり、「やっぱり環境対応は後回しでいいのではないか」「儲からないのではないか」と足を止める企業が出てきています。COP29・30でも(議論や合意が)停滞しているように見受けられるものがあります。
しかし、ここで状況を見誤ってはいけません。気候変動はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のレポート通りに進行しており、大きな潮流は変わっていないのです。この「踊り場」のような局面で、思考停止して風が吹くのを待つのか、それともスモールステップでも着実に準備を進めるのか。ここで企業の明暗が分かれるという危機感を持っています。

潮崎: 菅原さんがおっしゃる「揺り戻し」は、人権・サプライチェーンの領域でも同じで、米政権の方針転換や各国からの支援資金削減、各地の戦争・紛争の深刻化を背景に、国連人権フォーラムの場でも、国連人権高等弁務官が「人権はサバイバルモードにある」と表明するほどです。
加えて私が感じる壁は、実効性ある対話の不足です。近年、企業とステークホルダーの対話の場が増えたことは素晴らしいことですが、まだ「いいことを言って終わり」「緩やかな情報交換の場」になっていないでしょうか。 海外の会議では、企業同士やNGOが互いの立場をぶつけ合い、不協和音が生じることすらあります。でも、そこから本質的な解決策が生まれることもあります。
きれいごとだけではなく、生存戦略として「どこにリスクがあるのか」「何ができていないのか」を直視する。その「痛み」を伴う議論も、戦略的な連携の加速には必要だと思います。
高島: 日本人の「真面目すぎること」も壁ですよね。日本人はマナーが良いと言われますが、それは本心からではなく「そう育ってきたから」という同調圧力に近い。 企業コミュニケーションも同じで、真面目に「正しさ」や「あるべき論」ばかりを訴求してしまう。
田口: 地方創生の文脈では、「東京が地方を助けてあげる」「企業が地方に行ってあげる」という古い上下関係の構図が壁になっています。 例えば、再エネ。地方の現場に行くと、メガソーラーへの反対運動など、再エネに対するアレルギー反応すら起きています。それは、地域にお金が落ちず、景観だけが変わるような進め方をしてきたからです。
「予算が切れたから撤退します」という企業の理屈は、そこで生活する人々には通用しません。奪い合うのではなく、地域側が主体となり、都市部の企業がそれを支えるという「自立分散型」の関係性へシフトできるかが問われています。
高島:この議論自体、多くの人にとっては付いていきにくいですよね。世の中のマジョリティは、そこまで社会課題に関心があるわけではありません。「正しいからやろう」ではなく、「こっち側に来た方が面白いよ」「かっこいいよ」という引力、遊び心や色気がないと、新しい層は入ってこない。意識が高い層だけで盛り上がって、一般層が置いてけぼりになっているという断絶をどう埋めるかが課題です。

菅原:大企業の理解は進んでいても、中小企業だと(サステナビリティを)チャンスではなくコストだと感じているところも多いですし。
鈴木:経営者の入れ替わりで考え方が変わることもありますね。ここにきて、大手でもサステナ系の部署が解体される例も出てきました。
田口:地域の人にとって、課題は続いている。「トップが変わったのでやめます」という手の出し方は避けたいですね。
SB’26 東京・丸の内で仕掛ける「場づくり」
鈴木: 「SB’26 東京・丸の内」当日、皆さんが担当するセッションではどのような体験を届けますか?
菅原: 私のセッションでは、三菱電機やNTTドコモビジネスといった大企業が、本気でサステナビリティを経営の中枢に据えた時の「リアル」に迫ります。 三菱電機さんは今、社長直下で100人体制のチームを組み、サステナビリティと経営の統合を進めています。また「STARTUP HOKKAIDO」のように、自治体・企業・大学が一体となって地域課題を解決するモデルも紹介する予定です。
キラキラした成功事例の羅列ではなく、「なぜその決断ができたのか」「社内の抵抗をどう乗り越えたのか」という、泥臭い葛藤のプロセスこそを共有したい。参加者が自社に持ち帰って「明日からこれをやろう」と思える、実践的な場にします。

潮崎: 私が伝えたいのは、複雑化するサプライチェーン管理をどう「効率化」しつつ、そこに「魂」を入れるか。AIやITツールを使えば、(サプライチェーン上の)リスクの「当たり」はつけられますが、それだけでは現場の実態は見えません。
例えばコーヒーの「2050年問題」のように、サプライチェーンのリスクは待ったなしです。味の素さんやUCCさんなど、現場で悩みながら進めている方々と共に、具体的な調達の危うさを企業がどう感じているかという温度感も共有したいです。
田口: 香川県・小豆島(土庄町)の事例などを通じて、視点の転換を提案します。これまでは観光客を呼んで消費してもらう「観光まちづくり」が主流でしたが、これからは「まちづくり観光」です。まち独自の文化や、新しいチャレンジのプロセス自体を見に来てもらう。単なる消費者ではなく、その土地のファンになってもらう。
また長崎県五島市では、漁協が主体となって洋上風力を推進し、「風車に魚が集まる」という新しい価値を生み出しています。こうした「地域が主役」の事例を通じて、都市部の人たちがどう関われるかを考えます。

高島: 僕は「B2B2C(Business to Business to Consumer)」という視点を提示します。 よく「BtoC企業の方が生活者に近いからサステナブルに取り組みやすい」と言われますが、僕は逆だと思っています。素材メーカーや金融など、上流にいるB2B企業こそ、実は生活者価値の源泉を握っており、市場をオセロのようにひっくり返す力を持っている。
三井住友フィナンシャルグループや三井化学の方と共に、「上流から社会をどう変えられるか」、そしてそれが「どう利益につながるか」という話をします。サステナビリティは儲かるし、面白い。その手触りを感じてもらえるセッションにします。
領域を超えた化学反応

鈴木:今後、4つの専門領域が交差することで、どのような新しい化学反応が生まれると思いますか?
田口: 実は、菅原さんが取り組んでいるGXと地方創生は、ものすごく相性が良いはずなんです。でも今は、エネルギーの議論と地域課題が分断されてしまっている。
例えば、北海道のような広大な資源を持つ地域が、単なる資源供給地ではなく、脱炭素を軸とした新しい自律型の経済圏を作る。そこに菅原さんの持つGXの知見と、私の地方創生の文脈が掛け合わされば、これまでにない「強い地域」のモデルが作れるはずです。
菅原: おっしゃる通りで、地域課題の解決の手段としてGXを活用していく必要があると思います。私は今、北海道でもGXの支援をしていますが、そこに高島さんのような「クリエイティブの視点」が入ると一気に加速する気がします。脱炭素の議論はどうしても難しくて硬い。それをワクワクする言葉やビジョンに翻訳してもらえたら、地域の人の「自分ごと化」が一気に進みますよね。
高島: その翻訳作業、ぜひやりたいです。僕は潮崎さんの「フェアトレード」の領域とも化学反応を起こしたい。エシカル消費を「意識が高い人のもの」にせず、いかに「ファン(Fandom)」の熱狂に変えられるか。例えば、田口さんの小豆島のお話みたいに、ストーリーと遊び心が組み合わされば、消費者は「正しいから買う」のではなく「好きだから応援する」というモードに変わる。
クリエイティブとフェアトレード、そして地方の物語が重なれば、最強のコンテンツになるはずです。
潮崎: 面白いですね。私たちの領域では今、サプライチェーン管理が複雑化・高コスト化していて、多くの企業が疲弊しています。でもそこに「遊び心」や「地域の魅力化」という視点が加われば、単なる管理コストだったものが「価値創造の源泉」に変わる可能性がある。
4人がバラバラに動くのではなく、お互いの知見をセッションに持ち寄ることで、参加者に対しても「あ、この課題とこの課題はつながっているんだ」という気付きを最大化できると思っています。
イニシアチブを発信する場に

鈴木: 10周年の先に向けて、これからのSB国際会議にどんな変化を期待しますか?
菅原: 具体的な「アクションが生まれる場」へ進化させたい。グローバルでは「SBとダボス会議はセット」と捉えている企業もある。日本でも、ここから新しいイニシアチブが発信されるような場にしていきたいですね。
田口: 「自分ごと化」ですね。誰かが言っていたからやるのではなく、「私がこう思うからやる」。そういう強い主語を持ったリーダーたちが集まり、互いの筋を確認し合える場になれば。
潮崎: その点では、特に若い世代への期待が大きいです。学生時代は志を持っていたのに、企業に入って現実にもまれて忘れてしまうという人が多い。「SBに来れば、その熱を思い出せる」ような、人の火種を守り、大きくする場所であってほしいです。
菅原: 登壇者と参加者の距離が近いのがSBのいいところだから、もっと有機的に場を作ると、そういう集まりになるかもしれないですね。
高島: 間口の広さ、面白そうだから行ってみようと思わせる魅力ですね。もっと華やかさや色気を出していくことで、これまで出会わなかったプレイヤー同士の化学反応が起きることを期待しています。
| サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内(SB’26 東京・丸の内) 開催日 2026年2月18日(水)、19日(木)※2日間 会場 東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内3丁目5-1) ※後日、アーカイブ配信(一部セッション除く) 来場者数 5000人(予定) 主催 株式会社Sinc 共催 Sustainable Brands, PBC. (本社:米国) 参加費 有料(事前登録制)※報道関係者は、事前登録で参加無料 内容 基調講演 / テーマ別ブレイクアウトセッション / ワークショップ / 次世代共創プログラム / スポンサー企業・後援団体による展示 / ネットワーキング企画 など 公式サイト https://sb-tokyo.com/2026/ |
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









