
サステナブル・ブランド国際会議の学生招待プログラム「第6回 SB Student Ambassador 中国ブロック大会」が2025年11月15日、広島大学東広島キャンパス(東広島市)で開催された。中国5県から29校205人の高校生が参加し、「中国地方に企業や若者が集う、魅力的な拠点の在り方を考えよう」という大会テーマのもと、地域の強みを生かした社会課題の解決策を議論した。
平和を希求し、スマートキャンパスの実現を目指して

冒頭、広島大学の越智光夫学長がビデオメッセージを寄せた。被爆80年の節目に触れ、創立76周年を迎える同大学が、「平和を希求しチャレンジする国際的教養人の育成」をスローガンに掲げるとともに、2030年度のカーボンニュートラル達成とスマートキャンパスの実現を目指して野心的な取り組みを進め、国際的にも高く評価されていることを紹介した。

続いて、登壇した東広島市の川口一成副市長は、酒造りが盛んで、半導体産業の集積地でもある東広島市が、国際色豊かなSDGs未来都市として、参加型のSDGsの取り組みを進めていることを説明。「行政だけでは解決できない課題に対し、企業や学校、市民の皆さんと『共創』していくことが求められている」と力を込め、会場の高校生に「今日のイベントを通して、ぜひ課題解決能力を身につけてほしい」と期待を寄せた。
海藻の課題とは?大事なのは感じる力

基調講演には四国大会に続いて、合同会社シーベジタブルの研究開発メンバーで、東京大学大学院生の新北成実(しんぼく・なるみ)氏が登壇。日本の海藻を取り巻く課題を提起しながら、大学時代の授業をきっかけに、どんどんのめり込んでいったという海藻への思い入れを語り、高校生に「大事なのは感じる力。日々、自分自身と向き合うことで、これだと思えるものと出会える。自分の感性を信じ、好きなこととサステナブルアクションがカチッとはまる瞬間を見逃さないで」と呼びかけた。
“街の核”となる魅力的な店をつくるには イズミ
午後の部では、高校生が4つのテーマに分かれ、協賛企業による講演を踏まえたワークショップに臨んだ。

テーマ「小売業の果たす役割」では、西日本を中心に100店舗以上を展開するスーパー、イズミの経営企画部サステナビリティ推進課 課長の松永純一氏が登壇。ショッピンングセンターを「街の核」として、地域の人々が集い、街を元気にする中心的な存在を目指し、企業価値を向上させながら社会課題を解決していくための取り組みを“あの手この手”で進めていることを紹介した。
食品スーパーは商品を冷蔵・冷凍するための電力消費が非常に大きく、イズミのCO2排出量の約96%が電力由来であることから、省エネや創エネを推進。また食品ロスやプラスチックごみの削減には、少量ばら売りや、見せ方に工夫をした手前取りの推進など、多様なアプローチで消費者の行動変容を促している。
松永氏は、「サステナビリティ活動は、マーケティング活動でもある」という視点で事業と社会貢献を両立させることの重要性を強調し、高校生に「SDGsの目標は全部つながっていることを忘れず、“街の核”となる魅力的な店をつくるためのより良いアイデアを考えてほしい」と呼びかけた。

これを受け、各グループが積極的にディスカッション。発表されたアイデアの中からは「春は桜餅、秋はスイートポテトなど、常温で置ける季節の限定スイーツを販売することで、店側が電気の使用量を抑えながら食品ロスの削減につなげられるのでは」「公共交通機関のICカードや自転車の駐輪証明書と連携し、車以外での来店客にポイントや割引を提供する」といった、具体的で斬新、柔軟な発想によるものが多く飛び出した。
トレーリサイクルをもっと身近に、楽しく エフピコ

「循環型社会の実現」をテーマとする講演には、プラスチックの食品トレーメーカー、エフピコから、サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画推進課チーフマネージャーの若林大介氏が登壇した。
若林氏によると、同社は、使用済みトレーを自社で回収し、トレーに再生して販売する、世界で唯一の価値創造プログラムを持つ。生産工場は全国21拠点に広がり、各エリアごとに製造・物流・リサイクルのネットワークを張り巡らせているという。
若林氏は、プラスチックを取り巻く環境問題について、「海洋プラスチックごみ問題と、脱化石燃料によるCO2削減問題の2つは分けて考えなければならない」と主張。なぜなら、近年切り替えが進む植物由来のバイオマスプラスチックや生分解性のプラスチックでは、「海洋プラスチックごみの解決にはつながらず、生分解性であっても一部を除いて海では分解しないため」で、社会的課題をトータルで検討することの重要性を高校生に訴えた。

講演後のディスカッションは、「食品トレーのリサイクルをもっと身近に、楽しく」がテーマに。多くのグループは、「洗うのが面倒」「回収まで持っていくのが大変」といった課題を挙げ、トレーに関しては、汚れごと剥がせるフィルムを貼ったり、洗いやすい形へと改良する案が出された。また、回収場所まで持って行きやすくするため、ドライブスルー型の回収場所を設置する、シニアデーやエフピコデーなど、特別にポイントが貯まる回収日を設定するなど、回収率を上げるためのユニークな解決策が次々に示された。
SDGsでボーダレスなお好み焼きを考えよう! オタフクソース

テーマ「食の可能性」には、広島名物、お好み焼きのソースで有名な、オタフクソース共創本部 お好み焼館 お好み焼課課長の春名陽介氏が登壇し、「世界に広がれ! お好み焼きの可能性」と題して講演した。
お好み焼きは終戦直後、原爆で焼け野が原となった広島で、アメリカから救援物資として輸入された小麦を鉄板で焼き、“一銭洋食”として広まった。電気もガスもなく、水もままならない時代に、「『あるものを入れて焼き、ソースをかけて食べよう』というのが当時のお好み焼きだった」と春名氏は、お好み焼きが元々、SDGsの目標に沿う食べ物であることを強調。
現在は冷蔵庫にある食材を使った“エコのみ焼き”や、イスラム教徒に向けた豚肉を使わないお好み焼きなど、「さまざまな境界線を越えていくボーダレスフード」として可能性を広げているという。

ディスカッションのお題目は、ずばり「SDGsなお好み焼きを考えよう!」。高校生は、春名氏のプレゼンをもとに柔軟にお好み焼きのイメージを広げ、全国各地の特産物を食材に使ったお好み焼きのセットが届くサブスクや、アフリカやアジアでキッチンカーを走らせながらその国に合ったスパイシーなソースも使ってお好み焼きのおいしさをアピールする作戦、さらには「宇宙に移住する未来」に向けて、宇宙で足りない栄養素を補うお好み焼きなど、夢のあるアイデアがたくさん生まれていた。
女性も男性も働きやすい職場の実現を 広島テレビ放送

テーマ「ウェルビーイングの実現」では、広島テレビ放送 経営企画部長の秋信裕子氏が登壇。同社が被爆地広島の放送局として、1962年の開局以来、平和報道に重きを置きながら、近年は子育て支援や防災、ジェンダー平等などの啓発・発信に力を入れていることを紹介した。
そうした社会課題への姿勢は、社内の働き方にも及んでいる。プレゼンでは、2023年から社内横断で進める「わたしらしく生きるプロジェクト」に焦点を当てて説明。日本全体で労働力人口に占める女性の割合が45%を超える中、同社でも、これまで一人ひとりが表に出さずにきた女性特有の健康課題をまずは社内で「見える化」することから取り組みを始めたという。
アンケートの結果、全国傾向と同様に、月経に伴う体調不調が仕事や家事に支障をきたし、「仕事中に生理が急にきて困った経験がある」とする声が多く寄せられた。これを受け、広島テレビではトイレに生理用品を常備し、全社員を対象に更年期に関するセミナーを実施している。セミナーを受けたことで、40代の男性社員から「自分の体調不良の原因が更年期によるものだと分かった」との声もあったという。
秋信氏は、「女性が働きやすくなることは、男性社員にとっても働きやすい環境に変わるということ」と強調。番組やウェブを通じて産婦人科の医師らとも連携した女性の働き方に関するコンテンツを提供しており、「情報発信が得意な企業として、これからも挑戦を続けていきたい。皆さんには誰かの背中をそっと押せるような大人になってほしい」と呼びかけた。

講演後のワークショップのテーマは、「SDGsの17目標の中から訴求したいものを選び、そのCMの絵コンテを作る」というもの。高校生たちは、示された約15秒の枠内で何をどう“視聴者”に伝えるか、映像制作の設計図となるストーリー作りとイラスト作成に挑戦し、ジェンダー平等や、子どもの貧困や教育格差、そして広島から平和の大切さを訴える作品が次々に出来上がった。
SDGsは未来への贈り物――アイデア次々と

ワークショップの終了後は、各テーマの議論を代表して、4チームが全体発表を行った。
小売業の役割について考えた代表チームは、ショッピングセンターの屋上に植物園を作り、ロスになる食材を肥料にしたり、店内には、人が歩いた際に出る振動を電気エネルギーに変換する装置を置く案を発表。自動ドアは手動で簡単に開くドアに変え、店内では、寒いと感じる人を優先して冷房を弱めたり、アイスや冷凍食品売り場と惣菜売り場を合体させることによって、節電とCO2削減効果が期待できるという。
イズミの松永氏は、「小売業として、いかにお客さまに買い物を楽しんでもらいながら、社会課題を解決するかという着眼点で、店の屋上から2階、1階まで、全てのカテゴリーでこんなことができるんじゃないかと考えてもらった。早速、社に持ち帰って検討したい」と評価した。
「循環型社会の実現」がテーマの代表チームは、使用済みトレーの回収ボックスがどこにあるのかを一目で探せるアプリを作り、回収ボックスにトレーを入れるとキャラクターが喜んだり、育ったりする仕組みを作る、という案を発表。トレーの回収量とCO2削減効果をSNSなどで毎週、発表することも特徴で、エフピコの若林氏は、「今は1年に1回しか発表していないので、もっとリアルタイムに、細かく発信していくことが大切なのではないかというところが響いた」と講評した。
「食の可能性」がテーマの代表チームが発表したのは、「ガーナの子どもたちにカカオを食べる機会を与えるお好み焼き」だ。きっかけは、学校の地理の授業で、カカオ豆の農園で労働を強いられているガーナの子どもたちが、貧困から、カカオ豆を食べる機会がなく、自分たちが何を生産しているかを分からないでいることを知ったこと。生徒たちは、カカオ豆で作ったお好み焼きをガーナの子どもたちに食べてもらうことで、お好み焼きがいつかガーナの新しい産業になり、同じような国へとお好み焼きが広がっていく――と構想を語った。
これに対し、オタフクソースの春名氏は、「お好み焼きを世界に広めるとことと、貧困をなくすという社会課題を見事に表現している。SDGsは次世代への贈り物であると考えた時にすごくいい発表だと感じた」と生徒たちの感性を褒めた。
「ウェルビーイングの実現」チームからは、世界中の人が、ごみと向き合うために、「ごみが世界を侵略している!」というストーリーで組み上げた絵コンテが発表された。作中で主人公はごみのモンスターに食べられてしまうが、それは夢だった。しかし、ごみは私たちの地球を壊すかもしれない、というメッセージで締めくくっており、広島テレビの秋信氏は、「CMは約15秒の映像だけで伝えないといけない。その意味で、このチームの絵コンテが一番分かりやすかった」と総評した。
最後に、基調講演を行った新北氏が再び登壇。高校生たちの発表に対して「どれも自由な発想で、もしかしたら現実になるかもしれないと思うものもあり、良いな、面白いなと。いつか海藻でもみんなと一緒に考えられたら楽しいだろうな」と感想を述べ、「今日のこの経験は必ずいつか役に立つ、力になる。また明日からいろいろなことに目を向けて挑戦していってほしい」と期待を込めてエールを送った。

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。













