• 公開日:2025.11.25
COP30 化石燃料脱却のロードマップ採択ならず――1.5度実現へ 非国家アクターが役割増す
  • 廣末 智子
Rafa Neddermeyer/COP30

アマゾンの玄関口に位置するブラジル・ベレンで開かれていた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は11月22日、化石燃料脱却に向けたロードマップ(工程表)の策定などを巡る攻防の末、会期を1日延長して閉幕した。

最終合意ではロードマップの策定が見送られたばかりか、「化石燃料からの脱却(transitioning away from fossil fuels)」という文言までもが消え、途上国が先進国に求めた気候災害への対策資金(適応資金)を2030年までに3倍にする目標についても、2035年を期限とする努力目標に後退。パリ協定採択から10年の節目の会議は、米国の不在を含め、一刻の猶予もない気候危機対策における各国の対立を改めて突きつける結果となった。

一方、会場では、企業・自治体・先住民コミュニティら“非国家アクター”の影響力がこれまで以上に高まり、COPという場の役割や、国際協調の形そのものが変わりつつあることも強く印象付けた。

議長国提案に80カ国以上が賛成も…反対根強く文言削除

今回、成果文書に盛り込むかどうか、最後まで駆け引きが続いた、化石燃料からの脱却に向けたロードマップの策定。「化石燃料からの脱却」という文言自体は、2023年のCOP28の合意文書で初めて明記されたが、それをいつまでに実現させるのかについては今まで道筋が示されておらず、議長国ブラジルが開幕前から、森林破壊を終わらせるための計画と合わせて、その必要性を訴えていた。

Ueslei Marcelino/COP30

国際環境NGOの報告などによると、議長国からのこの呼びかけに、EUをはじめとする欧州各国や、気候変動の深刻な影響を受けている太平洋の島しょ国など80カ国以上が賛同。一方で、サウジアラビアなどの産油国を中心に、強硬な反対がなされた。

22日の閉幕直前には、EUが、温室効果ガス排出の主要な原因である、化石燃料脱却のロードマップ策定が明記されなければ決裂も辞さないとする構えを見せる場面もあったが、最終的に、議長がロードマップばかりか関連文言を全て削除した上での合意成立を宣言した。

もっともこの結果を受け、ブラジルは、自国が主体となり、森林破壊を終わらせるロードマップと、化石燃料からの脱却の道筋を示す、2つのロードマップの策定をCOP外のイニシアティブで進め、次回のCOP31で発表する意向を表明している。

先進国から途上国への「適応資金」も努力目標に

また今回のCOPでは、途上国が気候変動への対策を講じるための適応資金についても紛糾。会期の終盤、18日に示された議長案では、2030年までに先進国からの適応資金を3倍にする目標を決定する選択肢が入っていたが、最終合意では、「2035年までに少なくとも3倍にする努力を求める」とする記述に後退した。つまり、資金を出す側の日本を含む先進国の負担増に配慮し、実施時期を5年先送りするとともに、努力目標とすることで拘束力を弱めた形で、途上国側にとっては大きな不満の残る結果となった。

「ネイチャーCOP」として 大きな成果は新基金創設

開催地ベレンは世界最大の熱帯雨林、アマゾンの玄関口にあり、今回のCOPは、気候危機対策と自然資本の保全を一体で捉える「ネイチャーCOP」としての色彩が濃かった。議長国ブラジルにとって大きな成果と言えるのは、開幕直前の11月6日に発表した、熱帯雨林保護のための多国間基金「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(TFFF)」の創設だ。

TFFFはいわゆる新興国や途上国間の“南南協力”であり、政府と民間による投資と、そのリターンを森林保全や先住民族の支援などに還元する新たな枠組みと言える。

COPの役割変化へ 存在感増す非国家アクター

一方、今回のCOPでは、政府間交渉の場としてのCOPの役割が大きく変わりつつあるのを印象づける動きもあった。パリ協定の細かな運用ルールは前回のCOP29まででほぼ出揃い、議長国ブラジルは、COP30を、1.5度の実現に向け、着実な成果を上げるための「実施(Implementation)のCOP」と位置付けた。そうした流れの中で、企業や自治体、先住民コミュニティや若者ら、非国家アクターの存在感が例年にも増して際立った。

Rafa Pereira/COP30

中でも、象徴的なのは、COP28で行われた初のグローバル・ストックテイク(GST)の結果に基づく、世界中の非国家アクターの取り組みを共有し、連携を深める「アクション・アジェンダ」がこのCOP30で始動したことだ。

具体的には、エネルギー、森林・海洋、農業・食料、都市・インフラなど6分野ごとに「再生可能エネルギーを3倍にする」といった30の主要目標を推進するグループが置かれ、全体で482のイニシアティブが参画した。

COP30の公式サイトが閉幕後に発表したリリースによると、今回のアクション・アジェンダを通じて「人々の日常生活に焦点を当てた取り組みを含め、真の変化を促す、約120の『解決策を加速するための計画』がまとめられた」という。

このアクション・アジェンダの枠組みは、2030年まで継続されることが決定しており、2028年に行われる2回目のGSTに向けて、1.5度目標の実現を牽(けん)引する担い手としての非国家アクターのさらなる動きが期待される。

Hermes Caruzo/COP30

また米国が政府代表団も派遣せず、著名経営者たちも参加を見送ったとされる中で、COP30では5000以上の非国家アクターが参加する連合「America is All In(アメリカはみんなパリ協定にいる)」を中心に、州政府や都市、企業、大学などさまざまな立場の非国家アクターが活発な議論を行い、大きな存在感を発揮した。

さらに、今回、注目を集めたのは、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「生物多様性の守護者」と呼ぶ先住民族のコミュニティだ。アマゾン流域を中心に、世界中から約900人が公式交渉に参加。会期を通して熱帯雨林の開発停止や土地と権利の保護などを訴えた。

COPはどこへ向かうのか 一刻の猶予も許されない気候危機対策

初回のGSTでは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の科学的知見を踏まえ、1.5度目標を達成するには、世界全体の温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減する必要性が示されている。

しかし、この間にも世界の排出量は過去最多を更新し続け、2024年にはとうとう平均気温の上昇幅が1.5度を超えた。世界気象機関(WMO)などは「2030年代にパリ協定の1.5度目標が達成できなくなる可能性は高い」と警告しており、気候危機対策は、一刻の猶予も許されない状況にある。

本来であれば、2025年2月が提出期限であった各国の2035年に向けたNDC(国別削減目標)は、COP30の期間中にようやく122の国と地域が提出したが、これらを足し合わせても 1.5℃目標の実現には、依然として乖離が大きい。加盟国の約4割はNDCを未提出で、協定の実行性にも課題がある。

さらに近年は、世界各国で高まる地政学上のリスクや、極右政権の台頭なども少なからず影響し、全会一致を原則とする国際交渉の場における合意が難しくなっていることが否めない。これ以上の気候危機を回避するには、各国がNDCを強化するための資金と技術、政策を着実に実行し、加速していくことが不可欠だ。

1.5度の道のりは険しいが、その歩みは国の枠を超え、多様な主体へと広がっている。主役の一翼を担うのは、存在感を増す非国家アクターだ――。COP30を通じて、そんなメッセージを確かに感じ取った人が多いのではないだろうか。

なお、次回2026年のCOP31はトルコで、2027年のCOP32はエチオピアで開かれることが決まった。

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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