
米国で「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」が施行されてから3年。中国新疆ウイグル自治区からの輸入は、強制労働に関与しているかどうかを明確に判断できないため、原則禁止された。この画期的な法律は人権デューデリジェンスの法制化に新たな基準を打ち立てたが、米国だけが取り組んでも同地域の強制労働を根絶することはできず、各国での法制化が急務だ。UFLPAの効果と新疆ウイグル自治区を巡る現状について、米ウイグル協会などに話を聞いた。(翻訳・編集=小松はるか)
UFLPAは施行初年度の2022年度だけで、新疆ウイグル自治区に関連する13億ドル(約1917億円)超の輸入を差し止めた。一部の企業がUFLPAを骨抜きにしようとしたこともあったが、法律は効果を発揮し、義務的なデューデリジェンスの可能性を示した。
しかし、一国だけの取り組みに限界があることも明らかになった。米ウイグル協会の代表でウイグル系米国人のエルフィダル・イルテビル氏は、カナダや欧州などの他の市場でも同様の人権デューデリジェンスに関する規制を取り入れることを期待する。
イルテビル氏は、米サステナブル・ブランドの取材に「米国は、UFLPAのような法律が効果的に施行されること、さらに企業がその法令を順守できることを示した。私たちは、より多くの国がウイグル族の強制労働に立ち向かい、UFLPAのような法律を早急に導入することを求めている」と語った。
UFLPA制定の背景
2018年頃から、情報技術を駆使してウイグル族を監視する中国の警察国家についての報告書が公表されるようになった。その体制はすぐに第二次世界大戦以降で最大の強制収容所へと姿を変え、300万人ものウイグル族や主にトルコ系イスラム教徒の少数民族が収容された。また、新疆ウイグル自治区では文化的ジェノサイドも進行しており、モスクや墓地、聖廟(びょう)、歴史ある街並みが計画的に破壊されている。
2019年末になると、収容されている人々が工場の労働力として動員されている証拠が出てきた。オーストラリア戦略政策研究所が2021年3月に発表した報告書は、アディダスやフィラ、ナイキなど多くのアパレルブランドが新疆ウイグル自治区のサプライヤーから間接的に調達していると告発した。その後も、同自治区の製品が世界中で流通していることを示す多くの報告書が発表されてきた。
「アパレル部門だけではなく、海産物、トマト、自動車、太陽光パネル、重要鉱物などの他の産業も、ウイグル自治区での強制労働に関わっていることを示す報告が増えている」とイルテビル氏は話す。
米国にはもともと関税法307条と呼ばれる、強制労働により生産された製品やサービスの輸入を禁じる法律がある。しかし、輸入を差し止めるには強制労働の証拠が必要となり、それが次第に不可能となった新疆ウイグル自治区からの製品に対しては法律の効果が限定的だった。
一方、UFLPAは、新疆ウイグル自治区で公正な監査ができないことや、中国政府が強制労働を長期化させていることから、同地域からの全ての製品を強制労働と結びついていると見なす。そうすることで、輸入禁止の対象は大幅に広がり、中国政府に対してウイグル族や他のトルコ系民族への弾圧を終わらせるよう圧力をかけられる。
「メッセージは明確だ。強制労働は最重要のコンプライアンス課題で、実効性に乏しい行動規範やCSRの課題ではない。何が変わったか──。それは法的リスクや執行リスクが生じるようになったことだ」と、アナスーヤ・シャム氏(人身取引リーガルセンターの人権・貿易部門ディレクター)はコメントを出した。
新疆ウイグル自治区を超えて広がる問題
UFLPAがもたらした効果は、懸念すべき現実も映し出した。企業が強制労働を排除する、もしくは人権基準を守ると自主的に約束する体制では、複雑化したサプライチェーンの労働環境を改善できないことが多かった。その背景には、サプライチェーンの監視を市民団体の告発やメディアの報道に依存し、企業が十分に管理できていないという問題がある。
残念ながら、中国政府は強制労働を終わらせることも、人権状況を改善することもなかった。代わりに、新疆ウイグル自治区でつくられた製品を中国の他の地域や別の国を経由させることで輸出元を偽ろうと試みた。実際に、2023年にUFLPAによって差し止められた製品の大半は中国からではなくマレーシアなど他国から輸入されたものだった。
イルテビル氏は中国政府の他の方針についても説明した。例えば、ウイグル族の労働者らが監査人に見せる偽の給与明細書を作っていることや、数百万人の労働者を新疆ウイグル自治区から中国各地の工場へ移送する労働移転施策などだ。
各国も規制の導入を
UFLPAが成立した時、支持者らは他の市場もすぐに追随して、中国政府が強制労働の利用を阻止するために協力することを期待した。しかし現実は異なり、EUの人権デューデリジェンスの法制化など進展はあるものの、今のところ世界で同様の法律は誕生していない。
「他の国々でも前進はあるが、強力な法律はまだ通過していない。EUの法案ですら適用開始まで3年の猶予期間がある。見込みはあるものの進展は遅い」とイルテビル氏は話した。
米国にも課題が残る。トランプ政権は、米国企業に海外でのビジネスに責任を負わせるための海外腐敗行為防止法などの法律の執行を停止し、人権保護のための国際的な法の執行に米国が関与することを大幅に制限している。UFLPAへの影響はまだ無いものの、新政権が1月に発足して以降、輸入禁止対象リストには新たな企業が追加されていない。
それでもUFLPAは、国が海外のサプライチェーンにおいて人権保護の法規制を執行できることを証明した。今こそ、世界の国々にはウイグル族や世界中で強制労働をさせられている民族の人権を守るために、実効性のある対策を取ることが求められている。