
2050年には世界人口の約4人に1人を占めるとされるアフリカに、いま、世界経済を牽引する次のエンジンとして注目が集まっている。その成長を持続可能な形で実現し、「アフリカと共に革新的な社会課題の解決策を共創する」をテーマに掲げた「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」が8月20日から22日まで、横浜市で開催された。閉会式では、自由貿易の推進や感染症対策、人材育成などを柱に各国が協力を強化する「横浜宣言」を採択。日本政府は官民連携による投資拡大を打ち出し、アフリカを巡る新たな市場形成に向けた取り組みが加速している。
日本の大手企業やスタートアップは、アフリカの社会課題解決に向けて、どのような分野でどんなイノベーションを進めようとしているのか――。ここでは、TICAD9と同時開催され、過去最多の196社・団体が出展した、日本貿易振興機構(JETRO)主催の「TICAD BUSINESS EXPO & CONFERENCE」の会場で見た取り組みの一端を報告する。
感染防止効果が期待される簡易トイレ

住宅設備大手のLIXILが展示していたのは、アフリカやアジアで普及を進める簡易トイレのブランド「SATO」だ。水を流すと弁が開閉する構造で、臭いやハエなどの害虫を防ぐ。衛生インフラが不十分な地域における感染防止の効果が期待される。
SATO事業部アジア地域リーダーの坂田優氏は「世界中のトイレの課題を1社だけで解決することはできない。NGOなどのパートナーと連携し、エコシステムを築く必要がある」と強調。2018年から国連児童基金(ユニセフ)との協働キャンペーンを展開し、村のリーダーを巻き込みながら衛生市場の基盤づくりを進めてきたという。
現在、アフリカ4カ国に製造拠点を構え、製品価格は10ドル程度に抑えている。坂田氏は「パーパスである『世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現』に沿って、皆さんに使っていただけるように取り組んでいきたい」と力を込めた。ブースでは、SATOトイレや手洗い用「SATO TAP」が、生活に直結したソリューションとして来場者の関心を集めていた。
薬剤耐性を制御し、母子保健を支援する

製薬大手の塩野義製薬のブースでは、薬剤耐性(AMR)や母子保健の課題解決を取り上げた。渉外部ヘルスケア政策グループ長の髙橋剛氏は「アフリカでは処方せんがなくても薬が薬局で買えてしまうため、適正使用ができていない。耐性菌が世界中に広がる恐れがある」と指摘する。
同社は2015年に母子保健支援活動「Mother to Mother SHIONOGI Project」を開始。現在、ケニア、ガーナ、タンザニアで展開しており、地域の母親同士が知識を共有し合う保健教育ネットワークを構築してきた。アフリカ市場への進出はこれからだが、国際的なAMR対策組織「GARDP」と協業し、CSRから一歩進んだビジネスとしての医療展開を目指す。
「感染症や薬剤耐性の制御は地球規模の課題。日本は人口減で薬の市場拡大が難しいが、アフリカはポテンシャルが高い」と髙橋氏。アフリカ進出を見据えてマラリアの治療薬も研究・開発中といい、社会貢献と企業戦略の両輪で進める姿勢が示された。
アフリカで技術訓練、人材育成通じ「共創」

建設機械メーカーのコマツは、排ガス規制対応の油圧ショベルの実機を展示した。3D設計図を基に半自動施工を行える最新技術で、省エネ・高効率施工を可能にする。大洋州・南アフリカG営業担当課長の石原寛氏は「人口増加と都市化が進むアフリカでは、建機の需要がどんどん高まっている」と話す。
同社の重機がアフリカに導入されたのは、半世紀以上前の1963年。現在、アフリカの42カ国に代理店網を築き、修理・メンテナンスを含むサポート体制を敷いている。
アフリカ経済の自律的発展には、人材開発が欠かせない。コマツは南アフリカに設立した現地法人で、シミュレーターを使った技術訓練を実施。2026年にはコートジボワールに新たな人材育成拠点を開設予定で、同社が「アイデンティティー」に掲げる「Creating Value together」の言葉通り、ブースでも共創の姿勢を押し出していた。
スタートアップの新技術に注目集まる
スタートアップのスペースシフトは、AIを使った衛星データ解析技術を強みとする。この技術を駆使することで、農地の浸水域や作物の生育状況を把握し、農業の生産性向上や災害リスク軽減に役立てることができるという。事業開発部の津田谷英樹氏は「アフリカの農地は広大だが、管理インフラが整っていない。衛星データの活用により、農業の効率化と気候変動対策が推進できる」とアフリカ市場への期待を話す。
同社はすでにナイジェリアで、農地のデータを与信審査に使うマイクロファイナンスを試行中だ。津田谷氏は「アフリカ進出にはパートナーが必要」とし、TICAD9でのブース出展を通じ、ネットワークの構築を模索。実際、衛生データを農業・金融に活用する取り組みに対し、関心を示すアフリカの政府関係者もいたという。
同じくスタートアップのTBMは「製造時に水をほとんど使わない紙・プラスチックの代替素材」として、石灰石を主原料とする新素材「LIMEX」を展示。その製品は、温室効果ガスの削減や水資源保全の観点から、来場者の注目を集めていた。

アフリカから49カ国が参加して採択された「横浜宣言」では、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の促進や人材育成、若者・女性のエンパワーメントなどが掲げられ、石破茂首相は閉会式で「日本とアフリカが有する豊かな人材や技術、知恵を持ち寄り、課題解決を通じてより繁栄を目指す」と述べた。投資やパートナーシップの強化を軸に、日本企業とアフリカがどこまで革新的な「共創」を実現し、多様な社会課題を解決できるか、そして世界経済に貢献できるかに注目が集まる。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。