• 公開日:2022.02.03
  • 最終更新日: 2025.03.02
戦争がもたらす悲劇の未来 映画『マヤの秘密』
  • 松島 香織

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1950年代後半の米国、医師の夫と一人息子と暮らす主婦のマヤは、戦争中にナチスに性的暴行を受けさらに妹を殺された経験がある。ある日、近所に引っ越してきた男を見て当時の記憶がよみがえり、男を犯人だと“確信”して自宅の地下室に監禁する。映画『マヤの秘密』はホロコーストの被害者が犯人を偶然見つけ苦悩する姿を描いた作品だ。マヤの言動はただの妄想なのか真実なのか観る者を混乱させるが、「当事者」でなければ実際に起きたことはわからず、戦争は誰の心にも傷を残し未来に影響し続けることを痛感させられる。(松島香織)

マヤから戦時中に受けた告白を聞いて、夫・ルイスは男の監禁を手伝うことになる。医師であるルイスは男のけがを治し、男の身元やカルテを調べて事実かどうかを確かめようとする一方で、不眠症の妻が精神的な病を発症したのではないかと疑い始める。

1950年後半の米国は、戦後の好景気を受けて消費による豊かさを享受していた時代である。ルイスと男(トーマス)の妻レイチェルは、欧州で戦争を経験するも戦勝国側であり国としての歴史が浅い。だが、マヤはルーマニアのロマ(ジプシー)であり、トーマスはドイツ人だ。欧州にはそれぞれ戦勝国・敗戦国が存在する。さらに大陸的に行き来しやすく長い文化の積み重ねがあることなどから、人種や宗教など多彩であり複雑だ。

同じ戦争を経験しても欧州と米国では根本的に認識が異なること、またパートナーであってもわかり合えないことがあることなど、物語が進行するについて登場人物の考え方のずれが浮き彫りになってくる。マヤは男を殺したいほど憎んでいたが、真実を知りたかったし殺せなかった。一方、ルイスはマヤに「男を赦して平穏な生活に戻ろう」と諭し妻を守ろうとした。

ラストは独立記念日で花火が打ち上げられる中、子どもたちが風船を持って駆け回るシーンで終わる。多様性を認め合う寛容さが求められる現代において、人はどこまで赦し赦されるべきなのか非常に考えさせられた。何よりも戦争は普通の人を逸脱した行動に走らせ、被害者はもちろん加害者でさえも心の深い傷として残り続ける。そうして自分の未来や愛する家族に影響を及ぼすものなのだ。

映画『マヤの秘密』 
https://maja-secret.com
配給:STAR CHANNEL MOIES
2022年2月18日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

written by

松島 香織(まつしま・かおり)

2016年株式会社オルタナ在職中に、サステナブル・ブランド ジャパン ニュースサイトの立ち上げメンバーとして運営に参画。 2022年12月株式会社博展に入社し、2025年3月までデスク(記者、編集)を務めた。

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