• 公開日:2022.01.11
サステナビリティをマーケティングや事業に落とし込むには サントリーの事例に学ぶ:SB2021 Sustainable Marketing Day (3)
  • サステナブル・ブランド ジャパン編集局

サントリーホールディングス サステナビリティ推進部長 北村暢康氏 

言わば商品を売るための仕組みづくりであるマーケティングと、企業のサステナビリティを巡るコミュニケーションとを一体化して取り組むことに壁を感じているビジネスパーソンは多い。自社の存在意義「パーパス」に立脚したブランド戦略を展開し、社内外に共感を広げていくために大切なことは何なのか――。昨年11月26日に開かれたサステナブル・ブランドジャパンのセミナー「SB2021 Sustainable Marketing Day in 日本橋 MOVE ON〜パーパスの構築から事業化への進展へ〜」では、企業理念である「人と自然と響き合う」に基づいて循環型社会の構築を目指すサントリーホールディングスの事例を通して、サステナビリティとブランドのつながりを改めて考えた。(サステナブル・ブランド ジャパン=廣末智子)

“ファクト”あってのサステナビリティ・コミュニケーション

サントリーホールディングスの北村暢康・サステナビリティ経営推進本部サステナビリティ推進部長による基調講演。「サステナビリティへの体質改善(SX)—サステナビリティをパーパスからマーケティングや事業レベルまでに落とし込むには—」と題し、青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサーとの対話形式で行われた。

サントリーの企業理念として有名な「人と自然と響きあう」という言葉。北村氏によるとこれはちょうど氏が入社した30数年前に制定された。「われわれは、自然という恵みを商品という価値に変え、人社会と接点を持っている。自然と人社会の間にいる存在として、双方を単につなぐだけでなく、響き合わせる、より高いレベルで良い関係をつくりあげたい」という思いが込められており、こうした企業理念の実践こそが「サントリーのサステナビリティ経営そのものだ」とする。

例えばプラスチックの領域では、同社は2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルにリサイクル素材、あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロにする方針を具現化するために、包材メーカーや技術会社と協業し、継続的なリサイクルシステムの確立に力を注いでいる。こうした取り組みの蓄積によってできた“ファクト(FACT)”を広告やHPなどを通じて、誠実に、分かりやすく伝えるとともに、「必要とされる時に出していくことが大事だ」と北村氏は“サステナビリティ経営におけるコミュニケーションの留意点”について強調する。

なぜなら同社は1990年代からペットボトルの軽量化を進めるなど長年資源の有効活用に向き合い、子どもたちに水の大切さを伝える“水育”も約20年続けている。そうした実績=ファクト=があるからこそ、今、海洋プラスチック汚染などの問題に対しても飲料メーカーとして業界をリードする立場にある。水育は今後、プラスチック問題の啓発にまで広げていく方針だという。

ブランドと顧客との間にできる“連想のパスウェイ”に、サステナビリティが入っているかどうか

一方、青木氏は最近の消費行動の調査で、サステナブルな商品を「購入したい」とする人が7割いるのに対して実際に購入する人は3割という結果が出ていることに触れ、「買いたいのに買わない。この4割のギャップをどう埋めるのか。消費者が買いやすい場所や価格、コミュニケーションはどう進めれば良いのでしょう」と質問。

これに対し、営業やマーケティング部門にも長く携わった経験のある北村氏は、「あくまで個人の見解」とした上で、自作の“連想のパスウェイ(小道)”という言葉を紹介し、「好きなブランドであれば知れば知るほど共感と愛着が湧く。その結果、ブランドとお客さまの間にできるいろんな“パスウェイ”の中にサステナビリティが入っているかどうか。(入っていないとすれば)その道の中に埋め込むか、あるいは、そういう道をつくりにいくことが必要ではないか」と指摘した。

社内の至るところで「1万遍」、辻説法のように話す

また社内でサステナビリティへの取り組みと、マーケティングの取り組みを一体感を持って取り組んでいくための方法を聞かれ、北村氏は全社に向けた研修や各部署ごとの勉強会などを通してサステナビリティとの接点づくりに社を上げて取り組んでいることを説明。会長から1万遍話すように言われているそうで、そうした場に積極的に出向き、最近ではサステナビリティについて「至るところで辻説法のように」話していることを明かし、「そうやってやっとつながるんです」と強調した。

最後は、昨年9月に放送されたというCMを紹介。「2030年、全世界でペットボトルの100%サステナブル化へ」とするサントリーの目標とともに、女優の芦田愛菜さんが空になったラベルの剥がされたペットボトルを手にし、「また会おうね」と言いながら潰すシーンを映像化したもので、飲料のコマーシャルにはつきものの飲み物を飲むカットが全くない。北村氏によると、サステナビリティ推進部とコーポレートブランドを担当する部署などが会社を横断し、「初めてのトライアル」としてSDGs週間のタイミングに合わせて作成したCMだという。

組織を一体化させるには業務としてだけでなく、あらゆるアプローチでサステナビリティの理念を伝える情熱がいる。「北村さんをそうさせる理由はなんですか」という問いに氏は「人と自然と響きあう、という企業理念を誇りに思うだけでなく、それを実践して成果を出し、資産化して次の世代につなげる責務がある」と力強く答え、講演をしめくくった。

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