時代に合ったまちづくりとは?――企業SDGsの取り組みとDX活用から考える〈後編〉
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まちづくりに取り組む企業、団体、研究者らで構成する未来まちづくりフォーラム実行委員会は、2月14・15日に東京・丸の内において「未来まちづくりフォーラム」を開催する。まちづくりを、企業のSDGsへの取り組み、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用などの視点から議論する。フォーラム開催を前に、コロナ禍を経て変革した時代に沿った社会課題の解決や地方の産業をどのように推進したらよいのか、実行委員会のメンバーに語ってもらった=後編。
行政と地域の役割分担がまちづくりには必要
松本氏(左)
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松本昭・一般社団法人チームまちづくり専務理事:われわれは東日本大震災後、まちづくりのために35人の専門官が集まったプラットフォームです。行政と企業、市民セクター(非営利団体)をいかに横につなぐかに注力しています。かつては行政と一緒に活動する相手をマッチングする役割が自分たちでした。
空き家の問題は個人の財産ですが、社会にも影響します。行政と地域の役割分担がまちづくりには必要です。社会課題は地域とのつながりで、コミュニティでまちづくりができればいいと考えています。
小寺氏
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小寺徹・一般社団法人CSV開発機構 専務理事:地域に入り行政と企業をつなぐ役割を担っていますが、すでに地域で小さな資金を回すことが可能で、それで地域は豊かになれる。連携をどのようにしたらいいか、自分では悩んでいることです。企業も資金、人材を潤沢に拠出できる時代ではありません。大企業もあるべき姿に悩んでいるかと思います。
脱炭素のまちづくりについては東京大学と勉強会を進めていますが、その中でも明らかになったことは、技術力だけで脱炭素のまちづくりを実現できることは無いということです。家庭でCO2排出量を66%削減という国の目標達成は難しく、まちの構造そのものを見直さなくてはならない。どう楽しく脱炭素という暮らし方を提案するか、日本企業は誰もわかっていないのではないかと。
コロナが収束して欧米企業が乗り出したら、日本企業は太刀打ちできません。円安の影響で日本企業を買収するといったこともあり得ることです。日本は大転換期起点に来ていますが、日本企業は気づいているのか、非常に危惧されています。
まちづくりは今の延長線上では絶対にあり得ません。ただ、地域では顔が見える関係で動くと非常に早く解決します。横連携した経済性は有効だと考えています。そうして動き出すと企業が協力をしてくれます。コロナ禍で企業意識が変わりました。また住民は企業に頼れないと気付いています。特に地域の中小企業は自ら変わろうとしています。こういう人たちと大企業が参画して、どうビジネスを作っていくか。来年度の未来まちづくりフォーラムは大転換期を迎えるでしょう。
本田氏
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本田恵・損害保険ジャパン 経営企画部 サステナビリティ推進グループ:当社はあらゆるリスクに対する備えを提供し、災害を防ぎレジリエントな社会に貢献する、を重点課題としています。特に地域防災への対応に取り組んでいます。これまで多くの自然災害関連ノウハウを取得し、全国にネットワークを持っています。また30年にわたりサステナビリティの取り組みをしてきました。この経験と知見を活かし、「災害に強い地域社会づくり」に貢献していきたいと考えています。
具体的には、自然災害時に要配慮者の早期避難を支援するためのデジタルの活用や、リストによる災害時に提供できるものの管理でミスマッチングを防ぐなどに取り組んでいます。また岡山県ではタクシー会社と提携し、災害時に社員が査定でお客様のご自宅を回る際の待ち時間を活用し、タクシーで支援物資を運ぶスキームを構築しました
笹谷:本業に根差し継続性が得られると、ネットワークの横展開ができます。
釣流:当社では工場から店へ商品を運ぶトラックの位置情報を把握しており、災害が起きた際の物流網のルート設定などの情報収集に役立てています。またセブンバンクのATMは12か国語に対応していて、海外から来た労働者の生活の入り口として、ウェルビーング、安心を提供しています。
まちは人づくり、社会づくりのプラットフォーム
田口氏(左)
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田口真司・
エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)
事務局次長 SDGsビジネス・プロデューサー(以下、田口):皆さんのお話を伺って勇気がわきました。10年前は、まちづくりは変わった人が取り組んでいると思われていました。本フォーラムを通じて取り組みを広げる役割を担い、情報発信を強化していきたいと思います。
これまで大企業はマーケットを荒い粒度で見ていました。昭和はそれで動いていましたが、多種多様な社会問題がある昨今では、粒度を細かく見なくてはいけません。
豊かな地域の多くは木材で潤っていましたが、現在、木材は高く売れないないし、人件費が高く、まちの活気はなくなっています。課題は産業構造であり、森に価値を見出している人もいます。森で過ごす、イベントを開催するなどがあり、見方を変えるとさまざまな魅力が見えてきます。これまでのやり方を踏襲してはダメな時代ですが、すべてを捨て去る必要はない。見極めが大切だと思います。
環境づくり、社会課題解決など、ソフトの時代になっている中で何のためにまちづくりするのか、自問しています。まちは、人づくり、社会づくりのプラットフォームであり、ゴールなくバージョンアップし続けることが必要です。笹谷さんは「グレートリセット」と言っていますが、ベースプラットフォームだから変わらなくていい、ではありません。まちづくりでやることは多い。未来まちづくりフォーラムで発信しつつ、皆さんと議論し続けていきたいと思います。
玉木氏
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玉木欽也・青山学院大学 経営学部 経営学科 教授
:私は重工業のまち、北海道室蘭市の出身で工場が撤退するのを目の当たりに見てきました。未来のまちづくりに必要なのは、人口減少および少子化人口減少の社会問題解決をこれからの最重要課題に位置づけて、地方に新たな産業・雇用をどのように創生していくか、ということです。そこで日本は人に関する多様化が欠けており、これほど障がい者が活躍していない国はありません。海外ではトレーニングを受けて社会で活躍していますし、ユニバーサル就労およびユニバーサル社会参加を実現していく必要があるでしょう。
都市と地方を融合させ、人的に相互の流動を促し、メタバースの世界になると物理的な仕事の場所は関係なくなるので、第二の田舎における自然豊かな環境で、起業する方々を誘発して、支援・協力してほしいと思います。一方、産業界は、地方に、SDGs地方創生の本社・事業会社を地元企業と協同して創設し、本気で地方に新たな産業・雇用の創出を牽引していきたいと思います。
EUの産業界では、サーキュラーエコノミー(CE:循環型経済)が、新たな経営戦略、新規事業開発、雇用創出のカギになると注目されはじめました。例えば、農業生産や卸売り市場での廃棄物、食品プロセスで発生するゴミ、消費者が製品を使い終わったときにゴミとして捨てるのではなく、貴重な資源として再利用したり、新製品サービスに生まれ変わらせる考え方です。最近、ISOにおいてCEの国際標準化の準備が進められることになりました。それに先立ち、EU先進国では、未来のまちづくりや、仕事づくりに向けてCE政策を制定し、戦略的投資をはじめています。
笹谷: 皆さま、ありがとうございました。ご指摘の通り、コロナ禍で世界中の価値観が変わりました。またカーボンニュートラルは喫緊の課題であり、本気でシフトしなくてはいけない。またDXもコロナ禍で課題が浮き彫りになり、人材ポートフォリオの再編まで踏み込む段階で、DXは今や経営マターです。
政府、自治体、企業、すべての関係者が連携して今までの考え方ややり方を全部変えていく「変革」が求められる時代です。総合しますと、最後の焦点は「人」「人的資本」だと思います。そのことを本フォーラムを通じてお互いに学びあいたいと思います。どうぞご期待ください。
取材場所の提供:エコッツェリア協会 3×3 Lab Future
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<第5回未来まちづくりフォーラム 開催概要>
https://www.sustainablebrands.jp/event/sb2023/special-miramachi.html
◆開催テーマ:日本SDGsモデルの最前線 -混迷の時代、羅針盤SDGsで協創力を発揮-
◆会期:2023年2月14日(火)、15日(水)10:00-18:45
◆会場:東京国際フォーラム (東京・千代田区丸の内3-5-1)& オンライン
◆参加費 一般:5500円(税込/事前登録制)※未来まちづくりフォーラムのみ参加の場合、自治体関係者:無料 (事前登録制)
◆主催:未来まちづくりフォーラム実行委員会
◆協賛:NECネッツエスアイ株式会社、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社オカムラ、株式会社熊谷組、株式会社JTB、損害保険ジャパン株式会社、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、日本製紙株式会社、日本製紙クレシア株式会社
◆特別協力:サステナブル・ブランド国際会議(株式会社 博展)
◆後援:内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省(前回実績、関係府省に申請中)
全国知事会、全国市長会、全国町村会、一般社団法人CSV開発機構、全国地ビール醸造者協議会(JBA)、一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク、
エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)、一般社団法人チームまちづくり
◆同時開催:サステナブル・ブランド国際会議 2023 東京・丸の内