発電だけじゃなく、楽しみ、学ぶ!尾瀬の渓流を活用した地域に貢献する再エネ発電所
水の流れをイメージし、人と自然の共生を表現した「ぐんぎん尾瀬片品発電所」
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尾瀬国立公園の近く、渓流が流れる群馬県片品村に意匠をこらした美術館のような小水力発電所が10月21日にお披露目された。東京発電(東京・台東区)が開発したこの小水力発電所「ぐんぎん尾瀬片品発電所」は観光・教育・防災の拠点となるべく計画された、地域に開かれた再生エネルギー発電所だ。発電所のある片品村では、尾瀬と発電所を組み合わせたツアーや環境学習を計画するなど地元からの期待も大きい。このような人が集まる魅力を備えた再エネ発電所は、すでに欧州で先行する。2019年から稼働するデンマーク・コペンハーデンにあるごみ処理場「コペンヒル」は、発電や熱利用だけでなく、人工スキー場やクライミングウォールが併設され、国内外から多くの人を集客する。どちらも地元の資源でエネルギーをつくりだすだけでなく、魅力ある仕掛けづくりにより地域に人を集め、再エネへの理解を進めようとしている。(環境ライター 箕輪弥生)
「再エネ×デザイン力」で地域の価値を高める
夜はライトアップされ、新たな景観をつくりだす
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紅葉が始まりかけた片品村の渓流車沢の谷に、日本でも初めてのスタイリッシュな水力発電施設「ぐんぎん尾瀬片品発電所」が公開された。水が渦を巻く姿をイメージした曲線的なデザインは、建築家の團(だん)紀彦氏によるものだ。デザイン性の高い発電所は、昼間は周辺の自然の景観に溶け込み、夜は新たな表情を生む。
同発電所は、片品川の支川である車沢の水を取水し、175mの落差を経てイタリアZECO社製のペルトン水車によって、年間約370万kWh (一般家庭約870世帯分)の電力を生み出す。取水した水は、落ち葉やごみが取り除かれ、きれいな状態で再び沢に戻る。「流れ込み式」と言われるこの方式は水の流れを止めることなく発電ができる。
「発電所の水の量と落差で、発電量を最も効率的に最もローコストで安定的にできる発電機を世界中から探した」と同発電所を開発した東京発電の三田雅裕取締役がその採用理由を説明する。
建屋の窓から見ることができるペルトン水車。イタリアZECO社製を日本で初めて採用
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高い山々や水を保全する森、豊富な雨量や雪解け水に恵まれた日本は、水力発電に適した場所が多く、経産省の試算によると導入ポテンシャルは世界5位と大きい。しかし、その活用は進んでいるとは言えず、特に未利用分のうち約8割が中小水力だ。
しかし、ダムなどの大規模な開発を行わずに済み、1日中発電を行う小水力は設備稼働率60%とエネルギー効率も高い。環境を壊さずに長年稼働できる小水力は地域のエネルギー源として更なる活用が望まれている。
地域の自治体、学校、企業が連携した取り組みが生まれる
一般的な発電所は安全性などの観点から人の立ち入りを規制し、閉じた場所が多いが、この発電所の特徴は地域に開かれた発電所という点だ。
発電所には発電所内部を見渡せる窓から、水車を見ることができるほか、渓流を眺めながら一休みできるスペースもある。お披露目会当日は、バンド演奏やキッチンカーが入ってにぎわいをつくっていた。もちろんそれらの電源も水力発電によるものだ。
この水力発電所が6年前に計画された時に、片品村の梅澤志洋村長から「災害時などに村民が利用できる電力がほしい」という意向を聞いた東京発電は、災害時に地域の人が使えるポータブルバッテリーを用意し、防災拠点としての役割を付加した。
また、水力発電の仕組みを実際に見て体験できることから、環境教育の場としても同発電所を活用しようという計画が動き出している。まずは地元の尾瀬高校や片品中学校などを対象に、環境教育の場として利用するほか、尾瀬沼と同施設を見学するツアーの企画なども村と協働で予定されている。
同発電所は東京発電が発電所の開発と運営管理を担当し、東京電力エナジーパートナー(東京・中央区)が、トラッキング付きFIT非化石証書を活用した再エネ電力を供給する。
また、地元の群馬銀行がネーミングライツを取得し、ここで発電された電力を店舗などで利用する。その理由について群馬銀行の内堀剛夫常務取締役は「企業として2030年までのカーボンネットゼロを目指していることと、電力に関しても地産地消の取り組みを進めたいと考えていた」と説明する。
欧州では「再エネ×エンターテインメント」の施設も
ごみ処理場のルーフトップが人工スキー場にもなっているデンマークの「コペンヒル」(2023年10月、筆者撮影)
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一方、付加価値をプラスした再エネ発電所は欧州で先行する。
ノルウェーの水力発電所「ウーヴレ・フォシュラン発電所」は同国の建築家集団がデザインし、2008年と早い時期から観光資源としても機能する。「今回の片品の水力発電所も、この事例を参考にした」と、東京発電の三田取締役は話す。
またデンマーク・コペンハーゲンの「コペンヒル」は、ごみ処理施設を著名な建築事務所が設計し、年間3万世帯分の電力と7万世帯分の暖房用熱を供給しつつ、人工スキーや、ボルタリングを楽しめる市民の憩いの場となっている=関連記事。
山のないコペンハーゲンで、見晴らしが楽しめるヒルトップは市民の人気の場所に(2023年10月、筆者撮影)
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筆者もこの秋に訪れたが、週末はたくさんの人が訪れており、上部にあるカフェでくつろいだり、スキーに興じていて、そこが発電所だということは大きな煙突がなければわからないほどだ。これまであまり歓迎されなかったごみ焼却所が、今では新たな観光名所となり、子どもたちの環境教育の場としても活かされている。
このように、再エネ発電所は活用の仕方によっては、発電だけでなく、観光や教育、防災に寄与する可能性を秘めていることがわかってきた。人が集まれば地域が潤う。
東京発電では、同様のコンセプトの水力発電所を静岡県富士宮市に計画する。今後も付加価値をプラスした再エネ発電所が増えていきそうだ。