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企業は「LGBTQ +」にどう向き合うか 当事者とアライの可視化が重要に

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QVCジャパンのミーティングの様子

企業活動に何より人権への視点が欠かせず、ダイバーシティとインクルージョンを軸にすべての従業員にとって働きやすい環境を整え、またあらゆる顧客を想定した商品やサービスを提供することが欠かせない時代。「LGBTQ +」という性的自認や性的指向においてマイノリティに属する人たちが可視化され、彼ら、彼女らを理解し、支援しようという動きが広がっている。もっともG7の中で唯一同性婚が認められていないばかりか、「LGBT理解増進法」の法制化も見送られるなど、まだまだ性的マイノリティの人々に対する差別や偏見が根強い日本社会にあって、企業はどのように取り組みを進めていけば良いのか――。この問題と真正面から向き合う一企業の活動を通して、性的マイノリティの人たちが真に働きやすい職場環境の在り方を考えた。(廣末智子)

「言ってくれてありがとう」の一言が嬉しかった

「日本のこの職場に来た時、やはり最初しばらくは様子見をしていました。みんな、どういう感覚の人たちなのかなと。でもみんなとにかく優しいし、いろいろなサポートがあるなと感じました。だからカミングアウトができましたし、(カミングアウトしたことに対して)逆に、『言ってくれてありがとう』という優しい言葉を掛けてもらえて本当に嬉しかったです」

LGBTQ +の人たちへの理解を啓発する活動が世界各地で展開される「プライド月間」でもあった6月、この問題に対する従業員の意識改革を進めるため、当事者を講師とするオンライン講座を3度開いた会社がある。米ペンシルベニアに本社を置くグローバルグループに所属する、テレビショッピングを中心としたマルチメディア通販企業のQVCジャパン(千葉市)だ。冒頭の言葉はその1回目に登壇した、同社の経営陣の一人で、2017年4月に来日したマイケル・カーニー氏が着任以降、徐々に周りの人たちに自身がゲイであることをカミングアウトしていった心境について語ったものだ(同氏はこの講座後、日本を離れ、米国にあるグローバルグループのビジネスユニットの一つでプランニング部門のリーダー兼Vice Presidentとして勤務している)。

同社の所属するグローバルグループは2020年に「企業が当事者意識を持って『より良い世界』をつくるために行動すること」を「Corporate Responsibility(CR=企業責任)」に制定。これを機に、同社では、従業員の有志によるCRグループや、「DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン=多様性を公正に受け入れる)」を推進するグループが発足し、以来、そうした啓発活動を積極的に行っている。今回のオンライン講座もその一環で、ランチの時間を活用した自主参加のミーティングとして行われた。

カーニー氏は2020年10月に社内のイントラネットで公開された経営陣紹介ビデオで自身がゲイであることを明かしていたが、今回の講座ではインタビュアーが英語でカーニー氏の気持ちを率直に引き出し、同時通訳で生配信する形式で行われたこともあって、彼がそこで何を語るのか、多くの従業員が関心を持って耳を傾けた。

大好きな人、信頼できる人から「カミングアウト」を

この中でアイルランド出身のカーニー氏が語ったのは彼自身のカミングアウトの道のりとも言うべきもの。1999年、17歳の頃に最初は家族からカミングアウトを始め、そこから徐々に信頼できる人に対して打ち明けるようになった。当時、兄や姉には信頼できるゲイの友人がいたこともあって、「すごく、いいね」と言い、「ゲイの弟がいることを喜んでくれた」。いちばん気を遣ったのは母親に対してで、慎重にタイミングを見極めた上で思い切って告白したところ、やはりすごく驚いて何と言っていいか分からない様子だった。最初は「一過性のものであって、そのうちそうでなくなる」という思いもあったようだがやがて受け入れ、それからは大きな愛情を持ってサポートしてくれるようになり、それは今も彼自身の大きな自信につながっているという。

同氏は一人ひとり(カミングアウトの)ストーリーは違い「決してカミングアウトしなければいけないというプレッシャーは感じなくてもいい」と強調しつつ、「自分に合っていると思う方法をとってもらえればと思う。カミングアウトする気持ちになったら、まずは大好きな人、信頼できる人から始めてみてください。そうすればきっと分かってくれるし、そこに強い友情があれば、お互いに良い結果を得ることができると思います。ただ理解してもらうには人によって時間がかかり、反応が違うので気持ちの準備はしておいてください。世界はすごい速さで変わっており、LGBTQ +のコミュニティももっとロールモデルが必要で、あなたもその一人になれます。ですから他人の言葉で落ち込むことがないように、この道のりで自分一人だと思わないでください。あなたのサポーターはどこにでもいる。時間をかけて探してみてください」と言葉を送った。

ゲイとして生まれていることを認める法律を

こうしたオンライン講演会が行われていた6月、日本では与党議員による差別的な発言がもとで国会審議が続いていた「LGBT理解増進法」の成立が見送られた。この状況に同氏は「5、6年前に同性婚が認められたアイルランドでも、今の日本のような時代がありました。教会に行けばゲイは間違いだと説いていたし、ゲイを笑い者にするコメディアンをテレビで見たりもしました。それがこの20年でものすごく変わりました。前首相はゲイの方で、自分自身とても誇りを与えられました」と母国の状況を踏まえて話した。

「日本は少しゆっくりと進んでいるのかなと思う。やはりLGBTQ +は精神的な疾患ではないかと見られていた時代につくられたような法律が今も変わらないのはおかしいし、LGBTQ +のコミュニティに対する認識を高めることが求められています。つまり、選んでゲイになっているのではなく、ゲイとして生まれているということを法律でも早く認めてもらう必要がある」

その上で「日本にもQVCジャパンのように親切で優しい人が多く、LGBTQ +のコミュニティを巡る社会を努力して変えようとしている人たちが多くいるわけですから、今後、結婚の平等についても大きく進むことを楽しみにしています。そのためにも勇気を持った政治家が役割を果たし、ロールモデルとアライによって認識を深め、LGBTQ +のコミュニティの大きな支えになってほしい」と希望を語った。

同氏の話の中で何度も出てきた、「アライ」という言葉は今、LGBTQ +の人々を巡る動きを語る上でキーワードともなっている。アライとは日本語で「仲間、同盟、同胞」といった意味合いで、当事者にとっては、いわば支援者を超える存在と言える。QVCジャパンのこのオンライン講座もまさに「アライの輪を広げる」ことがいちばんの目的で、それぞれ別の日に開かれた第2、第3弾の講座に登壇したトランスジェンダー活動家の杉山文野さんと、LGBT社会運動家の松中権さんの話の中でも自身のカミングアウトにまつわるストーリーとともに、当事者にとって心強いアライの姿とはどういうものかがテーマになった。その講演の内容をそれぞれかいつまんで紹介する。

「1日1回ウェルカミングアウトを」トランスジェンダー活動家 杉山文野さん

杉山文野さんは、1981年東京都生まれのフェンシング元女子日本代表のトランスジェンダーだ。幼小中高と女子校に通い、物心ついた時から心と身体の性が一致せずに苦しんできた。早稲田大学大学院生だった2006年、「性同一性障害」であることを告白する著書を出したことで、どこで何をしても「性同一性障害の人」と言われることが窮屈に感じるように。

そこでバックパッカーとして2年間に世界約50カ国を旅するが、そこでもSheなのかHeなのかを問われ続け、南極船に乗る時すら男性と部屋をシェアするのか、女性とシェアするのかで揉めたことで、「僕はこんな世界の果てにきてまでも性別から逃れられない」と痛感した。そうであるならば、「今いる場所を生きやすく変えていこう」と決意したのが今の自分の原点だという。日本フェンシング協会理事のほか、現在、特定非営利活動法人東京レインボープライドの共同代表理事などを務め、日本初となった渋谷区の同性パートナーシップ条例の制定にも関わった(6月からは新たにJOCの理事にも就任)。パートナーの女性が、親友であり、今回の3人目の登壇者である松中氏の精子提供を体外受精で受けたことにより生まれた2児の父でもある。

日本では2004年に「性同一性障害特例法」が制定されたが(「性同一性障害」は世界的には障害でも何でもなく、一つの生き方であるとされ、WHOも精神疾患分類から正式に除外。日本でも「日本学術会議」が同法の廃止と、「性別記載変更法」の制定を提言している)、2人以上の医師から性同一性障害であるという診断を受けた上で、「20歳以上である」「結婚していない」「未成年の子どもがいない」「性別適合手術を受けること」といった厳しい要件を満たさなければ、戸籍の変更は認められていない。

中でも、「性別適合手術を受けること」は杉山さんによると、「戸籍を変えたければ生殖器を取りなさい」と言っているのに等しく、「なんて野蛮な法律なんだ」と世界から非難を浴びている。杉山氏はタイで乳房切除を受け、ホルモン注射を打っているものの、子宮や卵巣は残している。このため戸籍上は今も女性のままであり、婚姻の平等が実現していない日本ではパートナーや子どもたちと法的関係性を保つことができず、もし彼女らに何かあった時にも同意書一つサインできないという不安を抱えて生活しているのが現状だ。

セクシュアリティは目に見えない

そんな杉山さんはLGBTQ +について考える上で、「セクシュアリティは目に見えないにもかかわらず、現代の日本社会では、人と対する時、『必ず相手が異性愛者である』という前提で会話が始まる」ことに問題があるのではないかと指摘する。データでは、LGBTQ +の人は人口の5〜8%とされ、AB型や左効きの人、また日本で最も多いとされる佐藤、鈴木、高橋、田中の4つの姓の人と同じぐらいの割合で存在することが分かっているにもかかわらず、「本当はすぐ隣にいるのに、まるでそこにいない人かのように扱われている。なぜなら今の日本社会における制度やルール、サービスといったものはそういった人はいないという大前提で形づくられているから」。そのために当事者の多くは日常の多くの場面で疎外感を感じながら生きている実態がある。

不安や不平等感で離職する事例が繰り返されてきた

この日の演題は「LGBTQ +と企業」。「社内に必ずいるであろうLGBTQ +の社員にとって働きやすい職場環境と、お客さまの中にも必ずいるであろうLGBTQ +の方々への商品の開発やサービスの向上をどう図っていくか」という視点に基づき、前者については最近、多くの企業がLGBTQ +の学生に向けた就職説明会を行うなど、企業として優秀な社員を獲得するための動きが活発化している。そして当事者にとっても採用条件が同じなのであれば差別やハラスメントのない企業で働きたいと考えるのは当然であり、当事者が働きやすいよう、さまざまな配慮のある企業はきっと誰にとっても働きやすい職場だということで企業イメージの向上につながると話した。

LGBTQ +であることは、その人にとって、自分が何者であるかというアイデンティティの問題であり、そこになにかしらの嘘や隠し事があると、どうしても周りとコミュニケーションがとりづらく、ひいては仕事の生産性も上がらない。また会社に自分の情報について隠さねばならないことで、「もしもLGBTQ +であることによって危険にさらされる恐れのある国に出張や転勤を命じられたらどうしよう」といった不安や、また最近では同性婚の場合でも慶弔休暇などが取れるよう福利厚生を改善した企業の事例も聞かれるが、そうでない場合には「どうしても不平等感を抱いてしまう」。そういったことの積み重ねで最終的には職場を離れてしまう事例が、日本の職場では数え切れないほど繰り返されてきたのでは、と杉山さんは投げ掛けた。

マイノリティにとって優しい社会はきっとマジョリティにとっても優しい社会

こうした状況を踏まえ、杉山さんが今、LGBTQ +の当事者でない職場のアライと呼ばれる支援者に対して願うことは、「ウェルカミングアウトをしてほしい」ということだ。この問題では当事者の姿が見えづらいのと同時に、当事者にとって「アライの姿も目に見えない」。

つまり誰が自分を受け入れてくれるかを判断することが難しいというのだ。それにはLGBTQ +の象徴である6色のレインボーをオンライン画面の背景に設定したり、といった表面的なこともあれば、「今日、文野っていう人にこんな話聞いてね、っていうことを一言でも肯定的に、お友達やご家族に話したり、LGBTQ +に関するニュースが流れてきた時には『日本でもこういうの進むといいよね』ってリツイートしていただいたり。それだけで、みなさんの近くにいる、まだカミングアウトできていない当事者の方の、この人にだったら相談できるかもしれないなという安心感につながると思います」。杉山さんはそう言って、「1日1回ウェルカミングアウト」を勧めた上でこう講演をしめくくった。

「僕は、決してLGBTQ +のことだけを分かってくれと言うつもりはありません。なぜなら、多様化する社会ではなく、すでに多様化した社会だから。自分の知らないものに出会った時にこそ、柔軟に対応する能力が求められている時代だと思うからです。LGBTQ +のことで言えば、もって生まれた違いに課題があるのか、それとも違いを受け入れられない社会に課題があるのか。マイノリティの方が自殺されてしまうのは、その方が弱いからなのか、それとも自殺してしまうほどプレッシャーをかけ続けてきたことに気付いていなかったマジョリティの問題なのか。僕はマジョリティの問題だと思っていますが、僕だってセクシュアリティという切り口ではマイノリティであってもほかのことに関してはマジョリティに属していることがたくさんある。マイノリティが集まってマジョリティというグループをつくっているだけですので、マイノリティの課題に向き合うことはマジョリティの課題に向き合うこと。マイノリティにとって優しい社会はきっとマジョリティにとっても優しい社会になっていくんじゃないかと思います」

「置いてけぼりにされている人がいるんじゃないかという視野を」 LGBT社会運動家 松中権さん

3人目の登壇者、LGBTQ +のG、つまりゲイの当事者であり、LGBT社会運動家である松中権さんの話は、これまでの講演の中でも何度も繰り返された「カミングアウト」という言葉の背景について語るところから始まった。もともとは「カミングアウト・オブ・ザ・クローゼット」と言われ、LGBTQ +の人々が本来の姿をクローゼットに仕舞い込み、偽の姿で生活をしているのは、世の中の多くの人が自分らしく暮らしているのに対して不平等だ、ぜひ、クローゼットから出てこようよ、という意味合いで生まれたもので、カミングアウトしていない当事者を「クローゼット」と呼んだりもするという。

石川県金沢市出身の松中さんは、自分がゲイの当事者であることを自覚して以来、それまでカラーだった生活が一気にモノクロに変わるような思いの中で高校時代までを過ごし、「東京に行けば、もしかしたら自分と同じ人に会えるんじゃないか」という希望を抱いて一橋大学法学部に進んだ。大学では陸上ホッケー部に没頭したが、「自分がゲイであることが大切な仲間にバレてしまうのではないか」という不安から、男性同士が2人で接近して話をしたりしていると「ゲイのカップルじゃないか」と笑う仲間に同調して自分も一緒に笑いつつ「どこか自分のことを笑っているような感覚」に陥る日々だった。

初めてクローゼットから抜け出たのは、当時多様性を旗印に国が変わろうとしていたオーストラリアのメルボルン大学に留学してから。心臓をバクバクさせながら「I’m Gay」という短い言葉を発したのに対し、「I see. Any boyfriend? (ああそう。ちなみに彼氏はいるの?)」という言葉がさらりと返ってきた時には、「初めて大きく深呼吸ができ、酸素が身体中を巡っていくような感覚とともに、モノクロで見ていた社会がカラーに戻っていく」のを感じたという。

カミングアウトで、人間関係を築くことが楽しく、見える世界がガラッと変わる

その後、電通に入社。最初の8年間は「クローゼットに戻って」仕事をし、2008年にニューヨークへ研修に行ったのをきっかけに現地のイベント会社でカミングアウトをし、帰国後の2010年4月にNPO法人「グッド・エイジング・エールズ」を設立する。LGBTQ +の人々だけでなく、すべての人が前向きに歳を重ね、応援し合える社会を実現するための場をつくりたい、と考えてのことだった。同時に電通の社内でもカミングアウトをし、その結果、大きく働き方が変わり、パフォーマンスも上がったという。

「やはり仕事は人間関係で回っているので、自分が距離を置くと周りも距離を置き、どんどん離れていく。それが、例えば『結婚してるの?』と聞かれても『自分ゲイなんで、まだまだ日本では結婚できないじゃないですか』と答えることができるだけで、人間関係を築いていくことが楽しく感じられ、見えてくる世界もガラッと変わったんですね」

電通には通算、16年間勤務したが、後半の8年間をオープンに働いたことになる。この時期、首相官邸のメンバーらとともに日本を世界に発信する仕事にかかわり、2016年にはリオのオリンピック・パラリンピックの会場で、「多様性と調和」をテーマに開かれることが決まっていた次の東京大会に向け、プロジェクトリーダーを務めた。まさにLGBTQ +に関する活動にNPOと仕事の二足のわらじで取り組む充実した毎日だった。

そんな朝、リオのホテルで目にしたのが、一橋大学の学生がゲイであることを友達にカミングアウトしたところ、その友達が本人の許可なくそのことを周囲に話してしまったこと(アウティングという)で噂が広がり、本人は心を病み、最終的に校舎の6階から身を投げて自殺してしまった事件だった。「母校で起こったのもショックでしたが、もし、僕の周りの人たちが誰か1人でも違う人だったら、僕自身が校舎の6階にいたかもしれない。どこにでもいる大学生がたまたまアウティングを受けた結果、命を落としてしまった。いかにLGBTQ +の人たちが綱渡りの人生を送っているか」。そう痛感し、翌年電通を退社。以来、LGBT社会運動家としての活動に専念している。

コロナ禍のステイホームで、LGBTQ +の若者たちが危険な状況に

2020年にはコロナ禍でLGBTQ +の若者たちがかなり危険な状況にあることが明らかになった。約1600人を対象に調査したところ、73.1%が「同居している家族らとの生活に困難を抱えている」と回答したのだ。具体的にはLGBTQ +に対する理解がなかったり、差別的なことを言われたり、中にはDVを受けた例もあった。つまり彼らにとって、長いステイホーム期間は、家庭の中に安全がなく、さらに外にもつながりを持てないことから、精神的に追いつめられていることが考えられた。そこで、本来であれば2021年以降につくる予定だった「プライドハウス東京レガシー」を昨年10月、新宿御苑駅前にオープンさせ、金曜〜火曜の13時〜19時まで、LGBTQ +の当事者の人たちはもちろん、そうでない人にも正しい情報を提供し、誰かとつながることのできる居場所として開放している。

そんな松中さんが、今回のオンライン講義で聴衆に呼び掛けたのは、杉山さんと同じ、「ウェルカミングアウト」という言葉だ。

「当事者がカミングアウトをするのは本当に難しいです。けれども、カミングアウトしないと可視化されず、可視化されないままでは職場環境も変わっていけません。そしてずっと当事者にプレッシャーが掛かり続けます。しかし、職場環境はすべての人が一緒に変えていくものであり、重要なのがアライの存在です。みなさん自身がぜひアライに、応援者になって、当事者に対し、ウェルカムだと伝えていただきたい。ぜひアクションを起こしていただきたい。

アライの行動で大事な4機能は「ストッパー」「スイッチャー」「シェルター」「レポーター」

最後に松中さんは、ウェルカミングアウトの一例として考えてほしいとして、職場での一つのシーン設定を提示した。例えばAさんというLGBTQ +の当事者から、カミングアウトを受けると同時に、実は職場でAさんはLGBTQ +ではないか、という噂話が広がっているのを耳にしてしまい悩んでいることを打ち明けられた。当然だが、Aさんは自分のいないところで自分のことを面白おかしく言われるのがとても嫌なのだ。そして、そのことを聞いた後、Aさんのいないランチミーティングに参加したところ、まさに居合わせたメンバーがAさんがLGBTQ +なんじゃないかという噂話で盛り上がっていた。さあ、あなたなら、この場面でどう行動に出ますか、というものだ。

いろいろパターンは考えられるが、この場で重要なアライとしてのアクションは「そういうこと言うのやめようよ、と止めに入る(ストッパー)」「ところでさあ、などと話題を転換する(スイッチャー)」「この場では会話を止められなくても、その後でAさんに、『やっぱりそういう会話あったけど、なんとか自分が変えていくから。もう少し待ってね』というふうに伝え、Aさんを孤立させず、守り抜く(シェルター)」「こうした会話に限らず、ハラスメントの現場を目撃したことを会社に報告する(レポーター)」という4つの機能が鍵を握っていると松中さんは言う。

「僕自身は生まれた身体の性は男性で、性自認も男性。つまり男性ということで社会に存在しており、その意味において、女性に対するアライになれると思っています。誰かが別の誰かのアライになるという意識を持つことはとても大切で、例えばゲイの人が、ほかのセクシャルマイノリティの人のアライになったり、LGBTQ +のコミュニティには括られないけど同じように多様な性を持っている人たちのことを発信することで、誰かが誰かのアライになれる。つまり、自分だけが、ということでなく、必ずそこには、誰か置いてけぼりにされている人がいるんじゃないだろうかという視野を持つことが必要だと思います」

社内でアライのコミュニティが立ち上がる

マイケル・カーニー氏による生配信に続き、杉山文野さん、松中権さんと3人のオンライン講演を通じ、QVCジャパンでは「これからを生きる子どもたちがLGBTQ +であることが原因で、自殺を選ぶような社会には絶対してはいけない」「マイノリティを受け入れて、みんなが生きやすく、ハッピーになる。そんな会社にしていきたい」といった声が多数寄せられた。またプライド月間を機に、社内にアライのコミュニティが立ち上がり、6色レインボウを基にデザインした同社独自のピンバッジを身に付けるなど、積極的に「ウェルカミングアウト」をする動きも広がっているという。

講座を企画した有志の1人で、Corporate Responsibilityチームのリーダーである川島遥子さんは、「誰もが自分らしく働き、本来の力を発揮できる環境を作ることが会社の成長につながる。『DE&I』は、必ず成し遂げなければいけないことだと考えています。LGBTQ +の人たちを理解し、支援するのはもちろんのこと、社内ではジェンダーや、民族や人種、障がいや年齢などについてもそれぞれ特化した有志グループが活動を始めており、これらに全社で取り組むことで、必ずポジティブな変化を推進できると信じています」と話している。

LGBTQ +とは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、 Transgender(トランスジェンダー、出生時に割り当てられた性別とは異なる性を生きる人)、 Questioning(クェスチョニング、どの性別にも当てはまらない、もしくは定まっていないセクシュアリティ、あるいはQueer(クィア、性的少数者を包括するセクシュアリティ)の頭文字と、+(プラス、上記では包括できないそれ以外のセクシュアリティ)を自認する人たちを指す。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。