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横浜発のサステナビリティ

地域連携でコロナに立ち向かう「おたがいハマ」のたすけあい

NPO法人・横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事の杉浦裕樹氏(左)と横浜市政策局共創推進課の関口昌幸氏。「おたがいハマ」立ち上げのキーパーソンの2人

緊急事態宣言が出された4月、新型コロナに向き合うたすけあいプラットフォーム「おたがいハマ」が横浜市で立ち上がった。地域メディアや飲食店をはじめ企業、団体、個人など幅広い市民が集まり、「伝える」「つながる」「変える」という3つのテーマに取り組む。中心になったのは横浜市と、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボが主催する「LOCAL GOOD YOKOHAMA」、一般社団法人「YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス」。効果的な地域連携を目指す官民協働のキーワードはオープンガバナンスと「成熟した民」だ。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

横浜市の対コロナ官民連携プラットフォーム

新型コロナに向き合うたすけあいプラットフォーム「おたがいハマ」では新型コロナウイルス関連の最新ニュースや横浜市内のイベント情報、テイクアウトやデリバリーを行う市内の飲食店の情報「おうち飯店」、新たな社会を切り拓く「Circular Yokohama 2020」の情報、寄付・寄贈の受付情報などを日々発信し、SNSで感染症対策をテーマにした市民参加のオンライングループを形成する。

さらにセミナーを開催するだけでなく、SNSでは4月以降、ゲストを招いてライブ配信「おたがいハマトーク」を行い、10月7日時点でその回数はなんと「vol.108」。市内の事業者、学生、リビングラボに参加する面々、市役所のさまざまな職員、NPO法人代表や医師、大学関係者、老若男女、官民も問わず、その出演者の幅広さには驚かされる。

コンテンツも多彩だ。例えば、直近の「おたがいハマセミナー」のタイトルは「『横浜市福祉のまちづくり推進指針』について」。同じページに学生主体の地域拠点「RCE横浜若者連盟」が発信するカジュアルな動画・音声コンテンツ「よこかし」が並ぶ。

市民が気軽に参加し、話し合い、発信する雰囲気は官公庁関連のウェブサイトとは思えないが、中心となっているのは横浜市政策局の共創推進課と「LOCAL GOOD YOKOHAMA」、一般社団法人「YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス」。「伝える」「つながる」「変える」というコンセプトは単に情報を発信するだけではなく、官民の協働で推進する地域全体の連携によってコロナ禍に立ち向かう姿勢の表れだ。

「おたがいハマ」立ち上げのキーパーソンの2人、横浜市政策局共創推進課の関口昌幸氏と「LOCAL GOOD YOKOHAMA」を主催するNPO法人・横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事の杉浦裕樹氏に、協働の秘訣を聞いた。

一方的なデータ公表ではコロナ禍を乗り越えられない

――「おたがいハマ」立ち上げの経緯はどのようなものでしたか。

関口昌幸氏(以下、敬称略):コロナ禍に直面し横浜市としても市民の方々へ情報を発信しなければならない状況です。行政としてトップダウンの発信をするということも大事ですが、飲食店や介護施設、教育機関や保育施設などの、現場の人たちの声を集めて発信していく必要があります。

横浜市の場合は、従来から民間の団体が積極的に情報収集をされていますし、現場の声を草の根から発信していこうじゃないか、ということで官民連携のプラットフォーム「おたがいハマ」を立ち上げました。

杉浦裕樹氏(以下、敬称略):僕は2003年頃からNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボの活動をしていて、その中で「LOCAL GOOD YOKOHAMA」という地域の公益的な活動をみんなに知ってもらい、支援するウェブプラットフォームを運営しています。

今年3月の段階でコロナ禍が長引くという話もありましたし、すごく困る人たちもでてくるだろうと感じました。心理的な不安だけでなく、実際に飲食店や企業の経営面、クリエイターの人たちの活動に大きなダメージがあったり、市民の公益的な活動も滞ってきていました。そこで、横浜市と、以前から一緒に活動する機会があったYOKOHAMAリビングラボサポートオフィスと協力して「おやがいハマ」ができあがったわけです。

――必要な連携がスムーズに取れたということですね。それまでに培ってきた官民の関係性があったからこそでしょうか。

杉浦:横浜市の場合、相互に顔が見えているということがまずありますね。僕たちの活動は横浜市の共創推進室と10年にわたってつながりがあります。

今ではオンラインコミュニティに700人以上の市民が参加しています。その中でいくつか小さなグループも形成されていて、派生してウェブサイトが誕生したり、有機的な広がりが出ています。

関口:単にデータを発表するだけではコロナ禍は乗り越えられないという思いがあります。行政が一方的に発表するのではなく、いろんな人にデータを持ち寄っていただくようにしています。もちろんフェイクや差別発言に対しては厳しくチェックを行っています。

課題は地域経済の活性化と「つながり」の再構築

――「おたがいハマ」活動の効果はどのように感じていますか。

杉浦: 5月のゴールデンウィークの頃は、飲食店の支援ということがひとつの大きなテーマだよねと話し合っていました。商店会や地域の有志、場合によっては個人で、地域の活動として自分たちの住む周辺の情報を集め、テイクアウトマップをつくる活動や、寄付や寄贈を集め、マスクや消毒液、防護服などを募って、必要な施設や場所に届ける活動を柱としていて、一定の成果が出せたと思います。

――現在ではコロナ禍の社会の状況が変わってきていますね。

関口:10月以降は、地域経済の活性化と持続可能な社会をどうつくっていくかということが大きなポイントになると考えています。コロナ禍以前から、横浜市は人口減少や高齢化、地球温暖化によってダメージを受けていました。すでに課題がたくさんあったところにコロナ禍に直面し、経済状況が苦しくなってしまいました。

さらに、高齢の方が外に出る機会が減ってしまいました。訪問介護を断るケースもあります。ただでさえ単身世帯が増えていたところに、さらに孤立化が進みました。

社会的に孤立化した層をどうやって再び結びつけるのか、そして経済をどう活性化するかが課題になっているわけです。それに対してわれわれは、従来から「サーキュラーエコノミーplus」というビジョンを持っています。

(関連記事=地域課題を解決するオープンイノベーション拠点「リビングラボ」が実現するサーキュラーエコノミーplus)

そのビジョンに沿って、これを機会に大量生産・大量消費から「地域の循環型経済」へと変え、新しい循環型の社会をつくることを目指しています。それが「withコロナ時代の経済活性」だと発信していきます。高齢の方でもICTを活用すれば、家にいながらオンラインでつながりを持つことができます。そしてこれらの活動をプロジェクト化することが重要です。

「オープンガバナンス」と「成熟した民」が共創を加速する

――横浜市以外の地方都市や市町村でも横浜市のような官民の協働が可能でしょうか。実行するためのヒントは。

関口:ひとつは、「おたがいハマ」に対して行政としてお金を出していない、ということがあります。委託をする、補助金を出すということになれば、その枠の中での活動となり、自由に活動ができなくなってしまう側面があります。

しかも今、行政自体の財源が減っているわけです。お金を使ってやろうとしてもできなくなってきている。各自治体の職員の立場で言えば、市民の志のあるお金をマネタイズできるような民間、あるいは中間支援的なパートナーと組んだ上で、活動そのものを持続するために、それをパートナーのビジネスにしなければいけません。そのために、行政がどう支援していくのかということがひとつの課題です。

横浜市はお金があるからできた、というわけではないんです。民間と一緒になって活動するノウハウを持っていて、何より関係性を構築しているということがポイントです。

そして自治体職員の働き方を、それが実現するように変えていかないと、コロナ禍のようないざというときに新しい政策を打ち出せなくなると思っています。つまり常に現場に出かけ人間関係をつくっていくということと、民間と協創をしながら、ビジネスの力で課題を解決しようというプラットフォーム的な思考を身に付けることがすごく大事なことかなと思います。

杉浦:やはり「人」の存在ですね。決まった枠で決まったことしかしなかったらイノベーションは起きないわけです。横浜市の共創推進室は10年以上にわたって、民間との連携のあり方そのものを実践しながら探ってきた歴史があると思います。「間尺の測り方」「距離の取り方」のセンスが感覚的に大事だと感じます。

さらにそれを本当に実現するためには、「成熟した民」が必要だと僕は思うんです。依存せず、自立しつつ、そういった「官」とパートナーとして組めるような。

関口:行政から仕事を受ける、補助金や委託で動くということは普通なんですが、民間側もそれでしか動かない、ということになると「おたがいハマ」のようなことは絶対にできないですね。

杉浦:それはきっと、僕のテーマでもあります。「オープンガバナンス(市民と自治体が協働で課題解決に取り組む仕組み)」という言葉もありますが、オープンガバナンスを実現するために必要な要件を、僕は民の立場で、現場で感じています。

例えば、コンプライアンスを遵守しながらもイノベーションを起こすために、現場ごと、瞬間ごとに情報の共有をしたり、そこに対してどれだけ本気で行動するかというインプロビゼーション(即興)的な対応をすることはとても難しい、という現実はあると思います。

そして地方自治体も潤沢に予算があるわけではない。そういうことをわかった上で、地方自治体と市民の力を活用するという理想も同時に、どこにでもあるものです。それを実践のフェーズで、オープンガバナンス的に実行する場合には、自治体が「ある場所だけを上手に開く」ということが必要になります。

関口:開く、マネジメントする、ということですね。現実を現実として捉えないとできないし、理想を追わなければ活動そのものが曲がってしまいます。

行政がどんどん公金を支出できなくなってくる一方で介護サービスや生活保護など、お金をかけなければ人の命に関わるような、固定的な支出があります。つまり新しい政策を打つことが難しくなっていくわけです。

そうすると無駄なものは見直して、行政が仕事のあり方を変えなければならない。行政はプラットフォームであるという立場で、「成熟した民」と共に「オープンガバナンス」の具体的な仕組みや場をつくっていかなければならないと思います。コロナ禍でそれが明確になったように感じますし、それを実現することがサステナブルな社会をつくっていく上でも大事なことだと実感しています。

――自治体側としても一線を引かず、市民や現場に立ち入っていけるかが大事で、かつ市民側は成熟し自立していること、この双方がないとなかなかできないことですね。

関口:前述の「サーキュラーエコノミーplus」は各地のリビングラボの人たちが議論を重ねて立ち上がった、非常に機能的なビジョンです。オープンガバナンスによってできた社会ビジョンが横浜型の循環型経済だったということですね。このような取り組みはコロナ禍の中、「おたがいハマ」の発足によってさらに加速しました。

課題設定をきちんとして、それをどう一緒に解決していくのか。それがオープンガバナンスであって、それによって革新的な技術を生み出していくのがオープンイノベーションだと思います。そのように理念や思考を再構築し、対話することで協創が生まれ「おたがいハマ」のようなアプローチが可能になったわけです。 

(協力/取材ナビゲーター:山岡仁美 SB 2021 Yokohamaプロデューサー)

取材ナビゲーター:山岡仁美SB2021Yokohamaプロデューサー(左)
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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。