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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

「大人になるのは楽しい」未来に希望抱ける子どもを地域で育てる――湘南・HONKI Universityが描くポストコロナ

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若者はある一定の時期を過ぎると、大人になることに対していいイメージを持てなくなったり、ワクワクしている大人が少ない、と感じる現状が今の日本社会にはあると思う。ワクワクしている大人に会う機会や関わる接点がないため、年を取ることに期待や希望を持つことが難しくなっている。(梅原洋陽)

本当の気持ちを大切に

私は神奈川・湘南エリアで、特定非営利活動法人HONKI Universityを2016年6月から運営している。HONKIとは「本当の気持ち」のこと。「早く大人になりたい!」「大きくなったら楽しそう!」と若者がワクワクした未来を描ける社会にしていくためには、一人ひとりが自分の本当の気持ち(本気)を信じ、共有できる世の中にすることが大切だと考えた。そして、そのきっかけを作ることを目的に湘南エリアを中心に活動している。障がいのある人もふくめ誰もが楽しく安全に乗れるユニバーサルカヌー体験会の運営やイベントの企画運営、パドルスポーツクラブ運営、毎週行う早朝ビーチクリーンなどの地域活動を行っている。子どもから大人、障がいの有無、国籍、バックグラウンドなど全く異なる人たちがメンバーや応援者として参加している。

私たちが重視しているのは「地球から学ぶ」こと。活動場所の一つでもある、海や川は私たちの最大の遊び場。しかし、活動すればするほど、海にも川にも驚く量のゴミ、特にプラスチックゴミが溢れていることに気づいた。この現状に衝撃を受け、誰もが簡単に参加できるように、2019年9月より毎週火曜日の早朝にビーチクリーンを始めた。仕事や登校前に参加できるように冬は6時から、春以降は5時半から30分間行っている。この活動を応援したいと、地域のパン屋さん(bakery for shonan)が参加者に毎週パンを無償で提供してくれている。赤ちゃんから高齢の方まで楽しくお喋りをしながら、海をきれいにし、四季の移り変わりを感じながら、地球の素晴らしさを体感している。

コロナ禍の助け合いで、地域の絆がより強く

これまでは1日や半日のリアルイベントをメインに行ってきたが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに開催できない時間が続いた。その代わり、1回の時間は短くてもオンラインや、直接、短時間で定期的に顔を合わせ会話する、話を聞くといったライトな関わり方が増えた。結果的には、メンバーや地域社会との繋がりをコロナ以前よりも強く感じることができた。時間や規模よりも、回数や高い頻度で関わることで、1人ではなく皆に守られているという安心感につながったからだと思う。外出自粛をきっかけに、これから紹介するような新しい活動が始まった。

コロナがきっかけで始まった活動

休校中の家庭では、毎日の食事や子どもの教育面での心配は深刻だ。マスクが手に入らない不安や遊び場を失ったストレスが溜まっているとの声があった。新しいことを知り、ワクワクするという機会をリアルイベントで実施できない状況で、何かできないだろうかと考え、以下のようなことに取り組んだ。

HONKI EATS

休校中の昼食時、地元の飲食店にまとめて注文をとり、週に2回テイクアウトメニューを各家庭に車や自転車で配達する取り組みを行った。地元の飲食店を応援すると同時に、配達時の何気ない会話や家族以外の人と顔を合わせられる機会になった。保護者が仕事のため、子どもだけが残されている家庭もあり、子どもたちの安否確認や、保護者の家事ストレスからの解放にもつながった。

休校支援
保護者が不在の時に、家庭教師としてHONKI大学生メンバーが各家庭を訪問。大学生も休講のため、その時間を活用し、いつも一緒に活動しているメンバーの子どもたちやその知人の方々のお宅で勉強を教えた。家族ではないけれど、元々知っている若者なので安心感もあり「休校時に非常に助かった」との声をいただいた。

マスク購入
入手困難となったマスクを、団体を応援してくださっている湘南子ども服「YellowFace」さんから購入できる経路を確保。困っている家庭や職業柄大量に必要な方に届けることができた。買い溜めで世間がパニック状態になる中、独り占めの思考ではなくコミュニティの中で譲り受けたり配ったりというシェアできる場所があることの重要性を強く感じた。

放課後ドッヂボール
遊び場のない子どもたちのストレスやそれに対する親御さんのストレスなど、家庭内ではどうしようもないほどの自粛ストレスがあった。週に2日ほど放課後の時間帯に公園でドッジボールをする場を設けました。子どもも大人も一緒になって本気で遊べる唯一の場だったと思う。それが毎日の自粛疲れやストレスを溜めないための発散場所にもなっていた。

オンライン企画
オンラインで習字教室を開いたり、画面越しに一緒にダンスをしたり、プロアスリートによるエクササイズ企画を行った。さまざまな生き方をしている素敵な大人を紹介をするHONKI TALKでは、パイロット、アスリート、ジャーナリストなどさまざまな職業、さまざまな生き方をしている方のお話を聞く機会を設けた。

HONKI Farm
コロナによって、流通や食の重要性を痛感することが多くあった。自分たちで食べ物を作れる力や、地球や自然の恵を直接的に感じたいと考え、地域の農家さんと連携し、畑で野菜を育てるという企画が立ち上げた。

ポストコロナは、人を頼り、助けを求められる、強く優しい社会に

コロナ後の社会が、「今、困っていて大変」「助けて」と誰かを頼り、声をあげられる社会になればいいと考えている。コロナほどの予測不能な事態では、自分一人でなんとかすることは不可能で、その変化に対する周囲の協力体制が不可欠だと感じた。声をあげられるコミュニティや地域社会が次々に立ち上がれば、コロナ前よりも強く優しい社会になるのではないかと思う。

周囲に頼れる環境はすぐに作れるものではなく、普段からさまざまな接点を持ち、関わることで、困っている人に気付きやすくなり、「困っている」と声をあげることができる。そして、声が上がった時に、そこに「ふらっと」助けに行ける誰かがいることが重要になると思う。

積極的に動けるのが団体のリーダーや中枢の人たちだけ、もしくは金銭や実績、成長などを求めて活動をともにしている人たちばかりでは、次々と起こる事態に迅速にそしてフレキシブルに対応することは、財政的な制約の多いNPOでは今後より難しくなるだろう。強力なリーダーシップやお金、やりがい、正義感だけでは、次々と溢れ出す社会的な課題にクリエイティブに立ち向かえるチームを作ることは厳しいだろうと予測している。多様すぎる問題への解決策を常に持っている絶対的な存在はいないと思うからだ。

対応策は意外なところからやってくるもの。だから、特定の誰かが強い力を持つのではなく、それこそ通りすがりの人の一言がヒントとなり、それをベースに団体が活動を進めるのもありだろう。団体を組織とせず、多くの旗振り役が存在し、責任の所在やミッションなども曖昧で、みんなが心地よさや、素直な気持ちを大切に緩やかにつながる、知り合いっぽい集団ぐらいの感じが良いのではないかと思う。繋がる理由を具体的なイベントやミッションに絞らず、無理にコミットさせず、それぞれが好きなタイミングで、自分の本当の気持ち(HONKI)に寄り添って、都合よく団体に関わってもらうことが今後はますます大切になると思う。もちろん、年間50以上の責任やリスクが多く伴うイベントを実施し、1万人弱の参加者の方にも満足してもらうので、結束力も重要だ。

むしろ、多様な価値観を持ったコミュニティを目指し、みんなが違いを認め合う世の中になって欲しいと願っているのだから、統率を取ろうとする方がおかしいと思う。一つにまとまってないからこその強みや信頼があると信じている。

今後もさまざまな接点を持ちながら、楽しさを共有し、感動し、支え合うことでお互いの弱みを見せられる関係づくりをしていきたい。

筆者と子どもたち

梅原 洋陽 (うめはら・ひろあき)
高校を卒業後、米国の大学に進学。心理学を学んだ後、英語が使えたら居場所を見つけられる人が増えると感じ、日本に帰国して塾の講師になる。しかし、英語を面白く教えられない自分に愕然とし、米国の大学院で応用言語学を学ぶために再度渡米。東日本大震災をきっかけに帰国し、日本の大学で英語を教え始める。大学生と日々関わる中で、学生のイメージする「大人像」がとても寂しいと感じ、HONKI Universityを設立。いつもはしゃいで、よく失敗して、笑っているおじさんを目指しています。現在は成蹊大学常勤英語講師。Sustainable Brands Japanで翻訳を担当する。

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