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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
対談:

共生社会への第一歩は「出会うこと」――支援せず、共生するNPOの活動とは

「ぷかぷか」の高崎明代表(右手前)

「ぷかぷか」は障がいがある人たちが働く飲食店「ぷかぷかさんのおひるごはん」など4店舗を、横浜市緑区の一角で展開するNPO法人。「『支援』という考え方ではなく、一緒に生きていったほうが社会は良くなる」と明言するのは高崎明代表だ。店舗では地域の人と障がい者が「出会う場所」を提供しているという。よりボーダーレスな共生社会はどうすれば実現できるのか。高崎代表と山岡仁美・SB国際会議2020横浜プロデューサーが語った。

横浜に根ざし、経済や文化を循環させている企業・団体の活動を山岡仁美 SB 2020 横浜プロデューサーがクローズアップ。第5回はNPO法人ぷかぷか 高崎明代表との対談。
※NPO法人ぷかぷかでは、障がいのある方のことを「ぷかぷかさん」と呼びます。本記事では特にことわりのない限りこれに則り、NPO法人ぷかぷかを「ぷかぷか」、そこで働く障がい者のある方のことを「ぷかぷかさん」と表記しています。

山岡:「ぷかぷか」と一般的な福祉施設や障がい者作業所との大きな違いは何でしょうか。

高崎:福祉をしようとしてないところです。「ぷかぷか」では、よくある「支援」をまったくしていません。あえて支援という言葉を使うのであれば、私たちが「ぷかぷかさん」に支援されています。だってぷかぷかさんがいなければ、ここはただの面白くもないパン屋や、つまらないカフェです。彼らがいるから面白い物語が出てくるわけです。

「支援」という言葉を使うと、支援する側の幅のものしか出てこないです。芝居で使うぬいぐるみをつくるときに、動物などをイメージする人は多いでしょう。ぷかぷかさんは「海のぬいぐるみをつくる」と言ったりするんです。そういう人たちと一緒になって芝居をつくると、芝居の幅が一気に広がります。その幅の広がった部分は紛れもなく「豊かさ」です。

山岡:ぷかぷかさんの素晴らしいところのひとつは、私たちが持っているアンコンシャス・バイアス(無意識の線引き)を超越しているということですね。「なにが起こるかわからない個性」を受容できる場や、それを日々の当たり前にすることが重要なのかもしれません。

高崎:地域の中にこういったお店をつくったのは、皆さんにぷかぷかさんたちと出会ってほしいからです。福祉の場じゃないですよ。「出会いの場」をつくりたかった。

山岡:お店はどういった展開をしているのでしょうか。

高崎:2010年に「ベーカリーぷかぷか」を開設し、いまは4店舗を展開しています。そのうち「ぷかぷかさんのお昼ごはん」はぷかぷかさんがつくった美味しいご飯を、ぷかぷかさんと一緒に食べるお店です。一緒に生きていったほうがいいよ、というメッセージを体感できると考えています。41人のぷかぷかさんがいて、4店舗のほかには、畑作業などをしています。

「ぷかぷか」が展開する4店舗は横浜市緑区の団地が立ち並ぶ住宅街の一角に立地。近隣の住民が訪れる。
「ベーカリーぷかぷか」
「理屈抜きに『いいな』『こういうものを造る人がいるのはいいな』と思えるのがアート」と高崎氏は話す。「アート屋ワンド」にはぷかぷかさんがつくった作品が並ぶ。

「生産性がない人もやっぱり社会に必要です」

写真提供:ぷかぷか

高崎:健常者の社会の歪みを、ある意味で救うのはぷかぷかさんたちだと思っています。彼らがいることで、みんなの心が丸くなったり、ちょっとゆるんだりね。社会がすごく息苦しくて、さまざまなところで限界が来ている中で、彼らと一緒に生きていくことで見えてくるゆったりとした感覚は、生活のペースを変えてくれます。

例えばこの写真です。セノーさんは「仕事をしない」という理由で、前にいた作業所に居場所がなくなったんです。「ぷかぷか」でも、薬のせいもあって寝ていることが多い。でも彼がいることで周囲は安らぐんです。この「感じ」は何者にも代えがたいし、この写真をSNSにアップするとものすごい数のアクセスがあるわけです。寝ているけれどファンを増やして、お店の売り上げに貢献しています。

郵便局に売り上げの入金に行くんですが、その時にスタンプ台を借りるんですよ。彼は窓口でなかなか言葉が出ず「あー、あー」と言ってるわけです。そのうちようやく「スタンプ台を貸してください」と言葉が出る。それをね、毎日やるんです。郵便局の方も、もう何しに来たのかわかっているんだけど、「今日は何を言うんだろう」とじっと待ってくれます。5-6人いる郵便局の方が、彼のファンになっているんです。

郵便局の方はおそらく、障がいのある方とお付き合いした経験はそれほどなかったと思います。でも「なんか面白いんだね」と受け止め、たまに時間が遅くなると「今日どうしたの」と声をかけてくれます。卒なく入金の仕事をこなしてくるだけでは、なんの関係も生じないことが多いでしょう。彼はその場の人間関係を耕しているんです。

山岡:皆さん、ぷかぷかさんに会いたくなるのですね。

高崎:そうです。彼は確かに「働かない」ことが多い。でも、生産性がない人もやっぱり社会に必要ですよ。そういうことにぷかぷかさんは気付かせてくれます。

山岡:結局は本質的な在り方、命そのもの、個性にしっかり寄り添うことが、結果的に社会を持続可能にするのかもしれません。

高崎:具体的にぷかぷかさんと付き合いをする、その現場をつくっていかないと、共生社会なんて嘘になってしまいますよ。いわゆる「障がい者雇用」には、会社を耕すという効果があります。彼らが会社に入ることでさまざまなトラブルが起こる。それをどう解消しようかという試みが会社を磨くわけです。そして乗り超えたときに、お互いが本当に居心地いい会社になるはずです。そのために彼らと格闘しなければなりません。

「こういう人がいてもいい」という気付き

高崎:ぷかぷかさんと30年間お付き合いして「良かったな」と思うことのひとつは僕自身が自由になれたことです。こういうときはこうしなきゃいけない、という規範が取れました。

僕は障害児教育を一切勉強したことがない小学校の教員だったので、養護学校に勤め始めたころは大変でした。毎日が想定外。対処法なんてまったく知らなかったから、日々おろおろして、おろおろしたからこそ、彼らと人として出会えたと思っています。

しょっちゅうお漏らししては、パンツを脱ぐ人がいたんです。天気のいい日は外に飛び出して、パンツもはかずに芝生で大の字で寝転がってるんです。そのたびに「みっともないからパンツをはけ!」と追いかけていました。

それを毎日繰り返すうちに、彼のほうがいい人生だな、と思い始めたんです。「パンツをはけ」と言う側よりも、芝生の上で大の字で寝てたほうが気持ちいいじゃないですか。そのほうが絶対いい人生ですよ。それに気付いたら「こういう人がいてもいいか」と思ったんです。そうすると芝生で一緒に寝転がることができました。

それはすごく大きな経験でした。規範が取れて自由になったというか、生きることが楽になったんです。そういう意味でも、彼らと一緒に生きていかないと、僕らだけでは社会の不自由さを解決できないと感じます。

「出会うこと」が共生社会への道

高崎明代表と山岡仁美・SB2020Yokohamaプロデューサー

山岡:SDGsは最初に「世界を変革する」と謳っています。変革するのであれば、今まで通りの自分たちの価値観では通用しない。そして「誰も取り残さない」のであれば、自分たちが今まで出会ったことがないような価値観や行動を受け入れて、生かさなければいけません。

高崎:社会の中では「普通であること」に息苦しさを感じながらも、個性を押し殺す方向に動いてしまっているんですね。そのことに気付かせてくれるのがぷかぷかさんだと思っています。

福祉事業者が根本的な個性や命を受け入れるということに気付けば社会は変わっていくと思います。でも、いかんせんまだ「支援」にこだわっている。支援というのは「社会に合わせる」方向じゃないですか。そのことにどうやったら気付くのかということですね。

相模原の事件では容疑者が「障がい者は不幸しか生まない」と動機を語っています。でも僕は、ぷかぷかさんが人を幸せにしていると思っている。「不幸しか生まない」というのは、彼がそういう付き合い方しかしていなかったからなんですよ。だけど付き合いのない人にとっては、それが本当かと思ってしまう側面がある。

ぷかぷかさんたちや地域の人が一緒にワークショップをすれば、皆がいい笑顔になるんです。もしあの容疑者がこういう経験をしていればね、事件は起こらなかったんですよ――。

山岡:ボーダーレスな感覚を社会に広げていくために、何が必要だと思われますか。

高崎:やはり発信することです。「ぷかぷか」は人権研修を請け負うこともあるんですが、最初に「自分の家の隣にグループホームが建つことになったらどう思いますか」と尋ね、その答えをメモしてもらうんです。その後、ぷかぷかさんたちとワークショップを行い、出会ってもらう。最後に、はじめに書いたメモを読み返してもらうということをしています。

山岡:変化を感じてもらうわけですね。

高崎:はい。(横浜市)緑区役所では、人権研修後のアンケ―ト回収率が前年までゼロだったそうですが、ぷかぷかさんたちとの研修は90%にもなりました。大学生とのワークショップの感想には「こんなに素直に生きていいのか」というものがありました。「ぷかぷかさんたちのようにポジティブに堂々と、私は語れていなかった」と。

そうやってコツコツと伝えていくということが必要だし、伝わると考えています。話だけじゃなく、直に触れ合って、きちんと「出会う」ということが必要です。

対談場所:ぷかぷかさんのおひるごはん
横浜市緑区霧が丘5-26-2-201
営業時間:ランチタイム 11:45-14:00(ラストオーダー 14:00)
     ティタイム  11:45-15:00(ラストオーダー 15:00)
※金曜日及び営業のある土曜日は14時まで(ラストオーダー13:30)
営 業 日:平日、一部の土曜日

NPO法人ぷかぷかのHPはこちら

対談の日の「おひるごはん」はミートソーススパゲティ、かぼちゃのスープ、きゅうりの酢の物、コールスローサラダ。すべて手作りで、有機野菜を利用するなど素材にもこだわりがある。対談中、近隣に住む小学生を連れた母子が店に訪れた。ごく自然にぷかぷかさんとテーブルを囲む光景に「ボーダー」は感じない。

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。