「ウッドストロー」開発者に聞く:プラ素材代替へ――野中 寛 三重大学教授
木粉など100%天然素材でつくられた「ウッドストロー」。プラスチックの代替素材として期待される(2018年12月に東京都内で開かれた「エコプロ2018」会場で)
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外食大手各社がプラスチックストロー廃止の方針を発表するなか、その代替素材への注目が高まっている。三重大学大学院生物資源学研究科の野中 寛教授と同博士課程の松岡拓磨さんが開発した「ウッドストロー」は、昨年ウッドデザイン賞2018を受賞。木粉や紙粉などを粘土状にして自由に成形することを可能にする技術は、多方面での応用の可能性を秘める。技術開発のポイントや背景について野中教授に聞いた。(オルタナ編集部=堀理雄)
――今回の技術開発のポイントはどんな点か。
プラスチックは様々な成形が可能で、自由な形を作ることができることが特徴だ。木や紙を原料としてプラスチックを代替しようとしたときに、その三次元成形性を高める研究が必要だと考えた。
今回の研究開発では、木粉や紙粉などのセルロース繊維に、天然素材である「セルロース誘導体」と水を混ぜて粘土状にし、枠に入れて圧力を加える方法で自由な成形を可能にしている。
ポイントは以下の4点だ。
①100%天然素材にこだわったモノづくり。
木や紙の三次元成形を、石油系の樹脂や接着剤を用いずに天然素材で実現する。
②細かい作りこみができる可能性がある。
プレス成形や押出成形などにより、中空、直角、糸状、肉薄など複雑な成形が可能。
③原料コストが安い。
木粉や紙粉、コーヒーかすなどを使用。
④究極のリサイクル素材。
水につけてこねるとまた粘土状素材にもどり、再利用できる。
ウッドストローは厚さ0.5mmであり、木材を切り削る加工方法ではこの薄さを作るのは大変難しい。今回の成形法ならではの製品だ。木材の新しい成形加工法、あるいは廃材の有効利用法の提案として注目してほしい。
今回の技術の応用例。ストローのほかにも、様々な形に成形することが可能だ。
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――どのような製品に応用できるか。
キャップ付きのボトルや、建築資材などに使われるハニカム(多孔材)などをすでに試作しているが、もっと簡単な食品トレーやコンビニの弁当箱、紙コップのフタなどへの応用も考えている。
また木粉や紙粉に限らず、あらゆる粉末状のバイオマス資源に適用可能。コーヒーのかすを原料にして成形すると、ストローなど滑らかできれいなものができる。抹茶の粉で作れば、そのまま食べられる素材にもなる。
――開発に至った背景には何があるか。
近年海洋プラスチックの問題が広く報道されているが、以前より地球温暖化問題や化石資源の枯渇を問題視し、100%天然素材にこだわったモノづくりを追究してきた。
プラスチック素材の代替を目指し、パッケージメーカー ザ・パックの阿部羅貴嗣氏と共同で、紙袋の取っ手などをはじめとして、セルロース素材を使った様々な試作品を作ってきた。
昨年からマイクロプラスチックの問題が急激に盛り上がり、外食大手各社がプラスチックストローの廃止を発表。そうした背景から今回、象徴的な製品として木製ストローを作ったが、もっと多量のプラスチックゴミを生み出すその他の製品にも取り組みを広げていくべきだ。
――今後の課題・展望をどのように考えるか。
ストローや食品トレー、ボトルなど液体と触れる用途では、耐水性を付与する技術開発が必要だ。天然系撥水剤を混ぜ込むことや成形後のコーティング、疎水化のための化学反応などの検討を進めている。また大量生産のためには、成形装置の開発も必要となる。
今回の技術の特徴の一つは、木材や廃材、おが粉といった需要を創出する点だ。それは林業活性化や新産業の創出、地方創生につながっていくと考えている。
特集:テクノロジーとサステナビリティ