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ミレニアル世代から見た林業 100年先の未来を考える

女性と男性の視点で切り開く森林の未来――樹木医 片岡日出美 (2/2)

SB-J コラムニスト・井上 有加

林業における再生(リジェネレーション:regeneration)の兆しとはどのようなものだろうか。個人、組織、地域や業界、そして社会の再生について、いまさまざまなスタイルで林業に関わるミレニアル世代の横顔から描き出してみたい。第2回は、樹木医の片岡日出美を追った。

山を大切にする哲学は家づくりにも

井上:ところで、日出美さんの山を大切にする哲学は、ご自宅にも表れているんですよね。

片岡:起業する前でしたが、私が自宅を建てることになって、当時、伊豆の林業会社に勤めていた森に木材の納入をしてほしいと無茶なお願いをしたんです。環境や森林のことをずっと軸に考えて生きてきた私が家という大きな買い物をする時、どんな選択をし行動するかは、大きな意味がありました。自分たちで働いてきたお金をどう使うかは、今後のライフスタイルをどうしたいかにも通じると思います。

そこで、少しでも日本の山に還元されるようなお金の使い方をしたいと思いました。建設は私が以前勤めていた住友林業に依頼したのですが、担当の建築士も親身になってくれて、一緒に伊豆の山や製材所にも行って、材料の寸法や色味、含水率も指示をしてくれました。木材の代金は、伐採から製材・加工のコーディネート費用も含めて、林業会社に直接支払いました。命がけで国土を守る仕事をしている林業者に少しでも対価を支払いたいと考えてのことでした。

伊豆のヒノキを使った片岡の自邸

伐採したヒノキから無節の材料を選んで、主にフローリングや天井板に使いました。無垢板なら、たとえ子どもたちが落書きをしても削って補修することもできます。無節の材は贅沢品なのかなと思いましたが、家の総額からすると本当にわずかだったので、もっとみんなに使ってほしいと思いました。私のように伐採する林業会社から指名するという特別なことをしても、結果的には一般流通品とあまり変わらない金額になったことは、建築士も驚いたほどでした。

井上:数ある木の中でも、ヒノキを選んだ理由はありますか?

片岡:子どもの物があるとどうしても家の中はカラフルになるので、その箱になるものには、主張しない品格のある色味でそこにたたずんでいてほしいと思い、白っぽい色味のヒノキにしました。実際住んでみると、肌触りも本当によくて、裸足でいることが増えました。塗装はオイルのみなので汚れやすいのですが、すぐに雑巾掛けする習慣にもなりますし、子ども達がこうして傷つけたり汚してくれるのも、今しかない財産とも思います(笑)。住んで3年経ってみると、まぁ気にならないですね。心から良い選択だったと思っています。

井上:無垢材はいいですよね。特に夏場の湿気が多い時の気持ちよさが違います。今の時代、一般的な規格で家を建ててしまうと床は新建材、建具や家具は木目調のプリントで、家の中で本物の素材が使われることは本当に少ないです。子ども達がそういったフェイクに囲まれて育つのが当たり前になっていることに何となく不安があって、一つでもいいから本物を使ってほしいと思います。

片岡:そうなんですよね。我が家のこだわりも、木材はちゃんと木を使う、石やタイルも本物を使うことでした。もう一つ言えば、コンロはIHではなくガスコンロにしました。現代の暮らしや都会の中では子どもが火を使う機会がまったくないので、せめてキッチンで煮物をする時くらいは、火を起こして見せてあげたいなと思っています。

井上:実は私も、同じ理由でガスコンロ派です。林業女子は、仕事だけでなく自分のライフスタイルについても、その背景や社会に与える影響を考えて選択する人が多い気がしています。

女性と男性がいるから生み出せる価値

HARDWOODの2人。左が片岡、右が森

井上:最近はミレニアル世代の起業も増えてきましたが、HARDWOODのような男女ペアでの会社経営は珍しいと思います。

片岡:これが結構、大変なんですが(笑)。代表の森は、私が女性だからいいんだと言ってくれていますが、木を伐れる即戦力にはならないのに本当に私でいいんですか?と再三尋ねました。でも、私が共同経営者であることが、会社の信頼につながっていると最近感じることがあります。たとえば見積や報告書のダブルチェックをする時、私は結構うるさいので「本当にこんな内容で出すつもりですか?」と指摘したりもします。本当に目の上のたんこぶで、うるさいなと思われていると思います(笑)。林業の世界ではスピード重視で、最後に何となく帳尻を合わせればいいという雰囲気があるけど、私は都会での仕事経験の中で顧客が求めているクオリティをわかっているから、そのことで少しずつ信頼を築いていけていると思います。

社長の森は、私に絶対に黙るな、黙られるのが一番困ると言ってくれます。会社を長く続けていくためには、ワンマン経営で誰かを押さえつけて一時的な利益を出しても意味がないという感覚があるんでしょうね。本当によくケンカもするんですが、これはお互い最初の生みの苦しみだねと言っています。ヒートアップして私が泣きながら怒ってしまっても、それでも向こうは全然容赦がなくて(笑)。それほど2人とも一生懸命なんです。一見、時間はかかるようでも、そうやって本音で議論することが最短最速で、強くなれるやり方なんだと思います。

森は樹上が、片岡は根や土壌が得意

井上:私は夫婦で経営者ですが、ふと、私が役員でいる意味は何だろうと考えることがあるんです。でもやっぱり経営者としての立場でものを言うことが求められているんだろうなと、改めて自覚しました。しっかりと言うべきことは言わなくちゃと思いました。

次世代の女性たちにどんな道を開いていくか

片岡:なぜ起業したかと聞かれると、明確な理由は正直わからなくて。ある意味、ゆるやかに流れに身を任せた結果であって、自分では大きな決断をしたようでしていないように思います。

井上:流れに乗る力というのは大事だと思います。それと、変化の多い時代では過去のキャリアにこだわりすぎずに“捨てる力”も大事になってくるのかなと最近思います。「私は今までこれをやってきたんだから、一生やらなきゃいけないんだ」とこだわり過ぎずに、変化できるしなやかさというか。

片岡:そういうのって、自分たちはさらりと決断してこられているようだけど、必ずしも当然ではないんだなと思わされます。それから最近、「片岡さんは大手企業に勤めて3人子どもを育てて起業するなんて、強い人ですね」なんて言われることがありましたが、全然そんなことなくて。私は小さい頃から体も弱くて強い劣等感がある所からのスタートだったので、悩んでいる人の痛みもわかるし共感できる。それでもうまくいくよと言ってあげたい。

井上:なんというか、バリキャリじゃないちょうどいい林業女子のロールモデルっていうのも、これからどんどん描かれていくんでしょうね。

片岡:いわゆる「女性活躍」については、一般論で語ることの危うさが少しわかってきて、あくまで自分の経験と主観でしか話せないのですが、今は「これがやりたい」という意志が強くて、柔軟で、ある意味で少し鈍感な人たちが、さまざまな分野で道を切り拓いているんだろうと感じています。私の場合で言えば、木が好きで、幼い子どもが3人いても働き続けられる段取りに柔軟さがあって、そして、忘れっぽい。よくいえば、切り替えることができる。

きっとまだ、林業や造園など歴史ある業界は多くの女性にとって働きにくい部分が多いと思います。でも、働きにくさをさほど感じずに楽しくやっている私のような女性も少なからずいるんですよね。そんな私の役割というのは、例えば「林業の現場をやりたい」「特殊伐採をやりたい」「樹木医として自立したい」と思っている女性がいて、社会の見えない壁が立ちはだかっているのだとしたら、道筋は作っておいてあげたいなと思っています。

現場で仕事をすると、男性と女性では体力やパワーが全然違うと痛感するから、女性が無理してチェーンソーを持たなきゃいけないと思い過ぎなくていい。その人に向いた仕事で、無理のない力の出し方ができればいいなと思います。私もクライミングをして、軽い剪定や診断はできるけど、断幹作業には力が足りなくてできない。でも次の若い人たちにああいう仕事をしたいと思ってもらえるような道筋は作りたいですね。

井上:今回は現場を見せていただき、お話を伺って、2つの目で見ることの重要性や可能性に気づかされました。例えば、地上と樹上、造園と林業、都市と山、そして女性と男性。そんな視点を併せ持ったおふたりがこれからどんな価値を生み出していくのか楽しみです。

片岡:いわゆる林業の視点から見ると、私たちは多くの分野に手を出して、ふらついているように思われるかもしれない。でも、異業種や異分野との掛け合わせ、新しい模索を恐れないでいたいなと思います。そこにビジネスチャンスもあるし、持続可能な社会を作っていくヒントがある。いい形で利益を生みながら、それを山主さんや業界に還元していくことが自分たちにできる役割だと信じて、今のスタイルでやっていきたいと思います。

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井上 有加
井上有加(いのうえ・ゆか)

1987年生まれ。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中に立ち上げた「林業女子会」が国内外に広がるムーブメントとなった。若手林業ビジネスサミット発起人。林業・木材産業専門のコンサルティング会社に5年間勤務し国内各地で民間企業や自治体のブランディング支援に携わる。現在は高知県安芸市で嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、林業女子会@高知の広報担当も務める。田舎暮らしを実践しながら林業の魅力を幅広く発信したいと考えている。

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