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ミレニアル世代から見た林業 100年先の未来を考える

広がる林業女子ムーブメント――林業と女性の関わり (前編)

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SB-J コラムニスト・井上 有加

一次産業の中でも男性社会のイメージが強い林業界で、「林業女子会」という女性グループが近年広がりを見せている。今回は現代における林業女子を、次回の後編では日本において女性がどのように林業と関わってきたのかを紹介する。

国内外に広がり続ける林業女子会

林業に従事している女性や関心のある女性でつくるサークル「林業女子会」は現在、国内外に25団体ある。2010年に京都で「林業女子会@京都」(以下、「@京都」)が発足してから都道府県単位で姉妹団体が増えつづけており、今年の9月にも「@熊本」が設立されたところだ。

林業女子会ポータルサイト : https://forestrygirls.wixsite.com/portal

各団体には本部や支部という関係性はなく、同じネーミングを有しコミュニケーションを取り合ってはいるが、独立した任意団体だ。1.林業に関する情報発信、2.林業女子どうしのネットワーキング、という2点の目的が共通していれば活動内容は基本的に自由。林業に関心のある女性なら誰でも入会できるので、林業や木材産業のみならず異業種、学生、主婦など多様なメンバーが集まっている。

筆者がこの林業女子会を京都で立ち上げた張本人なのだが、ここまでのムーブメントに発展するとは想像していなかった。そこには女性ならではの人を巻き込むパワーや瞬発力があると思う。当時私は大学院農学研究科の修士1年生で森林科学を専攻しており、課外活動でも林業体験をする「山仕事サークル」という珍しいサークルに入部し、鴨川源流の山村で地元の林家さんたちに山仕事を習っていた。

林業とは縁もゆかりもない家庭に育ったが、環境問題への関心から林学を選び、その奥深い世界や山村で暮らす人たちの人間的な魅力に惹かれた。林業は環境問題に密接に関わりながら課題も多くあることを知ったが、その魅力について世間に広く伝えたいと考えていた。当時流行していた山ガールや森ガールに対抗して林業を愛する「林業女子」がブームになったら面白い、という単純な思いつきから、サークル仲間や知人の森林組合職員、建築家などの女性たちに声をかけて林業女子会@京都(りんぎょうじょしかいあっときょうと)を立ち上げた。

翌2011年には静岡県と岐阜県の女性たちから「私たちもこんな活動がしたかった」「私たちの県でも林業女子会を立ち上げたい」と声が上がり、「@静岡」と「@岐阜」が設立されたことで、“ブーム”が“ムーブメント”になっていった。

林業女子会とは何か

林業女子会@京都発行のフリーペーパー「fg」(2011年当時)

「@京都」は設立当初、情報発信に力を入れ、フリーペーパーの発行やイベント開催から活動を始めた。“女性から女性へ林業の魅力を伝える”をモットーに、林業から最も縁遠い都市部の女性をターゲットに森や木に触れられる入り口をできるだけ手軽で洗練された形で提供することを目指した。

女性限定の間伐体験イベントや、京町家でお茶をしながら林業について勉強する「林業カフェ」も定期的に開催した。活動はメディアでも取り上げられて評判になり、林学以外を専攻する女子大生や木材に関心のある建築関係者、林業の本を出版したい編集者、保育士、介護職など20~30代の女性が多く入会してくれた。常時30名ほどのグループとなり、林業女子どうしのつながりを生み出すコミュニティとなった。

最近の「@京都」は、京都府内各地で支部(@南丹、@花脊、@和束)に分かれ、子どもに木に触れてもらう木育(もくいく)や森ヨガなどに加えて、林業女子が教えるチェーンソーアート教室や森林でのドローン研修まで、活動の幅を広げている。林業女子会をきっかけに誕生した企業「やまぐに」もある。

では他県の林業女子会はどんな活動をしているのか、ごく一部を紹介したい。「@岐阜」は林業や木工、建築を学ぶ専修学校である岐阜県立森林文化アカデミーの学生が中心となって立ち上げ、メンバーの専攻をいかした木工体験や林業体験のイベントを行っていた。最近では広葉樹林業の視察や他県の林業女子との交流会に加え、後に続く林業女子へ道をつなぐためのキャリア座談会を開催するなどリクルーティング関連の取り組みも行っている。

林業女子会@東京の活動フィールド(千葉県市原市)

「@東京」は首都圏だけあってメンバーの顔触れも幅広い。霞が関で林野行政に携わる人や、林学卒で金融やベンチャーキャピタルに勤め一次産業の支援に取り組む人、まったくの異業種の人や主婦もいる。週末は千葉県の山林をフィールドに下刈りや間伐に汗を流し、日頃、都会でオフィスワークに勤しんでいる心身を森の中でリフレッシュしながら、首都圏の女性たちへ林業の入り口を提供している。

2017年に立ち上がった「森林・林業ウーマン@海外部」は、海外の森林分野で活動する日本女性のネットワークである。メンバーは国際機関やNGO、研究者、留学生、コンサル等で世界各地に散らばっているため、普段はインターネットを介したコミュニケーションが主であり、メーリングリストでは各自の仕事紹介や悩み相談などが飛び交っている。海外の森林・林業の現場ではアジア人女性はマイノリティであり、女性ならではの問題やワークライフバランス等についても相談ができる場になっている。

林業女子というライフスタイル

林業女子会@山形facebookより

南北に長く気候が多様な日本列島では、地域により森林環境も林業スタイルも違っており、それが林業女子会の活動の多様性も生み出している。山形県は全国的に見て天然林率が高く、山岳信仰など深い森林文化が根付く地域である。豊かなブナ林に覆われた雪深い山村をフィールドにする「@山形」では、かんじき作りなど山で生きる知恵を伝える活動をしている。クロモジやニオイコブシという広葉樹のアロマ製品開発に取り組む地元林業会社と連携した「So-tennen」というレーベルの活動も行っている。

このように多種多様でユニークな活動が全国各地で展開されているが、いずれも共通しているのは、メンバーの森林や林業が好きという気持ちが源泉となっており、自分たち自身が楽しみながら活動していることだろう。活動ペースも非常にゆったりしており、女性が参加しやすい気軽な雰囲気がある。参加者は活動を通してまずは森や木に触れる楽しさを知り、林業についての理解を深め、都市生活の中に森のある暮らしのエッセンスを取り入れている。日頃林業に従事している人も、気の合う仲間と一緒に森の魅力を再発見している。

林業女子会では“林業”の定義を広く考えており、木材以外の動植物や森林空間にいたる森の恩恵を活用し暮らしを豊かにするなりわいである、としている。豊かな生活経験を持つ女性ならではの発想、そして多様なメンバーの幅広い専門的視野から、森林の新しい価値を発見していきたい。

林業女子とはライフスタイルであり、川上(林業)から川下(木材利用)までそれを生業にする人や生活の中で関わるすべての女子である。そして人間の3世代にわたる長い視野が必要な林業を通して、“100年先を考える余裕の女子”でありたいと考えている。これは100年前の昔と100年後の未来の両方に思いを馳せるということである。林業女子とはどのような女性なのか、イメージを持っていただけただろうか。それは、持続可能な未来を考えてみた時に自ずと“林業”にたどり着く、そのことに気が付いた女性たちのことなのかもしれない。

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井上 有加
井上有加(いのうえ・ゆか)

1987年生まれ。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中に立ち上げた「林業女子会」が国内外に広がるムーブメントとなった。若手林業ビジネスサミット発起人。林業・木材産業専門のコンサルティング会社に5年間勤務し国内各地で民間企業や自治体のブランディング支援に携わる。現在は高知県安芸市で嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、林業女子会@高知の広報担当も務める。田舎暮らしを実践しながら林業の魅力を幅広く発信したいと考えている。

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