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第8回ビジネスと人権フォーラム報告:国家の人権保護の義務(前半)

SB-J コラムニスト・下田屋 毅

第8回目となる国連ビジネスと人権フォーラムが、2019年11月最終週の3日間に渡りスイス・ジュネーブの国連本部で開催された。これは、国連ビジネスと人権に関する指導原則の普及を目的として2012年から開催されているもので、筆者は7回連続での参加となる。

©2019 Takeshi Shimotaya

2019年のテーマは、「行動の時:企業が人権を尊重するための政府の触媒としての役割」と政府に焦点を当てたものとなった。2019年の「ビジネスと人権フォーラム」の登録数は3000人(参加者は2400人)で、そのうち企業(法律事務所、関係団体、コンサルティング会社含む)の参加が31%と国がテーマであるにも関わらず増加している。その他、NGOから31%大学アカデミアから10%、国連加盟国から13%、国内人権機関から3%であった。2019年の本フォーラムは、全体が集まるプレナリーを含み全部で70を超えるセッションが展開された。

1.本フォーラムでのキーワード

©2019 Takeshi Shimotaya

本フォーラムで飛び交ったキーワードは、「スマート・ミックス」「レベル・プレイング・フィールド」「政策の一貫性」など。

「スマート・ミックス」とは、これは、特定の状況における、企業が人権に対する尊重を促進するために必要な、強制的(ハードロー)、自発的(ソフトロー)、国内・国際的な措置の正しい組み合わせを意味し、ハードローはこのミックスの中心的な要素であるとしている。企業が人権に関して、責任あるビジネス慣行を行うように動機付けがなされるのは強力な推進力となるとされた。

「レベル・プレイング・フィールド」は、企業がビジネスを行う上で不公平な状況を正し、人権を尊重した同じ土俵でビジネスを行うことを伝えるものである。これは先進的に人権デューディリジェンスに関して進めている企業などが人権侵害のリスク特定を先駆けて行っているが、それ故にそれら企業のみ人権侵害のリスクがあるように見なされてしまっていることがある。しかし実際にはそれ以外の企業は人権デューディリジェンスを実施していないので、人権侵害のリスクが特定できておらず、それらリスクがないような印象を与えているだけであり、実際には多くの人権侵害のリスクがあることが想定される。「レベル・プレイング・フィールド」とは、この点において「全ての企業が人権デューディリジェンスを実施し、人権尊重を行い、同じ土俵に立つことが必要」だという意味である。

「政策の一貫性」は、国家において、政策の一貫性が無いことから、労働関連の虐待、差別、環境被害、土地の権利侵害、ヒューマンライツ・ディフェンダー(人権保護活動家)への脅迫など、数多くの人権侵害が引き起こされていることからその重要性を訴えるものである。このことから影響を受けるのは、移民労働者、低賃金部門の労働者、女性と少女、先住民族、ヒューマンライツ・ディフェンダーなど脆弱な立場にいるライツホルダー(権利保持者)と呼ばれる人々で、これらの人々の人権が侵害されるリスクが非常に高くなっており、多くの場合、企業活動による悪影響を受けているのである。これは、指導原則8に基づく国家の保護の義務に注意を促すものであり、国連からガイダンスも提供されている。

2.国別行動計画の状況

前述したが、今回のフォーラムは、国家の役割に関するテーマが設定されており、政府の役割として、国別行動計画(NAP)の策定についての報告がされている。アジアでは、タイがNAPを策定し、南米は2か国、アフリカではケニアが策定している。タイは、アジア諸国で初めてのNAP策定となり、オープニング・プレナリーで登壇し大きな注目を浴びていた。日本は、外務省人権人道課の南課長から日本のNAPの状況についての報告がなされ、2020年半ば(東京オリンピック前)までに策定・公表するとした。

NAPに関してはEU諸国が策定を先行し、欧州は、NGO・市民社会、企業の意見が、NAPに反映され、意味のあるものになってきている。各国でNAPが実行され、その上で「英国現代奴隷法」や、「フランス企業注意義務法」、「オランダ児童労働人権デューディリジェンス法」、「ドイツ人権デューディリジェンス法規制」、など法規制が行われてきており、企業に人権デューディリジェンスの取り組みを促している。

しかし欧州で法規制が推進され、触媒として効果的な役割が政府に求められているが、全体としてはまだ弱く機能しているとはいえないとされた。

ちなみにドイツ政府はNAPにもとづき、2020年までにドイツ国内の500人以上を雇用する企業の50%が人権デューディリジェンスを導入することを目標として掲げている。導入しない企業は、その理由の説明が求められ、もし2020年までにその割合が50%に達しなければ、ドイツでは強制的に人権デューディリジェンスを実施させる法律を導入するとしている。

3.先住民族に対する人権侵害

今回2019年のフォーラムの中でも、先住民族への人権侵害の事例が報告されている。

<ヒューマンライツ・ディフェンダーへの攻撃>

国家は、さまざまな人権文書(特に、ヒューマンライツ・ディフェンダー(人権保護活動家)に関する国連宣言)に定められているように、ヒューマンライツ・ディフェンダー(人権保護活動家)の権利と保護を確保する主要な義務を負っている。ヒューマンライツ・ディフェンダーの重要性は、指導原則によって認識され、ヒューマンライツ・ディフェンダーが人権デューディリジェンスにおいて重要な役割を果たすことができると強調されている。指導原則は、企業に人権デューディリジェンスの一環として、ヒューマンライツ・ディフェンダーに重要な専門家として相談をするよう促している。また指導原則では、ヒューマンライツ・ディフェンダーの活動が、合法的であり、そして妨げられることがないように保証することを各国に要請している。

しかし、世界における状況としては、特にヒューライツ・ディフェンダーに対して、「プライバシー」、「表現・集会・結社の自由」も確保ができていない状況である。また政府からの脅威にも晒されていることが示唆され、ヒューマンライツ・ディフェンダー、メディア、ジャーナリストなどが標的にされているという。驚くべきこととして、多くの企業が、これらの攻撃に加担、支援、あるいはけしかけている状況もあるという。また一部の企業は、ヒューマンライツ・ディフェンダーを直接標的にして、攻撃している。戦略的訴訟、暴行、脅迫、殺害など、企業が関連して行われている攻撃がある。また女性のヒューマンライツ・ディフェンダーは、女性であることで、さらに追加のリスクにも直面しているのである。

企業が関連するこれらの人々に対する攻撃は、主に鉱業、農業関連産業(アグリビジネス)、および再生可能エネルギーのプロジェクトに関連している。特にこれらの産業は、ヒューマンライツ・ディフェンダーに対する攻撃が最も強く深刻とされている。

アルメニアの金鉱山では、鉱山の採掘に際して毒物がアルメニア最大の貯水池へ流入していることが報告された。これは企業の短期的な利益のために環境汚染、そして人権侵害が行われている実態があるという。アルメニア環境戦線代表のアニ・ハチャトリアン氏は、「これらの経済は短期的な考えで行われているものであり、認めることはできない。これらの環境汚染は、人権につながっている。そして将来世代の人たちに影響を与えるものである。これらを我々は許すことができない。人権は、企業の権利を上回るものでなければならないと考えている」と訴えた。

©2019 Takeshi Shimotaya

ブラジルにおいてもアマゾンの先住民族の領土に200ものダムが作られ、3900万人もの先住民族へ影響を与えている。AJI(AJI (Action Association of Young Indians of Dourados) グアラニ・カイオワ先住民族の若者代表であるドウラドス、マット・グロッソ・ド・スル氏は、インフォームド・コンセント(正しい情報に基づく理解と合意)が行われずにこれらの人権侵害に晒されている状況があることを訴えた。

©2019 Takeshi Shimotaya

<事前の、自由なインフォームド・コンセント(FPIC)原則>

©2019 Takeshi Shimotaya
©2019 Takeshi Shimotaya


このように先住民族の人権侵害に係わる部分として、インフォームド・コンセントが重要な役割であることがわかる。そして本フォーラムでは、このインフォームド・コンセントに係わるセッションとして「事前の,自由なインフォームド・コンセント(FPIC):企業が先住民の権利に基づいて行動する必要がある理由」が行われた。

投資家、金融機関、企業が、先住民族を尊重することを必要とする保護方針であり、特に「社会的ライセンス」の一部としての「事前の,自由なインフォームド・コンセント(FPIC)原則」が発行されている。先住民族の自決権や、土地、領土、資源に対する権利は、さまざまなレベルで支持と注目を集めている。

しかし、国連人権機関、地域・国内の裁判所、OECDのNCP(国内連絡先)などの苦情処理メカニズムにおける決定の増加が意味することは、先住民族が引き続き鉱業、農業関連産業(アグリビジネス)、不動産、観光などの事業活動に関連する人権侵害の被害者となっていることを示しているという。

この典型的な影響には、土地と資源の権利への悪影響と先住民族のヒューマンライツ・ディフェンダー(人権保護活動家)に対する攻撃が含まれている。人権侵害は、国立公園や「グリーンエネルギー」プロジェクトなどの環境保全事業や、大規模なダムのプロジェクトなどのインフラ開発において報告されている。

先住民族の権利は、多くの場合、彼らの領土での開発/事業活動が与える最初の犠牲者であり、多くの場合、先住民族に対してFPICがない。これらの活動には、多くの場合、軍隊などの治安部隊が大量に使用され、反対勢力を封じ込めるため、より多くの人権侵害が行われている。このため企業はFPICを認識し、先住民族の権利を尊重する必要性を呼びかけられている。

現状においては、「土地の権利の否定」、「決定の強制」、「先住民族のリーダーシップの操作」、「贈収賄」、「腐敗」、「偽の組織と偽の指導者の作成」、「文書偽造」など、先住民族の資源へのアクセスを求める企業によって、先住民族に対して行われ問題となっている。これらはFPICの問題ではなく、FPICの認識が欠如しているという問題である。

<ゼロトレランスの誓約>

ゼロ・トレランス・イニシアチブは、グローバル・サプライチェーンにおける先住民族やその他のヒューマンライツ・ディフェンダー(人権保護活動家)に対する暴力、脅迫、殺害に対処しようとしているイニシアチブである。

このイニシアチブは、支援グループの幅広い連合と連携し、先住民族やコミュニティの代表者と協力して、企業に農産物の生産と貿易に関連する殺害と暴力に対処するよう求めている。このイニシアチブは、土地と環境のディフェンダーに対する暴力と犯罪が増加していることを伝えている多くの組織の活動に基づいている。

©Global Witness

2019年11月、ビジネスと人権フォーラムの直前に、25人以上の先住民および地域コミュニティの代表者がジュネーブに集まり、これらの問題について話し合いを行った。企業のサプライチェーンでの殺害と暴力が行われており、この緊急の問題に取り組むことを企業に約束してもらうためであり、「ゼロトレランスの誓約」を企業に呼びかけた。

国際NGOの「グローバル・ウィットネス」は、2018年、土地と環境のディフェンダーが、毎週3人殺害されていると報告している。このことから環境・人権のディフェンダーを支援・保護するために多くの行動をすることが必要であることは明らかである。しかし、既存のアプローチ自体が、攻撃と脅威という根本の原因に取り組めていないから継続されているとしており、環境・人権ディフェンダーを保護し、暴力に対処する違うアプローチが必要だとしている。

そしてその上で人種差別などの根深い、体系的な問題に注意を集中するには、このゼロトレランスの誓約が必要となってくるのである。ゼロトレランス誓約は、環境・人権ディフェンダーの組織、知識、視点、経験を認識するためのステップとして、また国家、政府間機関、企業、投資家、市民社会グループの側での環境・人権ディフェンダーを危害から保護するためのより積極的な行動に向けたステップとして必要であるとされている。

<先住民族との正しいエネルギーパートナーシップ>

今までは、先住民族やそのヒューマンライツ・ディフェンダーに対する人権侵害の事例のみが報告されていたが、今回は、明るいニュースとして、先住民族と企業の再生可能エネルギーに関するパートナーシップである「先住民族との正しいエネルギーパートナーシップ」が事例として紹介された。

このパートナーシップでは、先住民コミュニティに対して再生可能エネルギー開発における、環境や人権侵害などの悪影響を防ぐために先住民族の権利が保護され、再生可能エネルギーへ先住民族のコミュニティがアクセスすることができ持続可能な開発を実施することができること、また先住民族と他の関係者間の知識交換、連帯、協働を強化することができ、SDGsの目標17のパートナーシップを進めていくことができるというものである。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当CSR/サステナビリティ)。

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