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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
コロナ危機を克服する企業のチカラ

シェアリングエコノミーの浸透は不可逆的に加速している――アイカサ 丸川照司 代表

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(写真提供・ Nature Innovation Group)

ウーバーやエアビーアンドビーを筆頭にさまざまなシェアリングサービスが一般的になった。コロナ禍で「モノのシェアリングの浸透は一部にダメージを受けたが、スキルや時間、お金のシェアリングは不可逆的に加速している」と話すのは傘のシェアサービス「アイカサ」を手掛けるNature Innovation Group(東京・渋谷)の丸川照司代表だ。「シェア」という概念はコロナ禍で変化した人の動きや風潮によってどのような影響を受け、どうなっていくのか。丸川代表に今後の見通しを聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本 啓一)

――「シェアリングエコノミー」は循環型経済と親和性が高く、ウーバー、エアビーアンドビー、フリマアプリなどのサービスがこの数年で一気に浸透しています。「アイカサ」というサービスはどのような「シェア」を提供していますか。

駅に設置されたアイカサのシェアスポット。専用アプリをスマホにDLし利用できる。1日70円(写真提供・ Nature Innovation Group)

丸川照司氏(以下、敬称略):アイカサは駅などに設置する傘のシェアサービスです。ビニール傘の消費量は、国内で年間約8000万本に上ります。突然の雨や、傘を忘れたなど、その多くは「仕方なく」消費されているんですね。「使い捨て傘」は傘そのものも短命で、利用者からすると経済的にも無駄が多いわけです。8000万本という数字以上にアイカサが利用されるようになることが大事だと思っていて、アイカサを利用することが「普通」になれば、消費文化が自然と変化して、使い捨て傘がゼロになる。そういうことを目指しています。

雨が降っていて、傘がなくて、濡れるのもコンビニでビニール傘を買うのもやっぱりちょっと憂鬱だな、と私自身が感じていました。その憂鬱をなくして世の中を変えられるんじゃないかなと考えたことが「アイカサ」が始まったきっかけでした。

――その方法が「シェアリング」だったわけですね。

丸川:そうです。ぼくの個人的な思いですが、世の中の違和感や「もったいないこと」を解消し、変化していくということに興味を持っていて、同時にそれが一番意義を感じている部分です。だから実はシェアリングという手法に固執しているわけでもないんです。アイカサに関してはシェアリングを軸としていますので、どのようにしたら広まるか、さらに付加価値を高めることが必要だと考えています。

――先日発表された旭化成、テラサイクルなどとのコラボレーションや、シェアのラインナップに日傘を加えるといった付加価値につながる取り組みをされていますね。

関連記事=ジップロックをシェア傘に回収・再生、旭化成・テラサイクルなど4社が連携

丸川:晴雨兼用の傘に関しても、それで廃棄物を減らす、ということに直接つながるわけではありません。しかし酷暑で熱中症が大問題になっている中、日傘をシェアすることで夏が少しでも快適になれば、という、それは私たちにしかできないことだと思いました。

不可逆に浸透しコロナ禍で加速

――コロナ禍で人の行動の変化がありました。アイカサの利用数に影響はありましたか。どのような対応を行ったのでしょうか。

オンラインでインタビューに応える丸川代表

丸川:4月は世間全体で外出の機会が減り、一時的に利用数の落ち込みがありました。何が危険かわからないという状況もあり、シェアリング傘に「触れる」ことを控える利用者もいたかもしれません。シェアするという、小さなコストで豊かになる概念が社会から遠のいてしまう、という危機感も感じました。

その後、情報や対策が整理されるにつれて利用数は戻っています。梅雨や日傘利用などもあり、現在は昨年比で利用数は伸びています。アイカサとしても100カ所以上のシェアスポットに、誰でも利用できるアルコール消毒剤を置いたり、「1日70円」という料金設定ですが、自粛期間中は返却日が伸びた場合の追加料金を無料にして、不要不急の外出を控える行動を促す、といった対応をしました。

――シェアリングという概念全体にとっての、コロナ禍の影響はいかがでしょうか。

丸川:恐らくコロナ禍は、シェアリング全体にとってポジティブに働いたと思います。例えば自転車のシェアが伸びていたり、傘に関しても「傘をさせば自然に距離が保たれる」という一面がフィーチャーされました。

シェアには「モノ」「スキル」「場所」「時間」「お金」という色んなシェアがあります。その中で、実際にコロナ禍でダメージを受けたのは「モノ」のシェアリングというごく一部に限られます。在宅の仕事やネットを通じた副業など、スキルや時間のシェアリングは「爆速」で進んで、利用のニーズは全体的には高まり、加速したと考えています。

シェアの概念は、すでにあるリソースを最大化することだと思っています。例えば昔ながらの公衆電話はモノのシェアリングです。インフラ化して気づきにくかったかもしれないけれど、昔からずっとあり、社会の中で大きな役割を果たしている概念なんです。

そしてシェアリングという言葉は「IT化」と切り離せません。ITによって色んなことが実現した延長線上でシェアリングという言葉が使われています。シェリングエコノミー協会の定義でも必ず「IT」という言葉が入ります。従来あった概念が技術と結びついたことでシェアリングという言葉も生まれてきたんです。

だからこそ「シェアが進む」という流れは不可逆だと思っています。大きく言えば「地球という限りあるリソースを最大限に活用してどう豊かになるか」という話とまったく同じです。仮にシェアリングという言葉がなくなったとしても、ひとつのモノ・コトを共有し繰り返し使う、ということは進んでいくと思っています。

――シェアするということが当たり前になる将来は必ず来る、というわけですね。

丸川:一言で言えば「合理的」なので、そうなると思います。「エシカル」に「合理的」な一面があることを伝えることで人の行動を促し、格段に広がりやすくなります。アイカサも、こういった合理性を背景として、ビニール傘の消費が減る、忘れ物を気にすることが減って憂鬱が減る、もっとサステナビリティの浸透を早める、ということをしたいんです。ビジネスと社会貢献を両輪として走ることで、より良い未来を「早く」実現できると思っています。

丸川 照司 株式会社 Nature Innovation Group 代表

台湾と日本のハーフ。幼少期には、シンガポールや東南アジアでも過ごし、中国語と英語を話す18歳の時にソーシャルビジネスに興味を持ち、「社会の為になるビジネスをしたい」と志す。19歳の時に子ども目線の反抗期カウンセラー、20歳に株式会社ノジマでセールストップ10入り。その後マレーシアの大学へ留学。在学中に中国のシェア経済に魅了され、自身が最も欲していた傘のシェアリングサービスを大学を中退して始める。夢は財団を作ること。

アイカサのホームページはこちら

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。