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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
サステナブル・オフィサーズ 第57回

多様な人材を生かし、同質性の高い組織からの脱却を目指す ――NECが経営戦略として取り組むI&D

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Interviewee
佐藤千佳 NEC 人事総務部門 I&D担当            コーポレート・エクゼクティブ
Interviewer
松島香織 サステナブル・ブランド ジャパン

NECはI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)を、パーパスを実現する経営・事業における成長戦略そのものと位置付けている。通常D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の取り組みとするところを、同社はあえてインクルージョン(包括・包含)を前に出しI&Dとしている。組織にはそれぞれ独自の社風や風土などがあるが、いくら多様な人材が集まっても彼らを受け入れる組織風土が整わなければ、全ての社員が個々の能力を発揮することは難しいと考えるからだ。人事総務部門でI&Dを担当するコーポレート・エクゼクティブの佐藤千佳氏は、「同質性からの脱却」をI&Dの課題として挙げ、全社をあげて今取り組んでいると話す。

インクルージョンがあってこそ、人材が生かされる

――2021年に発表された「2025中期経営計画」では、経営・事業における成長戦略としてI&Dが非常に大きな役割を担っています。

佐藤:人事の計画ではなく、まさに中期経営計画の真ん中にI&Dが入っています。パーパス実現のためにEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)成長率を年平均9%上げるなどの目標を設定した「戦略」と、エンゲージメントスコア50%達成を目指した「文化」がありますが、この文化を支えるのがI&Dとなります。

私たちはダイバーシティをイノベーションの源泉と考えています。2021年には、社長を委員長とし、人事・コミュニケーション領域のリーダーと当事者とが同じテーブルで打ち手を議論し、トップが方針を決定する「I&D推進委員会」を立ち上げました。2026年4月1日までに当社単体で、役員における女性/外国人比率を20%、管理職における女性比率を20%、全社員における女性比率を30%にすることを目標に掲げています。

当社の現状からすると非常に高い目標ですが、2026年4月時点でこの水準をクリアできていないような企業は、もう世の中から相手にされないのではないか、と考えています。

グローバル人事コンサルティング会社Kincentric社サーベイによる。エンゲージメントスコア50%は概ねグローバル上位25パーセンタイルに該当し、Tier1レベル。

――多くの企業ではD&Iとしていますが、貴社ではI&Dとされていますね。

佐藤:私たちはあえてインクルージョンを先に持ってきています。なぜなら、多様な人たちがきちんと組織に包含され、彼ら彼女らが持ち味を発揮して既存のチームと切磋琢磨しながら価値を出していくことが重要だからです。そのために、働き方の改革やジョブ型マネジメントの導入にも取り組んでいます。全ては同質性の高い組織からの脱却につながっていきます。

同質性が高いが故のリスクを意識してI&Dに取り組む

――「同質性の高い組織」とはどういうことでしょうか。

佐藤:残念ながら当社と国内グループ会社の意思決定層は、同じような経歴・経験をした日本人男性で占められ、極めて同質性が高い状態です。2025中期経営計画の期間中に、意思決定層に多様な人材を入れたいというのが私たちの挑戦です。

「そこからイノベーションが生まれるのか?」「こうした意思決定の場からグローバルなビジネスはできるのか?」と同質性が高いが故のリスクがないかどうかを徹底的に意識しています。実は日本企業の多くが悩んでいるのではないでしょうか。

――多様性を持たせるために、主に女性の登用や活躍促進に力を入れるのでしょうか。

佐藤:I&Dでフォーカスされるのは女性だけなく、障がい者や新卒や中途で新しく入ってくる仲間、それからLGBTQや外国人など、多様な人材全般になります。

2018年度と最新データを比較すると、キャリア人材年間採用数は524人、グローバル人材はM&Aの影響も含めて1.1万人、女性管理職比率は2.7%増えています。いずれの数字も上がっていますが、実は退職者の女性比率も上がってきています。そうした意味では、人材をいかにつなぎとめていくかということも、ひとつの課題になりつつあります。

人事にはいわゆる「飛び道具」のような解決策はありません。入社した社員を地道に育成し、彼らや彼女たちを昇格させていくことになります。退職を防ぎつなぎとめるリテンションとともに、外部に対してはI&Dの取り組みを当社のブランドとして打ち出すことにも、今まさにフォーカスしています。

――どのように多様な人材の雇用率を上げていこうとお考えですか。

佐藤:全社員に対する女性比率を上げるためには、新卒採用での女性比率向上が必要不可欠です。新卒の学生は年間約600人採用していますが、現在の女性比率は34%程度。当社は技術職のポジションが多く、技術職採用の大部分を占める学校推薦枠の女子学生比率が低いという課題があります。

2025年までに新卒採用の女性比率50%を目指しますが、2024年に新卒で入社する女性社員をまず40%まで増やしたいと考えています。長期的な対策としては、理工系の女子学生を増やせるよう、大学や高等専門学校、高等学校にアプローチする施策なども検討し始めています。

また、女子学生に当社で働くイメージを持ってもらうためのワークショップを開催したり、インターンシップの拡充を図ったりしています。

さらに理工系の女子学生が少ないという課題については、技術職やDXに興味・素養があれば、理工系出身でなくとも、入社後にその職種を担えるよう育成する制度を打ち出せないか議論しています。

――文系出身で理工系の知識がなくても採用し、入社後に理工系の勉強をしてもらうということですか。

佐藤:現在の日本の状況で、採用対象を理工系のみと決めてしまうと、女性の比率や採用数は変わりません。少し違う面から考えていかなくてはいけないと思っています。

イメージが変わったと言われるところまでやり抜きたい

――中途採用・キャリア採用についてはどのような取り組みをされていますか。

佐藤:中途採用・キャリア採用のマーケットにはそもそも女性が少なく、日本企業と外資系企業で取り合いになっている状況です。そのため、当社に興味を持ってくれる人を早くから発掘して2年ぐらいの期間で関係構築していくことも大切です。しかるべきタイミングでその人に当社への転職を検討いただく、こちらで適切なポジションが作れるときに入社していただくようなプロジェクトも始めています。

当社は2018年ぐらいから全社の変革を推進しており、企業風土もビジネスのあり方も進化したと自負しています。他社で働くために退職した人材にコンタクトして復職していただく取り組みもスモールスタートですが実を結び始めました。

退職した人にNECの現在のI&Dの話をすると「そこまで変わってきたのか」と驚かれます。ですから、当社が取り組んでいることをもっと伝えたい。ブランディングの発信をここ2~3年してきていますが、良くも悪くも「意外ですね」と言われる。まずは「意外ですね」と知ってもらい、NECはイメージが変わったと言われるところまでやり抜きたいと考えています。

サクセッションプランニングをもとにKPIを設ける

――I&Dの取り組みについて、社内への浸透はどのようにされていますか。

佐藤:濃淡はあれど、理解されていると思います。ただ、理解はしているが、業務に戻るとI&Dと実務が離れてしまうときがあるので、しつこいくらいに「これで本当にチームとして活性化しますか」「グローバルでやっていけますか」と質問を投げかけています。

現場に近いほど、熱量が届いていないかもしれません。ジュニアマネジャーが一番チームメンバーに対する影響が大きいのですが、「会社は良いことを言っているけど自分の周りでは全然動いていない」と社員がフラストレーションを募らせることがないように横からいろいろな刺激を与えています。成功事例はいくつか出てきていますので、それを広く共有し、さらなる成功事例を増やしていきたいです。

――経営層への多様性を考えるとき、サクセッションプランニング(後継者育成計画)においてもI&Dの取り組みや人材育成のあり方が重要になってきます。

佐藤:3~5年先のサクセッションプランニングの候補者も多様性を持たせるよう、今年度からKPIを設けました。まず自分自身の直属部下のポジションのうち4割以上に必ず多様性人材(女性・外国人・キャリア採用)の名前が入っていること。それから、今年度中に採用・登用するミドル・ジュニアレベルのマネジャーのうち25%を必ず多様性を持つ人材にすることをKPIに入れています。

当社ではトップ・オブ・トップというハイポテンシャル人材を約100人選抜しています。その中のシニア・ミドルの女性マネジャーは約20人います。この20人に対して役員レベルのスポンサーをつけて1対1で業務のシャドーイングをする、キャリアのアドバイスをするなどをしています。少ない人数ではありますが、効果が出始めているという感触をもっています。

またアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は誰にでもあるものですが、COVID-19の流行以前から、社長や役員レベルには順次、アンコンシャス・バイアス・トレーニングを実施しています。まずは組織を担うリーダー格からトレーニングをしていき、アンコンシャスバイアスをきちんと意識し、それを排除しながら組織マネジメントに携わってもらえるように進めてきています。

フレキシブルな働き方は社員にとっても会社にとってもWin-Win

――「適時適所適材の実現」のためにジョブ型人材マネジメントを推進されていますね。

佐藤:私たちはジョブ型人材マネジメントというのはエコシステムだと考えています。つまり、個々の仕事のあり方を、多様に連関する会社全体の業務のなかで認識するということです。経営戦略に基づいた組織デザインをしたうえで、各ポジションのミッションは何なのかを策定して結果を出し、その結果に基づいて評価する。一連のエコシステムとして全てつながっています。

2018年頃から順次取り組んできましたが、2022年から2023年では報酬やグレードの部分に踏み込んでいます。これによりジョブ型人材マネジメントのエコシステムが強化されます。

――障がい者の雇用は貴社グループ会社含め2.39%と公表されていますが、選考基準が一般社員と同様とされており、少し厳しいのではないかと思いました。

佐藤:障がい者の人たちにも当社の理念に共感してもらい、業務のなかでさまざまに学び能力を発揮してもらいたいと考えています。だからこそ採用方法は同じとしています。入社後も処遇・キャリアアップにおいて区別はありません。もちろん、さまざまなハンディキャップにより難しい業務があるかと思いますが、テクノロジーを使ってこういうことができるとか、それらを組み合わせることによってこんなビジネスができるとか、可能性を模索していきたいと思います。

障がい者の方々につきましては、私たちはその方々の自立・自活に向けたサポートをしていきたいと思っています。おそらく今後も法定雇用率は上がっていくので、そこに先駆けて雇用数を上げていく必要があり、そのために職域拡大をしているところです。

――在宅勤務は多様な働き方のひとつだと思いますが、貴社にとっての影響やメリット・デメリットを教えてください。

佐藤:在宅勤務やリモートワークの技術は正に当社のビジネスのひとつですので、こうした働き方はCOVID-19の流行以前から導入していました。メリットは、育児中の社員のうち、育児時短勤務制度の利用者数が減ったことです。勤務時間はコアタイムなしのスーパーフレックス制とし、合計時間で見ています。通勤にかけていた時間を業務に充てられるようになり、育児等の理由で業務を一時的に離れることもできるようになったため、フルタイム勤務に戻す社員が増えたのだと考えます。社員個人としても会社としてもメリットになり、Win-Winだと思います。

一方でこうした働き方には自己規律が大事になります。会社としてフレキシブルな働き方を提供する反面で、社員は自分を律してパフォーマンスを下げず、むしろ上げていくことが大切になります。

自分らしさを発揮できる職場環境に

――最後に佐藤さんがI&Dを推進するうえで大切にしていることについて教えてください。

佐藤:やはり目標は同質性の高い組織からの脱却です。グローバルで多様なバックグラウンドを持つ人たちがNECという会社に惹きつけられて入社し、長く働き続け、活躍したいと思うこと。それができる会社にしていきたいです。

それにはいかに自分らしく働いてもらえるかが大切です。自分らしさを発揮できる職場環境であり、それが受け入れられること、それにより会社も成長していく、そんなサイクルを回すようにしたいです。それから、世界を視野に入れて優秀な人材を獲得していくことを考えなくてはなりません。市場はグローバルなのに、日本語を話せる人から採用するのではもう勝負が見えていますから。


写真・高橋慎一

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佐藤 千佳(さとう・ちか)
佐藤 千佳(さとう・ちか)

NEC コーポレート・エグゼクティブ
1982 年住友電気工業株式会社入社、人事部門に勤務。その後米国在住を経て、帰国後外資系ベンチャー企業。1996~2011 年 GE にて、組織開発、採用、HR ビジネスパートナーおよび企業買収・統合業務等を担当し、HR リーダー職を複数ビジネスで経験。2011 年~2016 年日本マイクロソフト株式会社 執行役人事部長、2016 年ノキアにて日本・東アジア地区 HR リーダーを経て、2018 年 4 月にNECにカルチャー変革本部長として入社。その後人材組織開発部長を担い、2022年4月より現職に就任。