サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第48回

「銀行である必要ない」 価値創造へ金融機関の役割を根元から問い直す――太田純・三井住友フィナンシャルグループ CEO

  • Twitter
  • Facebook
Interviewee
太田純・三井住友フィナンシャルグループ 執行役社長 グループCEO
Interviewer
田中信康・サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー/サンメッセ総合研究所 代表

「われわれには強い危機感がある」。三井住友フィナンシャルグループの太田純CEOは2019年4月のCEO就任以来、そう強調し、社内起業やノルマ廃止など、さまざまな変革に着手している。今年4月には、経営理念を改訂すると同時に「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を発表、金融機関としてのビジョンを明確に示した。従業員10万人を擁するメガバンクは持続可能な具体施策をどう描き、金融の未来をどう切り拓こうとしているのか。従業員に向け自らの言葉で「カラを、破ろう。」と呼び掛け、これまでの金融機関の形にとらわれないチャレンジを促す太田CEOに話を聞いた。

社会を4つ目のステークホルダーに

田中: 2018年にサステナビリティ推進委員会を新設した後、今春に経営理念を見直し、サステナビリティ宣言を出しました。

太田:経営理念を変えたのは、2001年の合併以来、初めてのことです。これまでは、お客様、株主、従業員という3つのステークホルダーに対するメッセージとして経営理念があったのですが、それに社会という4番目のステークホルダーを加えました。社会というステークホルダーの存在は以前から意識していたのですが、合併当時、金融業界は不良債権問題を引きずっていました。その後もリーマーンショックが起こるなど不安定な状況が続き、積極的にメッセージを出すことを躊躇していました。けれども経営体力もつき、意識を変えていこうとなったわけです。

また外部の環境がずいぶん変わり、サステナビリティやESGに対する意識が盛り上がってきたことがあります。金融業は課題認識先進業者ですので、サステナビリティに対する意識は常にありました。それに加えて、やはり若手を中心に従業員の考え方が変わってきた。彼らは自分の人生の中で、企業活動を通じて、社会にどう関わっていくか、社会にどう貢献していくかということを非常に重視しています。そういうことを複合的に考えて打ち出したということです。

田中:金融機関がESGを推進するというのは、目に見えないものをつくり上げていくといった、イメージがしづらい面もあると思います。一方、浸透させることこそが重要だという認識で、有識者や外部の声も取り入れながらダイアログを重ねています。10万人というグループの従業員に浸透させていく難しさもありますね。

太田:私の仕事は今、半分ぐらいは内外への発信です。従業員のマインドセットをどう変えていくかを一生懸命考えています。私自身が直接訴えかける機会もたくさんつくっていますし、各社、各事業部門の役員がタウンホールミーティングという形で、中期経営計画の意味や進むべき方向性などを従業員に訴えかけ、質疑応答するという浸透策を進めています。

「地球は子孫から借りているもの」 当たり前のことを当たり前にやる

田中:新たな中期経営計画の戦略の中にもしっかりとサステナビリティを据えていくという意思を感じます。トランスフォーメーション(既存ビジネスのモデル改革)とグロース(新たなビジネス領域への挑戦)、クオリティ(あらゆる面での質の向上)の3つを基本方針に掲げ、その中のクオリティといった面でサステナビリティを経営基盤に置いています。

太田:その通りです。従業員にはサステナビリティに取り組むというのは当たり前のことだ、と認識してもらいたいと思っています。

私どもは、脚本家の倉本聰先生がつくった富良野自然塾を2006年の設立当初から支援しています。富良野自然塾には460メートルの「地球の道」があります。その距離を地球の46億年の歴史に置き換えて、インストラクターが解説してくれます。最初は何にもないです。しばらく行くと、海ができ、微生物が誕生し、酸素ができ、それからずっと行くと、恐竜が出てくる。そして最後の最後、460メートルの手前2センチのところで人類が出てきます。2センチですから、20万年ぐらいでしょうか。2センチの小さな幅が人類の歴史であり、「現在」の姿として高層ビルが建ち、パソコンなどのガラクタが捨ててあるんですね。道は未来に続いていて、いちばん奥に石碑が立っている。その石碑に「地球は子孫から借りているもの」と書いてあるんです。

すごくいい言葉だなと思いました。サステナビリティはよく、今生きている人たちが経済的繁栄とか幸福を享受できる社会をつくってそれを次代に引き継ぐことと定義されます。でも借りているならば返すのが当たり前。経済的な利益と環境問題のどっちを優先するんだという議論も局面、局面では重要だけれども、根底ではやはり当たり前のことを当たり前にやるという意識がすごく大事。そこまで意識を持っていきたいと思っています。

田中:サステナビリティ宣言の具体施策として掲げる10カ年計画「GREEN×GLOBE 2030」の戦略について聞かせてください。

太田:われわれが事業活動をしていく上で何をすべきか、というところから議論を始めました。ですから、KPI(重要業績評価指標)もグリーンファイナンスの実行額を2030年までに10兆円にする、三井住友銀行のCO2排出量を2030年までに30%削減することを掲げています。重要なのは、ただKPIだけを先行させず、まずは理念をきちんと理解してもらうことです。もう一つは、金融というのはあらゆる業種につながる交接点ですから、仲間をつくってみんなで環境・社会課題に関する取り組みを進めていくことが重要です。そのために、今年7月、コミュニティ「GREEN×GLOBE Partners」を設立しました。情報発信から始め、将来的にはいろいろなプロジェクトを共同でやっていきたいです。自分たちの価値を創造し、価値が還元されて新たに価値を生み出していく、循環型の価値創造を実現していこうとしています。

異常気象や新型コロナウイルスは本当に「想定外」か

田中:気候変動リスクの重要度は、企業活動においても高まっていますか。

太田: 統合報告書のCEOメッセージでも書きましたが、集中豪雨や風水害、新型コロナウイルスなど想定外の事態が毎年起きるということは、想定外でもなんでもなくて必然だと思います。倉本先生も言われていますが、平熱が36.5度の人が38.5度の熱があったら病気であるように、今の地球もそういう状態です。異常気象が起き、大変な災害を生んでいるとしたら、なんとかしないといけないと思うのが普通です。また企業は、経営環境が激変したとしても柔軟に適応して乗り越えられるよう、ビジネスモデルを進化させていくことが必要です。

田中:日本は他国と比べてもTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に積極的ではあるものの、企業側は持つべき責任についてなかなか公表できていなかったり、政府としてもメッセージが足りないように思いますが、いかがでしょうか。

太田:個別の企業で見ると対応しているところは多いですが、国として何をやるかという方針が明確に出ていないと感じます。われわれも含め各企業もなにをしているか伝えることが上手ではないと思っています。気持ちを持ってさまざまな取り組みをしていますから、それを伝えていくことが必要だと思います。

田中:ブラックロックのラリー・フィンクCEOも「気候リスクは投資リスク」と指摘しています。そんな中、SMFGはグローバルバンクとしては初めてTCFDに沿って定量的な情報開示を行い、再生可能エネルギーや気候変動対策といったところを意欲的に発信しています。

太田:TCFDを定量化したのは最初でしたが、情報を開示したのは水害による財務悪化の分析結果のみです。まだまだ道半ばで、さらに高度化していかなければいけないと思っています。欧州と比べると、事業別方針もカバーしている範囲が狭いので、さらに拡充していく考えです。サステナブルファイナンスに関しても、最近は債券のインパクト投資に特化したアセットマネジメント会社に出資をしており、この機能はこれからも強化していきたいと思っています。

田中:新設の石炭火力発電所には原則、投融資をしないという指針も出されています。実際にゼロになるのは2040年ぐらいでしょうか。TCFDに関しては、組織のガバナンスにおける透明性も重要ですが、今後さらに強化されていくのでしょうか。

太田:石炭火力発電所は近年、ほとんど新設されていません。プロジェクトファイナンスの投融資の残高はあと10年で半分以下になり、2040年にはゼロにすることを目指しています。ガバナンスについてもまだまだ高度化できると思っていますし、シナリオ分析もより実態に近い形で洗練させていくことができると思っています。

銀行の形にとらわれず、顧客が求める機能を果たせる存在に

田中:これからのビジョンとして「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」を掲げています。どういう意味でしょうか。

太田:われわれには強い危機感があります。金融業というのはGDPビジネスです。日本は経済成長率が1%もない、人口が減っていく社会ですので、金融業だけが大きく成長することはありえない。海外のチャンスを取り込むにしても、経営資源には自ずと限界があり、リスクもあります。さらに、金融と非金融のアンバンドリングが進んでいます。お金を貸す、預ける、決済する、という金融機能は今後も残っていくとは思いますが、その機能を誰がどういう形で果たしていくかというのは変わっています。ですから、旧来の銀行という形にとらわれず、今後はお客様が求めるような機能を果たせる存在に変わっていかなければならない。将来の機能の担い手が銀行と呼ばれる企業と違うのであれば、われわれは「別に銀行である必要はない」と常々言っています。

方向性としては3つあると考えています。1つ目は、情報産業化。今、われわれの持っている資産の中でバランスシートに表れていないものというと情報やデータなんです。このインタンジブル・アセット(無形資産)をどうマネタイズしていくかが今後の焦点になります。2つ目はプラットフォーム化。例えば今、銀行だけで2700万口座、貸出先は70万社あります。この顧客基盤をいろんな事業のプラットフォームにしていきたい。そして3つ目が、ソリューションプロバイダー化です。これは銀行が単にお金の貸し借りをするだけでなく、お客様が本当に困っていること、課題と思っていらっしゃることに対してグループ全体でソリューションを提供していく。そういうふうに変わっていかなければ生きていけない。昔の銀行のようにお金を貸してくれと言われて「はい、貸しましょう」というだけではダメなんです。

田中:金融業の使命として、今ある基盤を価値創造に向けてしっかりと活用していくということですね。顧客の裾野が全産業で最も広いといっても過言ではない業界で、トップの考えは非常に重要だと思います。

太田:本気度を見せるには、実例を挙げていかないといけません。私は自ら「社長製造業になりたい」と言っています。就任以来、こんなことをやりたいと手を挙げた従業員たちがいろいろな会社を立ち上げています。すでに9社設立しました。

ここでも目的は3つです。1つは、新たな社内ベンチャーに大きくなってほしい、稼いでほしいということです。IPO(新規上場)をしてもいいと伝えています。2つ目は、それをソリューションの具にしたい。例えばロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)という生産性向上手段を用いて、われわれは3年間で350万時間の本部の業務を機械化し、大きな成果を上げています。この経験を生かして経営者のニーズに沿った業務の流れをつくり、トータルでサポートする会社をつくりました。3つ目は、私自身の本気度を見せるためです。口先だけではなく、従業員がやりたいことをちゃんとできるようにするというメッセージを伝えるためです。話題になったのは、最近、設立したジョイントベンチャー。自分で事業をやりたいと言って準備をしてきた37歳の従業員を社長に抜擢しました。いつまでも「銀行でございます」という看板を背負っていても誰も寄ってこない時代です。自分たち自身が何をできるかを考え、変わっていかなくてはいけません。

田中:ドレスコードフリーの導入にもCEOの思いが表れていますね。

太田:発想を変えてほしいという思いからです。10万人の意識を変えるのは大変です。これまでの先入観や既成概念の中でぬくぬくしている方が楽で、変えようとなるとすごくエネルギーがいります。だからつい、なんかやるぞと言ったら、できない理由を探して安心する。それでは何も生まれないし、変わらない。カラを破るために何が必要かというと、発想の転換です。常に何かおかしくないか、と考えて発想転換をして欲しい。服装もスーツを着ることが当たり前ではないし、着ているから特別なことが起きるわけじゃない。だったら楽に仕事しようよとドレスコードをなくしたんです。

金融の未来を切り拓く

田中:これから金融の未来をどう切り拓いていこうと思っていますか。

太田:例えば超高齢化社会の日本で金融機関として何ができるか。健康や介護の問題、あるいは家族とのつながりなど、高齢者の抱えるさまざまな悩みにどうやって新しくサービスを提供していくのか。相続もそうですし、そのすべてにお金が絡んでいます。ですから、金融の機能を中心に据えながらも、あらゆるサービスを提供できるようなプラットフォームをつくれないかと考えています。例えば高齢の方と離れて暮らすご家族とのネットワークづくりであるとか、要望のある介護施設をご紹介するとか、あるいは病院に行った時の決済を待たなくていいようにする手法とか、いろいろなサービスが提供できると思います。

金融の基本的機能は残しながら、それ以外のニーズをどうやってわれわれのプラットフォームに載せていくか。あるいはそれをベースにどういう総合的なサービスを提供できるかということを考えていくことがこれからの時代に求められる金融機関のあり方です。金融の未来を拓くとはまさにそういうことだと思っています。

田中:最初に話されていましたが、若い世代の社会的課題への関心が高まっています。若い従業員の方々にも、これまでの銀行のイメージを打ち破って、発想を変えようとするメッセージは届いていると思いますか。

太田:今年、「カタリバ2020」というのをつくりました。若手・中堅の従業員と、1回6、7人で昼ご飯を食べながら話し合うんです。現在はコロナで中断していますが、一人ひとりがとても面白いんです。例えば、学生時代にパソコンの画面を見る人の目の動きを研究していたという者がいれば、ボランティアで地域振興活動している者、中にはSDGsへの関心が高く休日に学校に通っている者もいます。

けれども、そういうやりたいことが今の仕事に直結していない。ですから今度、社内SNSをつくることにしました。そこで、自分の夢を語ってもらい、それに対して「いいね」がいっぱいつく。仲間がいっぱいできて、一緒にやってみようって話になったら、メンターを入れてビジネスモデルに仕立てる。それを直接プレゼンしてもらい、本当に面白かったら事業化しようと思っています。従業員一人ひとりは社会全体のことを考えていて、各々やりたいことがあります。問題は、そういう人たちの発想とか夢をどうやってすくい上げ、実際に企業の力として活性化させるか。この仕組みづくりとかマインドセットがすごく重要だと思います。

田中:風通しのいい会社にしていこうとか、夢を語ろうと言うのはやさしいですが、実行していくことは簡単ではありません。柔軟な発想が、新しいビジネスを生むきっかけになっていくと思います。変化の多い時代で、リーダーシップのあり方も見直されています。太田CEOのリーダーシップへの期待も大きいと思いますが、何か意識していますか。

太田:心掛けているのは、相手を好きになることです。そして誤解を恐れず、聞く人の心にダイレクトに入っていく言葉を選んで、それを使う。「カラを、破ろう。」も「社長製造業」もそう。引っ張っていく方向性とか力強さを短い言葉で直接相手の心に響くように発信しています。でも基本は、いかに相手のことを真剣に考えるか。従業員にとって職場は自分の人生を演じる舞台でもあるわけですから、一人ひとりが満足できる演技ができるような舞台装置をつくることが私の仕事です。


文:廣末智子 写真:高橋慎一

  • Twitter
  • Facebook
太田 純 (おおた・じゅん)
太田 純 (おおた・じゅん)

三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長 グループCEO
1982年京都大学法学部卒業、旧住友銀行(現三井住友銀行)入行。2009年 同行 執行役員 投資銀行統括部長などを経て、2014年三井住友フィナンシャルグループ取締役、2017年副社長(グループCFO兼グループCSO兼グループCDIO)。2019年4月1日から現職。

田中 信康
インタビュアー田中 信康 (たなか・のぶやす)

SB Japan Lab / サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー
サンメッセ総合研究所(Sinc)代表
サンメッセ株式会社 専務執行役員 経営企画室長 営業副本部長
大手証券会社にて株式、デリバティブ取引業務、リサーチ関連業務、人事、財務・IR、広報部門など管理部門を幅広く経験した後、大手企業の財務・IRコンサルタント、M&Aアドバイザー、コーポレートコミュニケーション支援業務の責任者として従事。数多くの経営層との対談を含め、財務・非財務コンサルティングのキャリアを活かし、企業経営にかかわる統合思考、ESG/SDGsコンサルティング、社内浸透、情報開示の支援業務を中心に、各講演・セミナー、ファシリテ―ションなど幅広いコンサルティング業務に携わり、サステナブル・ブランド国際会議東京にてESGプロデューサーに就任し、企業と地方自治体との地方創生・地域連携プロデュースも担う。