サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
サステナブル・オフィサーズ 第27回

次の100年も社会に必要とされる企業であるためにーー中田誠司・大和証券グループ本社執行役社長CEO

  • Twitter
  • Facebook
Interviewee
中田誠司・大和証券グループ本社執行役社長CEO
Interviewer
川村 雅彦 オルタナ総研 所長・首席研究員

「世の中に必要とされる企業でないと生き残れない。SDGs(持続可能な開発目標)を旗印に、これまでやってきたこと、そしてこれからやっていくことを体系的に整理することが次の100年につながる」――。大和証券グループは今年2月、SDGs推進委員会を設置し、それに伴いSDGs推進室も新設した。5月には「Passion for SDGs 2018~大和証券グループSDGs宣言~」を発表している。一連の動きを統率し、SDGs推進委員会の委員長も務める中田誠司社長に話を聞いた。

SDGsを契機に、これまでとこれからを考える

川村:今年に入って、大和証券グループはSDGsへの取り組みを活発化されています。まず、その経緯や狙いをお聞かせください。

中田:日本は少子高齢化など様々な社会的問題を抱え、世界全体も経済成長の裏側で色々な課題を抱えてきました。その中で、アメリカや新興国と並び、日本でも社会が2極化しています。

日本ではこのような格差の広がりに対する認識が希薄でしたが、ここ数年で子どもの貧困問題が認知されるようになりました。7人に1人の子どもが貧困状態にあるというのは、私としても驚くと同時に大変ショックでした。

いずれ、そうした子どもたちが大人になって社会を形成していくことを考えると、日本の将来を見据え、今から取り組まないといけないという問題意識を持つようになりました。そうした中で、2015年にSDGsが採択されました。

当社としても、まずはこれまでの取り組みを振り返ってみました。1994年に大和証券福祉財団をつくって以来、25年間にわたる様々な支援や、2008年にはワクチン債を取り扱うなど、SDGsという言葉はなくとも同様の取り組みは実施してきていました。また1998年につくった企業理念の一つに「社会への貢献」を掲げており、企業として今でいうSDGsにつながることをやってきたことを改めて認識しました。

川村: 5月に出されたSDGs宣言を読むと、業種特性の強みに合わせてしっかり書かれていると思いました。

中田:そうですね。私が社長になった2017年は大和証券グループの115周年でした。改めて、なぜ115年間も続いているのかを考えました。やはり世の中に必要とされなければ、会社というものは自然淘汰されます。これからの50年、100年を見たとき、世の中に必要とされる企業でないと生き残っていけません。

ですから、ここでSDGsを明示的にすることで、SDGsを旗印に、もう一度、大和証券グループがやってきたこと、そしてこれからやっていくことを体系的に整理していくことが次の30年、50年、100年につながっていくだろうと思いました。

それから、もう一つ、SDGsに正面から向き合っていこうと思ったきっかけがあります。若い社員が中心になり組織する従業員組合です。昨年、従業員組合で今の社会の中でどういうことに関心があるかというアンケートをとったところ、SDGsが上位に入っていました。今の若い世代というのはわりと社会貢献ということを意識しているのだと思います。

例えば、我々の子ども時代というのは、ゴミ箱は1種類しかありませんでした。しかし、今の若い人たちの時代は、分別するためにゴミ箱が何種類もあるのです。それが当たり前です。我々は環境のために分別するということを後から教え込まれた世代ですが、今の若い人たちは、根底からそういうことが定着しています。

我々以上に、若い世代の方が、SDGsのような考え方に基づいて、企業がゴールに向かってやっていくのだ、経済的価値だけじゃなくて社会的価値との共存を目指すのだということがすんなり受け入れやすいのではないかと感じました。

「金融」「テクノロジー」「地方」

川村:若い人たちの意識については、ご指摘の通りだと思います。社内浸透も進みやすいということですね。社長として、積極的に進めていきたいと考えていることはありますか。

中田:証券会社としてSDGsの17目標の中から我々が本業を通じて、直接的・間接的に共鳴して一緒に向かって行ける目標を選び、それをやっていけばいいと考えています。非常に分かりやすい例は、ウォーター・ボンドやグリーン・ボンドなどが本業を通じて直接的に取り組めることだと思います。

川村:社会にポジティブな影響を与えられるビジネスモデルをつくり、貢献していくということですね。

中田:当社のSDGsに対する取り組みを検討するにあたり、まずは「金融」「テクノロジー」「地方」という3つのテーマをベースに設定しました。最初の「金融」は、証券事業を通して直接的・間接的に影響を与えられるものです。

「テクノロジー」は今、第4次産業革命の流れの中でAIやフィンテックといったイノベーションが生まれています。特にフィンテックは、我々が証券ビジネスをやっていく上で大きな影響を受けるものです。

フィンテックを通じて、金融のあり方や新しい仕組みを構築し、今までになかった金融サービスを提供することで、新たな経済価値を創造できます。証券業として今までできなかった、社会に貢献できる色々な新しいビジネスモデルができるのではないかと考えています。

それから「地方」です。現在、地方創生は日本全体の課題です。大和証券グループは全都道府県に支店があります。古くは100年以上前から支店を構えています。50年間、60年間にわたり支店が続いてきたということは、地方の経済・社会と共生してきたからです。

そういった意味で、地方経済と共生させていただいてきた我々として、何らかの形でお役に立てることがあるのではないかと考えています。地方創生というのは、地方自治体や地銀が積極的に関与していくべきところだと思いますので、我々はその裏側にまわって、その地域の創生に貢献できるようなことがもっとあるのではないかと思っています。

川村:地方創生は、間違いなく中長期的にわたって日本の最大の課題ですね。

中田:そうです。今まではどうしても地方の富裕層や、有価証券を運用したい人だけをフォーカスしてきました。しかし、これからは地方が力を入れているイベントなどにもお金を含め、社員も参加することによって少しでも地方経済に貢献していきたいと思います。

その一環で、去年から国体を応援しております。国体は、地方では地域の一大イベントです。今年も福井しあわせ元気国体・福井しあわせ元気大会を応援しています。今後も、地方を活性化する他のイベントにも参加していく計画です。

地域に根付いた各支店から起案してもらい、その中で地方活性化につながるイベントには、本社の予算から拠出する形をとっています。この取り組みによって、期待どおり、地方の支店からこういうイベントに参加したいという案が多く集まりました。

時間をかけ着実に魂の入ったSDGsの浸透目指す

川村:今後、どのようにSDGsを社内外に浸透させていく計画ですか。

中田:3つのテーマに関しては、今後のSDGs推進委員会で、さらに個別具体的にどういう目標を設定し、社内でどう周知させて、どのように目標達成を目指すのかを考えていきたいです。また、今後検討していくにあたり新たなテーマを設定することもあると思います。

ただ、SDGsは2030年までの目標ですから、形だけ拙速につくってもしょうがないと思っています。2年、3年かけて決めても良いと思います。

SDGsは対外的な発信だけではなく、社員に対する発信も非常に重要だと考えています。私が支店を訪問して講話をする際にも、大和証券グループはSDGsに取り組んでいくのだというメッセージを必ず入れるようにしています。何度も何度も繰り返し、伝えていくことが必要です。

社員にこういうことをやるようにと指示すると社員はやるわけです。しかしそれでは、魂が入っていません。腹落ちさせるには、時間をかけても、みんなが本当にそういうことが大事だと理解することが重要です。腹落ちの度合いというのは人によって違うと思います。何となくでも、SDGsを達成するための方向に会社は向かっていくのだなと感じてくれるようになればと思っています。

社外に対しては、宣伝としてSDGsを使うのではなく、年4回開催するSDGs推進委員会を続けて、本当に明確な大和証券グループとしての目標が設定できた暁には公表していきたいと考えています。

子どもの貧困問題

川村:SDGsに関しては、子どもの貧困問題を解決するための取り組みにも着手されています。それは、なぜでしょうか。

中田: 証券会社は、資本主義経済の象徴でもあり、資本主義経済の恩恵を受けて利益を上げています。一方で、資本主義経済や市場経済というのは、格差を生む要因となりえます。

現在の日本の貧困問題がすべて格差から生じているとは当然思いませんが、それが一端になっているのは事実です。ですから、その利益を格差によって生じた問題に対して使っていくというのは一つの方法であり、証券会社が子どもの貧困問題に取り組むというのは突飛でもなんでもありません。

2017年9月には公益財団法人パブリックリソース財団を通じて、5年間で総額1億円程度を寄付することを決めました。単にお金を出すのではなく、同財団と相談しながら、第1回目には3つの団体を選んで300万円ずつ支援しました。今後は、同じやり方を踏襲するのではなく、さらに新しい取り組みを継続してやっていこうと考えています。

CSRやCSVといった言葉に翻弄されず、企業理念を追求する

川村:CSRやCSVの基本的な考え方をお聞かせください。

中田:CSRやCSV、SDGsという言葉に合わせ、何か新しいことを始めることはありません。1998年に掲げた企業理念、「信頼の構築」「人材の重視」「社会への貢献」「健全な利益の確保」という4項目の根底には、まさに経済的価値と社会的価値の両立という考えがあります。CSRやCSVの基本的な考え方というのは企業理念のことです。ここに立ち返ってみたとき、企業理念を追求していくことがCSRやCSVにつながっていくのだと思っています。

SDGsで定めた大きな3つの項目をさらに分解して、出てきた詳細項目に対してコミットメントしていくことがまさにCSRだと思います。

マテリアリティについても、「本業を通じて取り組む」ということは、今ある既存事業や今後やろうとしている新しい事業について、経済的価値をしっかりと創出することを検討する際に、社会的課題の解決に繋がるか、社会的価値を阻害していないかということが、併せて検討材料に入ってきます。それによって生まれてきた新規事業、新規領域を実行し、将来の当社事業の新たな柱にしていく、というのがすべてマテリアリティになると思います。

川村:CSRやCSVあるいはSDGsは長期的な企業価値を考えるものです。将来あるべき姿を考えて、今何をすべきかを考えるという「バックキャスティング」には賛同されますか。

中田:そうですね。大和証券グループは3年の中期経営計画を立てています。ショートターミズムといえるかもしれませんが、我々の事業はマーケット商売なのでそうならざるを得ません。しかしその中でも、今年5月に発表した中期経営計画には、次回の中期経営計画が終了する6年後にどういう姿になっているかを見据えて、3年間で何をしていくかという視点を盛り込んでいます。

中期経営計画というのは、ある程度は対外的な意味もありますが、いかに社員に対して会社が目指している方向、ビジョンをきちっと伝えるのかということの方が重要性が高いです。そうすると、10年、20年先という風にやってしまうと、社員に伝わりづらいという問題があります。

川村:なるほど、中期経営計画はありたい姿を明確にすることですね。ところで、海に浮かぶ氷山の水面から出た部分を財務要素、水面下を非財務要素と捉え、両者を合わせて統合思考をつくるという発想があります。社長個人としては、そのような発想をお持ちでしょうか。

中田:もちろん。財務的価値を形成しているのはほとんどが非財務要素です。証券会社はモノをつくっているわけではないので、人材のクオリティであり、考え方が基礎であり、それが結果として財務的価値を創造していくわけです。

これはいわれて久しい言葉ですけれども、社長になってから改めて明示的にいっているのは「クオリティNo. 1」ということです。クオリティという定量的になかなか測りづらい価値が将来、財務的な価値につながると伝えています。

川村:おっしゃるように古典的ではありますが、それが価値を生むということですね。

お客様本位KPIをKPIの最上位に

中田:今年初めて、グループ数値目標に「お客様本位KPI」を取り入れました。「財務KPI」「業績KPI」「お客様本位KPI」の3つのうち、「お客様本位KPI」を最上位に持ってきました。フィデューシャリー・デューティーという言葉が出てきて以降、金融庁を先頭にお客様本位の業務運営を進化させようとしていることに非常に賛同しています。

お客様本位の業務運営は、最終的にサステナビリティへの取り組みです。まさに社会との共生によって、大和証券グループ自身のサステナビリティと経済的価値にも必ずつながります。そのモニタリング指標として、内部的には従業員満足度調査を採用しています。従業員が会社に対し満足していなければ、お客様に満足していただく商品・サービスを提供することはできません。

川村:投資における狭義の受託者責任は以前からありますが、「お客様本位KPI」という表現はあまり聞きません。非常にユニークな取り組みですね。

中田:新たに、お客様満足度を測るために「大和版NPS」(※注)も導入しました。「この企業を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」というシンプルな質問に対して0―10のスケールを設定して答えてもらい、お客様満足度を測ります。

これも拙速にやると魂が入らないので、NPSの導入期間を1年間設けて、117支店のうち14-15店ずつ、1か月半程度のサイクルでNPSを導入するためにどういうやり方をすればいいのか支店単位で議論してもらっています。そのために、今般の異動で40 人近い専任スタッフをつけました。この1年間で全店へのきちっとした浸透が終わるので、それを来年度ぐらいから実装化していきます。

川村:NPSは米国では比較的普及しているようですが、これには顧客セグメントはあるのでしょうか。

中田:あります。支店単位で、大和証券のコアとなっていただいているお客様を中心に導入したいと考えています。まずは、現在のNPSを測ります。それを良くするためにお客様に過剰なサービスをするというのではなくて、NPSを上げていくためにはどういう営業のやり方をしていけばいいのか自問自答し、様々な方法に挑戦する文化をつくっていきたいと思います。結果として、2年後、3年後にNPSが自然体で上がっていくことを目指します。

川村:まさにKPIとして顧客との共通の物差しができたということでしょうか。日本の金融機関の中では、とてもアグレッシブなアプローチをされていると思います。今後の成果にも期待いたします。本日はありがとうございました。

※注:NPS:ネット・プロモーター・スコアは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標。

  • Twitter
  • Facebook
中田誠司・大和証券グループ本社執行役社長CEO
中田誠司・大和証券グループ本社執行役社長CEO

1960年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。1983年、大和証券に入社。2006年、大和証券エスビーキャピタル・マーケッツ執行役員 企画担当。2007年、大和証券グループ本社執行役 企画副担当兼人事副担当兼経営企画部長。2009年、同社 取締役兼常務執行役。2016年、代表執行役副社長。2017年4月より現職。

川村雅彦
インタビュアー川村 雅彦 (かわむら・まさひこ)

前オルタナ総研 所長・首席研究員。前CSR部員塾・塾長。九州大学大学院工学研究科修士課程修了(土木)。三井海洋開発㈱を経て㈱ニッセイ基礎研究所入社、ESG研究室長を務め、現在は客員研究員。環境経営、環境ビジネス、CSR経営、統合思考・報告、気候変動適応を中心に調査研究・コンサルティングに従事。(認定NPO法人)環境経営学会の副会長、(一社)サステナビリティ人材開発機構の代表理事。論文、講演、第三者意見多数。主要著書は『環境経営入門』『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営 パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など。