• 公開日:2024.09.11
より安全な化学物質への移行を進める指標ガイドブック発行 アップルとグーグルが出資
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Image credit: Kampus Production

サプライチェーン上の有害な化学物質をより安全な代替物質に取り替えることは、持続可能なビジネスを営む上で最大の課題のひとつだ。アップルとグーグルが創設資金を出資し、より安全な化学物質の利用を促進するイニシアチブ「The Safer Chemistry Impact Fund(より安全な化学インパクトファンド)」は8月21日、産業全体における安全な化学物質の採用を測定・促進するための世界で初めてとなる指標の枠組みを発表した。(翻訳・編集=小松はるか)

報告書『Accelerating the Transition to Safer Chemistry: Establishing a Collective Vision & Impact Metrics(より安全な化学物質への移行を加速させる――共通のビジョンとインパクト指標の確立)』は、人間や環境の健全性に対する現在進行形の脅威であり、CO2排出に匹敵する、世界的な化学物質汚染という差し迫った危機に対処する複数のステークホルダーによる取り組みだ。

温室効果ガスの排出量については、多くの企業がカーボンニュートラル達成のために明確で測定可能な目標を設定している。一方で、化学物質の危険性を低減する目標を定める企業はほとんどない。PFAS(有機フッ素化合物)などの永遠の化学物質をはじめ、食品やパーソナルケア製品に使われ増加している有害な染料・化学物質、そのほかの化学的分類に対する禁止が迫っているにも関わらずだ。「測定できないものは管理できない」という古い格言が、そうした目標の欠如を言い表しているかもしれない。

報告書は、生殖問題や内分泌かく乱、がんなどの深刻な健康問題に関わる化学物質からの手間のかかる移行を進めるために、政府や非営利団体、業界の専門家の発案や意見をグローバルサプライチェーンの手引きに統合したものだ。SCIファンドは、より安全な化学物質の使用に向けた進捗状況を評価・数値化するための共通の手法を提供することで、企業が信頼できるデータと簡単に使えるツール、指標を使い、リスクを減らし、検証済みのより安全な代替品への投資を加速できるようにすることを目指している。

SCIファンドでは、今日の持続可能なビジネスの最大の課題のひとつである、サプライチェーン上で使われている有害化学物質を安全な代替物質に変えることに取り組む。報告書では、新たな基準を定め、さらに以下のような重要かつ新しい工夫をいくつか導入している。

・ケミカル・ハザード・データ・トラスト
NPO「ChemFORWARD」が管理するケミカル・ハザード・データ・トラストは、化学物質の危険性に関する実用的なデータに簡単にアクセスできるデータ保管所で、懸念のある化学物質を取り替えるのにかかるコストや時間の削減にもつながる。 

インパクト指標
データの質、有効性、イノベーション、コラボレーション、安全な化学物質の採用に関する進捗状況を追跡する6つの重要な指標がある。

・指標0
指標は0〜5まであり、0が基準値。SCIファンドは今後5年間に、少なくとも4業種で使用される化学物質の特性を明らかにし、取り組みや投資の優先順位をつける。小売業者、ブランド、調合者、化学物質製造業者は、業界としてのより広範な取り組みにつながるそれぞれの行動・目標を設定するために、この基準値を活用するだろう。

SCIファンドで責任者を務めるビル・ウォルシュ氏はこう話す。

「このような指標の公表は企業のサステナビリティの取り組みの転機となります。指標は、CO2削減の成功事例と比肩する取り組みを可能にするでしょう。私たちは現在、エネルギーに加え、プラネタリーバウンダリーや地球の健全性と調和する化学物質や化学の活用に向けた進捗状況を測定することができます」

指標はさまざまなステークホルダーにとって革新的なものになるはずだ。予測される効果を紹介する。

【産業界】
企業は化学物質の危険性を減らすために明確な目標を設定し、進捗状況を追跡し、その成果をステークホルダーに伝えることができる。また、サプライチェーン全体での協業を促進し、より安全な代替品の開発・採用を活発にする。

【投資家】
指標は、企業のESGの一環として化学物質の影響を測定するための共通の方法を提供し、投資家がより多くの情報に基づき投資決定を下せるようにする。

【政策立案者】
指標によって、より安全な化学物質の利用を促進し、公衆衛生や環境を守るために、政策立案者が効果的な規制・インセンティブを展開する上で必要となる情報を提供するだろう。

SCIファンドの諮問委員であるステイシー・グラス氏は、「科学的根拠やデータに基づく協調的努力のおかげで、化学物質の危険性を把握することや、取り扱う化学物質の数を管理できることが明らかになりました。共有されるデータは助けとなり、コラボレーションは促進剤になるでしょう。この新たな枠組みを使うことで、化学物質による汚染を体系的に減らし、いつか撲滅することができます」と語る。

SCIファンドは、これらの指標を実装し、より安全な化学物質を大規模に採用することを促進するために、セクターを超えてステークホルダーと協働することを宣言している。同ファンドは、企業や投資家、慈善団体に対し、この取り組みに参加し、健全な暮らしと調和する形で化学物質がつくられ、使われる、有害化学物質のない世界の実現に向けて貢献するよう呼びかけている。より安全な化学物質を取り入れることに関心のある組織はウェブサイトを確認し、同ファンドの責任者に問い合わせてみてほしい。メールアドレスはinfo@saferchemistryimpactfund.org.

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