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エディンバラ市、所有地での化石燃料産業の広告を禁止へ 禁止令は世界に広がるか

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Maxine Perella
Image credit: OCEAN OUTDOOR

スコットランドの首都エディンバラ市は5月、所有地などでの化石燃料製品やCO2排出量の多い製品の広告を禁じた。さらに、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は6月初旬、化石燃料に関する広告を世界的に禁じるよう呼びかけた。これは環境破壊をもたらすグリーンウォッシュな宣伝文句を封じるという社会の潮目の変化を象徴する最新の動向だ。多くの都市や政府は現在、メディアの影響力・介入という観点から、気候危機における各自の役割と、何も行動を起こさなければ誤情報の拡散に加担するリスクを抱える、メディア業界の役割を検証しているところだ。(翻訳・編集=小松はるか)

クリーン・クリエイティブズ (Clean Creatives )は広告・PRのプロフェッショナルやその顧客が参加する反化石燃料キャンペーンを行う団体で、気候の安定した未来を築くべく運動を推進している。これまでにクリエイター2200人と代理店1057社が化石燃料事業に関わる企業との新規事業を断るという誓約書に署名している。クリーン・クリエイティブズのダンカン・マイゼル事務局長は米サステナブル・ブランドの取材に対し、「グテーレス事務総長の呼びかけは未来にとって正しい道筋であり、環境を汚染する人たちは、将来的に広告を出す力がより制限されることを想定すべきです」と話す。

「私たちは今、政府予算が増大し、事業を混乱させ、一般大衆にも損害を与える気候非常事態に直面しています。問題を解決するには、責任の所在をはっきりと理解し、市民生活のあらゆる領域においてそれらの要因から遠ざかる計画的な戦略が求められています」

マイゼル氏はさらに続ける。

「化石燃料企業が広告を出すのは、広告が世論や大衆の行動に影響をもたらすことを知っているからです。それらの企業が目指すのは、主力製品であり唯一の将来計画である石炭や石油、ガスの消費を促進することです。もし広告が自社の目標を前進させると考えていなければ、企業はマーケティングに投資することはないでしょう。残念ながら、そのような策略は気候変動による災害を避けるのに求められている気候変動対策とは相いれません。この種の押し戻しはこれからも続くでしょう」

エディンバラ市など欧州の一部で対策進む

Image credit: saifullah hafeel

スコットランド・エディンバラ市は5月、化石燃料製品やCO2排出量の多い製品の広告を禁じた英国で最新の都市となった。対象製品には航空会社、空港、クルーズ船、SUV・ガソリン車・ディーゼル車などの自家用車が含まれる。この禁止令はエディンバラ市内で市議会が所有する場所のみに適応されるものだが、バス停、広告用掲示板などの公共スペース、さらに協賛イベント、市とのパートナーシップも含まれ、世界トップレベルの先進的な取り組みだと考えられる。

広告の社会への影響について関心を高めるために活動する英アドフリー・シティーズ(Adfree Cities)のキャンペーン担当ジェームズ・ウォード氏は、新しい政策は同市の指導者らが気候変動への大規模な対策を求める住民の声に耳を傾けている表れだと話す。

ウォード氏は米サステナブル・ブランドの取材に、「多くの屋外広告がバス停に掲げられており、また若者は公共交通機関を利用する傾向が高いです。ですから、この政策が炭素排出量の多い製品の広告を日常的に目にする状況を取り除き、若者に影響を与えることを期待しています」と話す。

エディンバラ市議会は新たな禁止令の論拠を明確に示しており、政策文書にはこの決定が2030年までにネットゼロを達成するという目標に整合したものであり、こうした目標を達成するには「成功に対する社会認識の転換が必要であり、広告業界は低炭素な取り組みを促進する上で重要な役割を担っている」と記載されている。

エディンバラ市の取り締まりは、リヴァプール市やノリッジ市など英国のほかの地域で行われている炭素排出量の多い製品の広告・スポンサーに制限をかけたり、禁じたりする動きに追随するものだ。さらに英サマセット州では最近、州の高速道路でのガソリン車やディーゼル車、ハイブリッド車、航空会社、空港、航空便といった化石燃料関連の広告の停止を求める新政策を導入した。

一方、欧州ではオランダのアムステルダム市が2021年、地下鉄の駅や都心での化石燃料・航空会社の広告を禁止した。国家として禁止令を出す政府はわずかだが、フランスは2022年に石油製品や石炭燃焼によるエネルギー、水素含有炭素などの化石燃料関連のエネルギー製品の広告を禁止する気候法を可決した。

「アメとムチ」、どちらが有効か

こうした禁止令が消費者の認識・行動という点から、どの程度効果的かは現時点では分かっていない。しかし一例として、ウォード氏はロンドン交通局によるジャンクフード広告の禁止令を挙げる。禁止令を導入した2019年から調査を実施した2022年までに、同禁止令によって約9万5000件の肥満を防ぎ、2億ポンド(約406億円)以上の国民保健サービスが節約できた。

「こうした政策が生む健康面での効果は、広告の減少による短期的な損失をはるかに上回る」とウォード氏は言う。

「屋外広告は孤立した空間に存在するのではありません。それは議会が改善しようと望む公衆衛生や環境といったあらゆる領域と結びついているのです。可能な限り、炭素排出量の多い暮らしに代わる、より良い暮らしを支援するために取り組む議会が、増えれば増えるほど良いのです」

戦略コンサルティング企業Ape(エイプ)Good Briefs(グッド・ブリーフス)の創設者マーク・シェイラー氏は、自社をグリーンウォッシュやグリーンウィッシング(サステナビリティ目標を掲げながらも、達成に必要なリソースや戦略がない)、グリーンハッシング(サステナビリティ情報の公開を控えること)への解毒剤となる、新しいクリエイティブエージェンシーだと称する。米サステナブル・ブランドの取材に対して、こうした種類の禁止令は、化石燃料関連の製品の常態化を防ぐのに役立つと話す。しかし、彼は行動変容を生むことに関しては最終的に「アメの方がムチよりも強力」と考えている。「こうした製品のない、より良い世界や都市、暮らしを見せましょう。より良くなることを想像させることが私が最初にとる方法です」

こうした考えに対し、「クリーン・クリエイティブズ誓約」に署名するPR・マーケティング会社アリソン(Allison)のエグゼクティブ・バイス・プレジデントであるホイットニー・デイリー氏は同調する。彼女は化石燃料関連の広告にかけるのと同じエネルギーや投資を、直ちに実行可能な代替案に向け直すべきだと考えている。

「化石燃料企業を批判するよりも、おそらくより重要なのは“裏面”、つまり化石燃料からの転換を通じて達成できる、より環境に配慮し、健全で公正な未来について話す必要があるということです。私たちはこうしたメッセージを強化する必要があり、世界の指導者やビジネス業界のリーダー、有名人、アスリートにもメッセージを強化してもらう必要があるのです」