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セメントのサーキュラーエコノミー市場、2050年までに最大で15.5兆円規模に

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Image credit: Rodolfo Quirós

マッキンゼー・アンド・カンパニーはこのほど、セメントの循環型バリューチェーンに関する報告書を発表した。報告書によると、資源を循環利用してセメントやコンクリートを生産・再利用することで2050年までに最大約1100億ユーロ(約15兆5000億円)の経済価値が生まれ、20億トンのCO2排出量を削減・緩和できる見込みだという。

これを実現するには、セメントやコンクリートの生産過程で排出されるCO2の回収・有効利用・貯蔵(CCUS)や、廃棄物から生じるエネルギーの再利用、建築物・構造物の資材や鉱物の再循環が必要となる。報告書は、資源循環型の技術を取り入れることでセメント、コンクリートに関連するすべての排出量を2050年までに80%脱炭素化できると予測する。

マッキンゼーのユッカ・マクシマイネン氏(グローバルエネルギー・マテリアルプラクティス部門のグローバル共同代表)は、「セメントやコンクリートに資源循環の原則を取り入れることで、建築物・構造物の脱炭素化に寄与するだけでなく、莫大な経済価値も生み出すだろう」と話す。

「セメント産業は、CO2や資材、鉱物、エネルギーの循環をつくり出す最適な立場にある。循環型の技術は2050年までに既存のソリューションよりも利益を生み出すようになるだろう。実際、すでに一部の技術はそうなっている。また、これにより世界的に建築物・構造物の建設や保守管理の過程で発生するCO2排出量や固形廃棄物の30〜40%を大幅に削減できるだろう」(マクシマイネン氏)

セメントとコンクリートは建築物・構造物の要だ。その需要は都市開発が盛んになる中、過去20年でおよそ3倍に増加した。コンクリートは水に次いで地球上で最も消費されている素材の一つでもある。コンクリート産業のCO2排出量は世界全体の8%を占め、固形廃棄物の30〜40%は建築物・構造物の建設と保守管理の過程で発生している。

報告書は、循環型の原則を取り入れることで、価格上昇によるセメント産業の損失の半分以上を相殺できると推測する。また、炭素価格や埋め立て費用、脱炭素関連の補助金が増えることで、資源循環技術の採用がこれまで以上に加速するだろうとみている。

Image credit : Joel Filipe

報告書は、2050年までに建築資材や鉱物のリサイクル、再利用だけで年間約800億ユーロ(約11兆2700億円)のEBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益のこと)が生まれ、コンクリートモジュールと構造物の再利用によって正味価格で約240億ユーロ(約3兆3800億円)の経済価値が生まれると明かしている。また、代替燃料のシェアは2050年までに世界平均で43%に達することが予想され、高い埋め立て費用や建設・解体廃棄物をかかえる地域は、廃棄物から生まれる代替燃料の利用により大きな利益を得られるだろう。

マッキンゼーのセバスチャン・ライター氏(グローバルエネルギー・マテリアルズのパートナー)は、「セメントやそのほかの産業の企業は循環型ビジネスの構築に取り組み、高まる金融リスクに対応するために資源循環技術を活用すべきだ」と話す。

「炭素価格や埋め立て費用の上昇に伴う予想最大損失額は、合計で約2100億ユーロ(約30兆4600億円)に上るとみられている。これにより資源循環技術の採用は大幅に加速するだろう。例えば、われわれの調査では、生コンやプレキャストコンクリートの養生などのCO2を有効利用する技術は、炭素価格で二酸化炭素1トンあたり約80ユーロ(約1万1500円)となり、プラスの経済価値を生み出せることがわかっている。一方、建設廃棄物をコンクリートの骨材(砂利や砂)として活用することで埋め立て費用の削減にもなる」

現在、多くのイノベーターが資材の環境への影響を低減するのに役立つ将来性のある解決策を生み出そうと取り組んでいる。こうした取り組みには、粘土を使用したコンクリートや、生物・生態系を向上させる海岸インフラ用のコンクリート、水の代わりに回収したCO2で硬化させるセメント、従来のセメントよりもCO2排出量を60%、費用を10%削減できる回収したCO2から作った新たなセメントなどが含まれる。

このほかに期待される技術としては、建設・解体廃棄物の再炭素化を向上させるためのCO2の活用、道路建設用砂利への廃棄物の再利用、エネルギー廃棄物からつくる代替燃料の利用などがある。マッキンゼーは、セメント会社が各地域で高まるビジネスリスクに対応し、廃棄物のデジタルマーケットプレイス(調達のためのオンラインプラットフォーム)や資源循環型技術の利用といった循環型のビジネスモデルを取り入れることで環境への負荷が低減できるとしている。

マッキンゼーは、企業がこうした機会を生かすために2つの重要な取り組みを提案する。

①循環型ビジネスの構築に取り組む。具体的には、廃棄資材のデジタルマーケットプレイスの利用、循環型の設計・標準化を促進する技術の活用、顧客中心で循環型のビジネスモデルの構築などが考えられる。分野横断的な連携によって、水素製造やさまざまな消費者製品の原料としてCO2を使うなど、他の産業でのCO2の利用も実現する必要があるだろう。

②高まる金融リスクに対応するために循環型技術を活用する。地域ごとに異なる炭素価格や埋め立て費用、規制の枠組み、各地で利用できる廃棄物の量に基づいて、費用と便益を考えること。また、低炭素建設資材のオフテイク契約(長期供給契約)を実現することで、世界各国で循環型製品が利用できるようになる。実際にこうした流れは生まれており、10カ国の中小規模の建設会社100社以上が国連の「Race to Zeroキャンペーン」に参加したり、2024年に開催されるパリ五輪でもサステナビリティ基準に則った建設資材の使用が求められるようになっている。