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香港のスタートアップ、3Dプリンター製のサンゴ型タイルでサンゴ礁の回復に取り組む

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Scarlett Buckley
Archireef

気候変動の影響により、日本を含む世界でサンゴ礁の白化現象が加速している。そうした中、香港のスタートアップ「アーキリーフ(Archireef)」は2016年から、3Dプリンターで製造したサンゴ型のテラコッタタイルを使って、サンゴ礁の生存や成長を促進することで、世界的なサンゴ礁の回復に取り組んでいる。アーキリーフの共同創設者兼CEOのヴリコ・ユー(Vriko Yu)氏に話を聞いた。

急がれるサンゴ礁の回復

多様な色や構造、形を有するサンゴ礁は地球を持続可能にする上で重要な役割を担っている。サンゴ礁の面積は海底面積の1%に満たないが、海洋生物の25%以上に生態系を提供し、数百万人の仕事を生み出し、嵐や侵食から海岸線を保護するほか、地域の人々に貴重な食料源を供給している。

こうしたサンゴの劣化や消滅が進んでいることは警戒すべきことだ。気候変動や乱獲、さまざまな汚染、海水温度の上昇、酸性化は過去10年間で世界のサンゴ礁の14%を死滅させた。思い切った措置がとられなければ、2050年までに90%のサンゴ礁が消滅すると予測されている。

国連は2020年代を「生態系回復の10年」と位置づけ、サンゴ礁を含む地球の生物多様性の重要な源泉を回復させようと取り組んでいる。企業の取り組みとしては、アドビ(Adobe)とパントン(Pantone)がサンゴが水温上昇から身を守るために蛍光発光した際の色の見本を発表し、色の利用を呼びかけることで、サンゴ礁の危機を伝える啓発活動を行った。ドラッグストア大手CVSヘルスなどはサンゴ礁に有害なオキシベンゾンなどを含む日焼け止めの販売を禁止。さらに、デンマークの洋上風力大手オーステッドは、岸に打ち上げられたサンゴの余剰卵を採取し、風力発電タービンの土台で健全なサンゴ群体を育てる試みを行っている。

バイオミミクリー技術を用いて、サンゴ礁の回復を目指す

アーキリーフCEOの ヴリコ・ユー氏

アーキリーフは2016年、香港大学の海洋生物学者でCEOのヴリコ・ユー氏と、同じく海洋生物学者で生態学・生物多様性の准教授であるデイビッド・ベイカー氏が設立した会社だ。サステナビリティ・気候変動に関する重要な課題を解決するためにバイオミミクリー(生体模倣)の技術を用いるスタートアップの中でも成長をみせている。

ユー氏は米サステナブル・ブランドの取材に起業のきっかけをこう語った。

「私はダイビングをよくするので、自然との繋がりを強く感じてきました。そんな中、サンゴ礁がわずか2カ月で消滅するのを目の当たりにし、何ができるだろうかと考えるようになりました。科学を専攻していて、サンゴ礁の消滅については知っていましたが、こんなにも早く起きるとは予想していませんでした。それ以来、サンゴ礁の回復を加速させる方法を探し続けています」

ユー氏らは、海洋生物学者やコンピューター科学者、デザイナーのチームと共に、3Dプリンターで製造したテラコッタ(素焼き)のタイルを使い、サンゴが育つための快適な環境を作り出すことで海洋生態系の回復を加速させる画期的な方法を見つけ出した。開発した人工のサンゴ型タイルは、既存の回復方法よりもサンゴ礁の回復効果が4倍高く、生存率は98%に達すると説明する。

「サンゴの生存のために、海底にタイルを敷きインフラを構築しています。サンゴは自らを美しく形成する最高の建築家です。その基礎部分となるタイルを海底に置くことで、かつて存在していた場所を再生するための土台を準備するのです」

タイルを設置した後、サンゴや他の海洋生物を植え付けるという。

Archireef

タイルの形はノウサンゴ(脳の形に似たサンゴ)を模して設計されている。これにより、サンゴの主なストレス要因である沈殿物を防ぐことができ、沈殿物によって窒息することもなく、餌を食べ、成長し、繁殖する力も維持されるという。「波の動きが増えることで微小な乱流が発生し、タイルを洗い流し、表面に蓄積した沈殿物を取り除くのです」とユー氏は言う。

ノウサンゴの形状は海洋生物にとっても魅力的だ。海洋生物は曲がりくねった谷や隙間を使って捕食者から身を隠すことができるからだ。タイルのデザインは、さまざまな環境に合わせて3Dプリンターを使って調整・変化させることが可能だ。

粘土を3Dプリンターを使って形成した後、1125度の窯で焼いているのだが、テラコッタを選んだのは、環境に配慮したやや酸性の素材で、実際のサンゴに化学構成が似ているためだ。

「コンクリートや金属のような素材は水素イオン濃度(pH値)がとても高く、サンゴの成長を阻んだり、有害な化学物質が水中に溶け出すこともあります。テラコッタを選んだのはいたって単純で、サンゴやサンゴ礁に住み着く生物が好むと思われる素材だからです」

Archireef
Archireef

タイルは水流に流されないようにある程度の重量があるものの、認定のダイバー1人で海底に持ち運べる重さに設計されている。さらに六角形に設計することでタイルを繋ぎ合わせることができ、安定感や拡張性もある。アーキリーフは、紫外線や熱波からサンゴを守るために、深海にタイルを移動させ、配置することでサンゴが白化することなく、より良く成長できることを発見した。

「タイルを使った最初の実験は香港で行いました。タイルを海底に配置してから、サンゴの白化は起きていません。実際、この夏に局地的に白化することがあったのですが、私たちのタイルのサンゴは深海にあるため問題ありませんでした」

最初の研究プロジェクトは2016年、農水産業保全局と連携し、香港の海下湾海岸公園で始まった。2020年に完了し、現在は40平方メートルにわたり128個のサンゴ型タイルが海底に設置されている。公園内のビーチや島、湾など3カ所がサンゴを回復するためのタイルの設置場所として選ばれた。

アーキリーフは、タイルの設置後も長ければ5年間はその場所を管理しながら、サンゴ礁の成長や生物多様性、その効果を測って数値化するという。年末には、アラブ首長国連邦で次のプロジェクトに着手し、アブダビに20平方メートルのサンゴ型タイルを設置する計画だ。アーキリーフは今後、さまざまな産業のクライアントと連携し、サンゴ礁の回復を世界的に促進していきたいと考えている。