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アドビやパントン、珊瑚の「色彩」で訴える環境保全

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米サステナブル・ブランド編集部

色彩のヒントは蛍光サンゴの危険信号

アドビと、色の見本帳で有名なパントンは、新たな技術で色彩を開発した。米国の非営利団体The Ocean Agencyが発表したサンゴ礁を守るキャンペーン「Glowing Glowing Gone―光を放つサンゴたちの叫び」では、この色彩が活用されている。

2016年に、The Ocean Agencyのチームは、Netflix独自のドキュメンタリー番組「Chasing Coral」の撮影中に、自然界で最も珍しく不思議なシーンに遭遇した。ニューカレドニアにあるサンゴ礁が、海中の日光照射を受けて信じられないほど鮮明な色に発光していたのだ。サンゴは水温の上昇から身を守る最後の防御策として、明るい色の「日焼け止め」のような役割の化学物質を作りだす。この「蛍光の発光(fluorescing)」と呼ばれる発光現象は、実はサンゴ礁を含む環境システム全体に大きな危機が迫っていることを示している。しかし今まで誰も気に留めてこなかった。

The Ocean Agencyは、有力な海洋保全団体の国際サンゴ礁イニシアチブや国連環境計画、ポール・G・アレン・ファミリー基金と協働し、2020年に行われる生物多様性に関する政府の会議に照準を合わせ、サンゴ礁保全のためのさまざまな支援を視覚的に紹介している。

「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES:Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)」の最近の報告に加えて、サンゴ礁の破壊も生物多様性の地球規模での喪失を示している。

「世界のサンゴ礁の未来は大変危ぶまれる状態です。海洋生物だけでなく、数百万もの人々の食料や生活、海岸の保護を、サンゴ礁に依存しています。地球に住むすべての人々が、この世界の主要なエコ・システムのひとつを失いかけていると認識し、サンゴ礁に及んでいる危険を知るべきです」と国連環境計画のサンゴ礁の専門家、ガブリエル・グリムスディッチ氏は言う。

サンゴ礁は巨大な「エコ・システム」

世界中のサンゴ礁は、地球温暖化、気候変化、海洋酸性化などの変化にとても弱く、人為的なストレスである汚染、乱獲、沿岸開発からも保護する必要がある。気候変化によって発生する熱の93%は海洋の上層で吸収される。そこに生きるサンゴは環境破壊のまさに最前線にいるのだ。私たちは過去30年間で、地球上で生きているサンゴ礁の半分を失った。そして、サンゴ礁に関する今後の見通しも暗い。サンゴは生物全体の根幹を担う生物だ。10億人の人々、100万種類もの生物、そして、4分の1の海洋生物を支えていると言われる。サンゴ礁が死ぬと、全ての生態系が崩壊する可能性が出てくる。サンゴ礁は、年間、およそ3750億ドルもの経済価値がある。

「国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change :IPCC)」の科学者の予測によると、サンゴ礁というエコ・システムに既に取り込まれている熱のせいで、現在のサンゴ礁の中では変化に強い10-30%しか救えない状況にあるという。保護するためには、早急に汚染や乱獲などから守る対策を実行する必要がある。特に最も生き残る可能性のある、環境変化に強いこれらの種類に絞って対策すべきだろう。

サンゴ礁が環境変化による長時間の熱波に晒されると、白く変色して死んでしまうことは知られてきた(白化現象)。しかし、サンゴが白く変色する過程で、明るく発光する現象に関してはまだまだ知られてはいない。

サンゴ礁にとって最も危険な環境問題は、海洋の温暖化だ。海は人間の身体のように複雑で壊れやすい。少しの気温上昇が重要なシステムのシャットダウンに繋がる。光り輝くサンゴ礁は、システムがシャットダウンしていることを明確に表す、海からの最終警告である。

「Glowing Glowing Gone―光を放つサンゴたちの叫び」キャンペーンのために、アドビとパントンはニューカレドニアで撮影された写真を分析し、サンゴ蛍光の正確な色を突き止め、新しく3色の「蛍光」カラーを産み出した。Glowing Yellow、Glowing Blue、Glowing Purpleは、長期間のキャンペーンの中で視覚的に重要な役割を果たしていくだろう。クリエイティブ業界のブランドやさまざまなアーティストとともに、サンゴ礁の危険な状況を広く知らせ、保護活動が動き出すことを狙っている。

「この明るい色は、サンゴ礁だけでなく、地球にとって来るべきところまで来てしまったことを示しているのでしょう。人間の歴史の中で初めて、地球の主要なエコ・システムを失うかもしれないと言う事態に陥っています。全世界レベルでの早急な対策なしでは、防ぐことはできません」とThe Ocean AgencyのCEOであり創設者のリチャード・ベバーズ氏は言う。

「Glowing Glowing Gone―光を放つサンゴたちの叫び」キャンペーンに先立ち、パントンは「カラー・オブ・ザ・イヤー 2019」にPANTONE 16-1546 Living Coralという色を選出している。生きたサンゴの、明るく柔らかいオレンジ色だ。

「Living Coral色は自然界の美しさと、環境を保護する重要性の観点からカラー・オブ・ザ・イヤー 2019に選出されました。Living Coralの美しさは皮肉なことに、だんだんと死に行くサンゴ礁から発色されています。色彩を利用したサンゴのSOS信号です。『私達を見て、気づいてくれないと消えてしまう』と言っているようです。この魅力的で、活力のある色彩は、環境危機を象徴する色だと思います」とパントンのバイス・プレジデント、ローリー・プレスマン氏は語った。

​ブランドの役割とは

Adobe Stockの2019年の検索トレンドに「声を上げる企業」という言葉がある。ブランドは、たださまざまな運動に関わるだけでなく、運動自体をけん引することに積極的になりはじめている。海洋プラスチック問題に取り組むイニシアチブが示しているように、多くのブランドが環境保護に関わる運動を開始している。

「文化や環境、未来にとって何が重要かを多くの人が認識するきっかけは、クリエイターたちの手で物事が人の目に留まるようにすることから始まると、アドビは考えています。色彩は重要なトピックのシンボルになり、ブランドが運動に関わる上でさまざまなコネクションを生み出す役割を果たします。ピンク色が乳がんに関する研究を象徴する色となったのが一つの例でしょう。The Ocean Agencyとパントンに加わり、海の重要性とその現状を伝えながら、サンゴ礁が示すカラフルな危険信号を世界の人たちに伝える活動を展開できることを喜ばしく思っています」とAdobe Stockのディレクターであるブリアナ・ウェットローファー氏は言う。

クリエイターにとってのチャレンジ

光を放つ色彩を使用して、注目を集めるデザインやアートを通してサンゴ礁からの訴えを表現する。「Glowing Glowing Gone」キャンペーンは、クリエイター達にとっては、そのような挑戦とも言える。製作されたアートは、世界的なサポートを得るために紹介され、重要な政策を決める会議で展示される予定だ。