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気候危機と健康危機に同時に対処するには 英NPOらがガイダンス公表

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Photo by Filip Mroz on Unsplash

気候危機への対処と同時に、それに伴って高まる健康リスクにも対処すべきではないかーー。英非営利団体フォーラム・フォー・ザ・フューチャーと大手保険・医薬品メーカー4社は、気候危機と健康危機に同時に取り組む方法を提言する企業向けガイダンスを公表した。5者は、産業界や政界、金融界に対し、危機への対処を加速させると共に、気候と健康の課題に同時に取り組むことは新たなビジネスチャンスも生み出すとしている。

フォーラム・フォー・ザ・フューチャーと、医療保険のブパ(Bupa)、消費者向けヘルスケア製品のヘイリオン(Haleon)、日用・医薬品のレキットベンキーザー(Reckitt)、ドラッグストアのウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance)の4社は今年7月、健康と気候システムの変革を同時に加速させるために「Climate and Health Coalition(気候変動と健康のための連合)」を立ち上げた。ガイダンスは、同連合の参画者らが2021年11月に発行したレポートを改訂したもので、前回に引き続き、地球の健全性と人間の健康が本質的に結びついており、新鮮な水や清浄な空気、安定した気候なくして健康の増進はないことを強調している。

フォーラム・フォー・ザ・フューチャーのサリー・ユレンCEOは、「死に行く地球で人は成長できない。世界中で、前例のない深刻な熱波、農作物や食料供給を壊滅させる干ばつ、大気汚染の深刻化、破壊的な森林火災や洪水が起きている。われわれは昨年、気候危機への取り組みが健康危機への取り組みにもつながる“コベネフィット”を実現するネットゼロ戦略を立て、民間セクターが連携することが早急に必要だと強調した。その後、いくつかの進展はあったものの十分とは言えない。新たなガイダンスは、企業が迅速に取り組み、前進するための手助けになるだろう」と語る。

分野を横断した5000以上の論文からの知見を踏まえ、アフリカ、欧州、米国の企業・NGO・科学者・慈善活動家・政府の諮問委員などからの意見や情報を考慮して作成したガイダンスは企業などに対し以下を提言する。

○ 企業
・排出量を削減し、大気の清浄化に取り組む
・安全で清潔で、持続可能な建物へ投資する
・従業員や顧客に持続可能な環境・健康のために自分たちでどんなことができるかを伝える
・気候変動と健康への影響を考慮して製品を設計する
・自社の影響力を活用し、より社会的に公正で生態学的にもリジェネラティブな経済を主導する
・サプライヤーと連携し、CO2排出量を削減し、生物多様性を保全し、自然を基盤とした解決策への投資など気候適応策を推進する
・学界などを巻き込み、利益のみならず社会や環境にも恩恵をもたらす新たなビジネスモデルを生み出す
・気候と健康の危機によりもたらされる総合的なリスクについてステークホルダーを教育する

○ 投資家・慈善活動家
・気候変動による健康への影響の解決に積極的に取り組むことは、経済と健康の両方に大きな利益をもたらす賢明なリスクマネジメントであることを認識する
・対策をとらないことの総合的リスクを知ってもらう。リスク報告書に健康へのリスクを追加する
・ESG商品や生態系サービス市場、グリーンローン・グリーンボンド市場など、既存の市場のイニシアティブやインセンティブに健康課題を組み合わせられないか見極める

○ 政策立案者・公共部門
・環境や健康を害さなければいいという考えを超え、ネットポジティブになることを目指し、補助金や調達などの公金の使い方を転換する
・費用対効果を高めるため、健康や気候、自然に関する課題への対応を取り組みに統合する

ガイダンスは、こうした部門のほか食品やテクノロジー、建築、ヘルスケア分野に対しても詳細な提言を行っている。

気候変動が健康にもたらす影響とは

気候変動による健康への影響には急性的影響と慢性的影響の両方がある。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると、洪水や熱ストレス、干ばつといった深刻な気象現象は人々の健康に急速かつ壊滅的な影響をもたらし、緩やかな気温上昇は非感染性疾患と感染症の両方を悪化させ、長期的な影響をもたらす可能性がある。

気候変動を招く要因自体も健康問題を引き起こす。石炭火力発電所や輸送、産業から排出される大気汚染によって年間数百万人が健康状態を悪化させている。森林破壊は水の供給に悪影響をもたらし、土壌の栄養は激減し、感染症のリスクも高まる。Sustainable Brands Japanに昨年掲載した記事「気候変動がもたらす健康への影響が深刻化 米国では医療費が年間90兆円超に」で取り上げた通り、NRDC(天然資源防護協議会)などが2021年に発表した報告書『行動を起こさないことの代償:化石燃料と気候変動による国民の健康に関する経済負担』によると、気候変動と大気汚染に起因する医療費は年間8200億ドル(2022年11月時点約115兆円)を超えると予測されている。

ユレンCEOは「気候変動と健康の課題に同時に取り組むことは、構造的不平等の解決にもつながる。気候変動により最も影響を受けているコミュニティの人々は往々にして医療を受ける機会も少ない。健康にも良い影響をもたらす気候適応策を考えることは、すべての人にとってより良い公平性をもたらすことになる」と語る。

ヘルスケア関連の企業は、気候変動による健康への影響について他社に情報提供し、適切な行動をとる重要な役割があると参画する企業は言う。

ブパグループでサステナビリティの責任者を務めるグリン・リチャーズ氏は、「ヘルスケア企業は自社の環境への影響を低減するだけでなく、変化を起こすために他者を巻き込んでいく主導者的役割を果たす責任がある。すべきことは多くあり、一社ではできない。だからこそパートナーと連携し、行動を加速させるのだ。このレポートが他社の取り組みを促し、その手助けになれば」と語る。

WHO(世界保健機関)によると、毎年約1300万人が環境問題に起因する健康リスクにより亡くなり、世界人口の約99%が汚れた大気を吸い、4人に1人が安全に管理された飲み水にアクセスできていないという。飢餓問題に取り組む人道支援団体「Action Against Hunger」は、31億人以上が十分に安全で栄養のある食事ができていないと予測する。

レキットベンキーザーでサステナビリティの責任者を務めるデイビッド・クロフト氏も「地球の健全性と人の健康との関係はもはや無視できるものではない。企業は研究やイノベーションに投資することで、水不足から昆虫が媒介する疾病に至るまで、高まる健康への脅威に事前に対処することができ、ブランドや製品は人々の健康を守れるのだ。気候変動と健康という相互に関連する危機に対処する唯一の方法は、連携してソリューションを推進することだ」と話している。