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英政府報告書、自然資本を各国の経済成長の指標に GDP重視は持続不可能

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Photo by Leung Kwok Tung Ktleung from Pexels

英国政府は今月初め、「生物多様性の経済学:ダスグプタ・レビュー」に関する調査を発表した。報告書は、政策決定者に生態系の評価を行うよう求め、GDPは持続不可能な成長を促すと指摘している。自然界の破壊を確実に阻止したければ、世界中の企業や政府は、経済成長を「成功」の尺度として捉えることを考え直さなければならないという。(翻訳=梅原洋陽)

2019年に英国政府が依頼するかたちで始まった「生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー」(The Economics of Biodiversity: The Dasgupta Review )に関する調査は、ケンブリッジ大学の経済学者パーサ・ダスグプタ氏の主導で行われた。ここでは、人の手によって進む、生物多様性の生産力、回復力、適応力の減少を元に戻すための重要な勧告が行われている。そして、生物多様性の歴史的衰退によって経済や生活が危機にさらされていると警鐘を鳴らす。

今回の研究は、環境保護団体が長年行ってきた、「人類は自然資本を管理できておらず、人類の自然に対する需要は、今や自然の供給レベルを超えている」という主張を裏付けるものだ。調査は、保護地域の拡大と質の向上、「自然を活用した解決策」に対する投資の増額、自然資本を傷つける消費をなくす政策の創出、そして向上を求めている。さらに、自然資本会計と生態系からの恩恵の適正評価を、すべての国の国民経済計算体系に組み込むことも求めている。

「2021年は、加速する生物多様性の衰退傾向を食い止め回復させられるかが決まる、非常に大事な年」と、英国のボリス・ジョンソン首相は言う。

「私はダスグプタ教授の調査を支持します。この調査により、自然の保護と改善のためには、強い意志だけでは足りないことが明らかになりました。連携し、調整された行動が必要なのです。COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の共同主催者として、さらに今年のG7の議長国として、英国は世界的議題のまさに第一に自然環境があることを確認します。まずはパンデミックの中で、私の『Ten-Point Plan(グリーン産業革命のための10カ条)』を進め、わが国のグリーンな復興をこれまで以上に行うことで例を示し、リードしていきます」

ダスグプタ教授の調査はまた、国民総生産(GDP)を基準として用いないように求めている。より正確で包括的な豊かさの測定への転換を目指し、今日の経済計算に自然資本を組み込んだ、新たな指標の確立を求めている。

自然資源の供給力に合わせ、需要の再調整が必要

「真に持続可能な経済成長・経済発展とは、自然資源の供給力にあわせた私たちの需要の再調整が長期的な繁栄のために必要である、と認識することです」と、ダスグプタ氏は言う。

「また、社会のあらゆるレベルにおいて、自然との関わりで生じるすべての影響を考慮することも必要です。そうしなければどうなるかが、新型コロナウイルスの出現によってわかりました。自然はわれわれのすみかです。いい経済をつくるには、自然をよりよく管理しなければなりません」

周知の通り、生物多様性が生命の寿命に果たす重要な役割についてはここ数年、ビジネス界でも盛んに取り上げられてきた。人類が大規模な軌道修正を行うための、野心的で有望な取り組みが立て続けに行われている。

2017年には、英ナチュラル・キャピタル・インパクト・グループ(Natural Capital Impact Group:ケンブリッジ大学サステナビリティ・リーダーシップ・インスティテュート内)が、経営判断の参考にしてもらう目的で、企業が生物多様性、土壌、水の質や量に与える影響に基づいた「健全な生態系指標」を編み出した。

2019年には、保全科学者の一団、NGO、先住民族の指導者が、相互関連している生物多様性の損失と気候変動の問題に取り組むため、陸地と海洋の少なくとも50%を保全する「Global Deal for Nature(自然のための国際取り決め)」を採用するように政府に訴えた。また、アドビとパントンは発光するサンゴ礁が警告する世界の危機を強調した「Glowing Glowing Gone―光を放つサンゴたちの叫び」運動に参画した。さらに、影響力のあるさまざまな国際団体が「ビジネス・フォー・ネイチャー(Business for Nature)」連合を結成し、自然と人と経済の関係を明確に理解し、すべての経済セクターおよび経営判断に統合することを目指している。

経済をどう測るべきか

一国のGDPを人の福祉(幸福)を測る指標とみなすことは長い間、誤りだと議論されてきた。GDPは単なる経済規模の指標であって、幸福を測るものではないからだ。長年にわたり、幸福度を測るためのより良い代替案として、GDPに代わるいくつかの指標が案として示されてきた。その中には、持続可能経済福祉指標(ISEW)、真の進歩指標(GPI)、国民総幸福量(GNH)、人間開発指数(HDI)、包括的国民総生産などが含まれる。これらの指標は、「独自の方法で経済の規模を測る」または「経済規模は測定しないが、独自の基準で経済を評価する」ものである。

2017年、Center for Sustainable Organizationsの創設者であるマーク・マッケルロイ氏は、総合的資本充足度(ACS:Aggregate Capital Sufficiency)とよばれる、経済全体のパフォーマンスを測定・報告する新たな方法を提唱した。これはマルチ・キャピタリズムの考え方を拡大し、一つの経済的資本のみでなく、すべての重要な資本(自然的、人的、社会的なものなど)のインパクトから経済動向を解釈する、新たな考え方だ。ACSは、経済の規模やその経済を回す人間の幸福度だけでなく、経済のサステナビリティも測定・報告することを可能にした。

WWFは2020年、2050年までに世界の生物多様性の損失に決着がついていなければ、世界経済に約10兆米ドル(約1060兆円)規模の打撃を与えると予測している。この1年間で、ケリングやP&G、ティンバーランド、ウォルマートといった世界的企業が、サステナビリティ戦略に生物多様性を保護、再生するコミットメントを組み込んだ。しかし、肝心の変化を確実にもたらすには、政府がこうした考え方を受け入れることが必要になる。